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彼とあの子
綺麗なあの子と思い出の僕
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あ、また眉を寄せてる。綺麗な顔なのにもったいない。
近寄ってその顔をまじまじと見るのだけどあの子は気にすることなく僕を見つめる。何を考えているんだろう。
声をかけた瞬間、猫のようにピャッと跳ねて驚くもんだからこっちがビックリする。
僕が近付いたことも気付いてなかったんだ。
僕って影薄いかな?
あの子は何事もなかったかのように淡々となんですかって聞くもんだから、ちょっと意地悪して今の話、君はどう思う?って聞いてみる。それでサラサラっと答えるところがなんだか面白くて可愛いなって思った。
話は聞いてるんだ。端に居ないで一緒に話せばいいのに。
あの子は自分のこと地味だとでも思っているんだろうか。そんなことないのに。
むしろ顔立ちやオーラだけで言えば目立つなんてもんじゃない。
少し幼さの残る涼しげな顔は形の良い輪郭に寸分の狂いもなく乗せられていて、それぞれのパーツもとても丁寧に作られたんだろう。長いまつげに縁取られた深い緑の瞳。スッと通った鼻梁に固く結ばれた薄いピンクの唇は透き通るような白い肌に蕾のように映える。
更に育ちも良いのか所作の一つ一つが流れるように綺麗だ。なんと言ったっけ、立てば何とか座れば何とか、歩く姿は何かの花。全くもって覚えていないけどその言葉があの子にぴったりなのは知っている。
あの子はよく人の目を引き付けておいてそれに気づくとさらりと躱し、気づかないとより深く入れ込ませるように無意識に魅せる。
分かっているようで分かっていなくて、それでいて人を寄せ付けないようにする様はまるで猫のよう。それもまだ未成熟な成猫になりきれてない仔猫。
本人は大人だと思い込んでいるから余計なプライドも相まって、つけ入る隙が多くて困る。
僕はあの子のことが好きだったのかって聞かれたら答えは考える間もなく是だろう。
それほどあの子は魅力的だった。
もしかしたら今はあれ以上に魅力的な人になっているかもしれない。今ならあの頃のようなしがらみもなく恋仲なんかにもなれるかもしれない。
そんな邪な思いが全くなかったとは言えないが、でも理由もなく欠席とは少し酷くないか。
クラス同窓会の便りの往復葉書。幹事である僕の手元に帰ってきたそれはいずれも出席か欠席のどちらかに丸がつけてあり、近況の欄に欠席の理由を書いているものもある。寧ろあの子以外の欠席者はマメな者ばかりなのか、全員どこかしらに理由を添えている。
「……あの子がクラスで一番真面目だったのに………」
思わず出た言葉は驚くほどに弱々しく、あの子の返事が本当に残念だったことに気付く。
せめてあの子自身の言葉が欲しかった。今はどんな仕事をして、どうしているのか。女々しいとは思うけど、あの子に少しでも近づきたかったんだ。
学生の頃は大の仲良しとまではいかないけど、ただのクラスメートと呼ぶには仲が良すぎるといった具合だった。それなりに話もするし、互いに色んな表情を見たし、見せた。
あの子はよく、僕のもとに訪れては悩みを打ち明けていた。ちゃちゃも余計な言葉も言わない僕は愚痴を言いやすかったのだろう。本当は何も言えなかっただけなのだけれど。
それでも信頼する相手として選ばれていたことはとても嬉しく、誇らしかった。
はぁ…と力なく息を吐いて、机の上に乱雑に撒かれた葉書たちを集め名簿に出欠を記入していく。静かな部屋にはシャーペンが紙を滑る音しか聞こえない。
葉書を眺めると丸だけで結構性格が出るなと少し懐かしくなる。
字が汚かった少年も一所懸命頑張ったというような少し緊張した文字で僕の名前の下に様を付けている。
自己中心的だった少女は人の前に立つ仕事だからと周りを見るようにしているらしいが近況は同窓会での要望ばかりで彼女らしい。
話がうまかった少女も相も変わらず、近況ではクスッと笑えるエピソードを添えていて、一人だというのに思わず声に出して笑ってしまった。
いつも遅刻していた少年は同じクラスだった少女と結ばれ、葉書にも遅れないように連れていくという旨が書かれていた。
もう皆三十路も近い年だというのに、本当に変わらない。僕だけが変わらないのかと思う閉鎖感がスウっと消えて安心した。
葉書を一つにまとめると、宝物箱と汚い字で書かれた木箱を開ける。すると音楽が鳴り始めるから僕は一小節もならないうちに葉書を滑り込ませて木箱を閉じた。
オルゴールを内蔵した木箱は不満を漏らすようにカチッと音を立てて音楽を止める。僕はごめんと言う代わりに汚い字を撫でた。
宝物箱は多くの思い出を詰めた箱。
段ボールの中にもアルバムという思い出は詰まっているけど、この箱は誰かからの手紙やなくせない贈り物という“思い”が詰まっている。
これは僕がいつか死ぬとき、いや、死んだ後で開けて、オルゴールが鳴り響くときにゆっくり眺めるんだ。これはこうだった。あれは面白かった。なんて考えながら、成仏したいから。……最期まで、あの子のことを考えていたいから。
ほとんどあの子への“思い出”ばかりの宝物箱に苦笑しながら、さて、と席を立つ。
同窓会の催し物は何がいいかと考えながら。
近寄ってその顔をまじまじと見るのだけどあの子は気にすることなく僕を見つめる。何を考えているんだろう。
声をかけた瞬間、猫のようにピャッと跳ねて驚くもんだからこっちがビックリする。
僕が近付いたことも気付いてなかったんだ。
僕って影薄いかな?
あの子は何事もなかったかのように淡々となんですかって聞くもんだから、ちょっと意地悪して今の話、君はどう思う?って聞いてみる。それでサラサラっと答えるところがなんだか面白くて可愛いなって思った。
話は聞いてるんだ。端に居ないで一緒に話せばいいのに。
あの子は自分のこと地味だとでも思っているんだろうか。そんなことないのに。
むしろ顔立ちやオーラだけで言えば目立つなんてもんじゃない。
少し幼さの残る涼しげな顔は形の良い輪郭に寸分の狂いもなく乗せられていて、それぞれのパーツもとても丁寧に作られたんだろう。長いまつげに縁取られた深い緑の瞳。スッと通った鼻梁に固く結ばれた薄いピンクの唇は透き通るような白い肌に蕾のように映える。
更に育ちも良いのか所作の一つ一つが流れるように綺麗だ。なんと言ったっけ、立てば何とか座れば何とか、歩く姿は何かの花。全くもって覚えていないけどその言葉があの子にぴったりなのは知っている。
あの子はよく人の目を引き付けておいてそれに気づくとさらりと躱し、気づかないとより深く入れ込ませるように無意識に魅せる。
分かっているようで分かっていなくて、それでいて人を寄せ付けないようにする様はまるで猫のよう。それもまだ未成熟な成猫になりきれてない仔猫。
本人は大人だと思い込んでいるから余計なプライドも相まって、つけ入る隙が多くて困る。
僕はあの子のことが好きだったのかって聞かれたら答えは考える間もなく是だろう。
それほどあの子は魅力的だった。
もしかしたら今はあれ以上に魅力的な人になっているかもしれない。今ならあの頃のようなしがらみもなく恋仲なんかにもなれるかもしれない。
そんな邪な思いが全くなかったとは言えないが、でも理由もなく欠席とは少し酷くないか。
クラス同窓会の便りの往復葉書。幹事である僕の手元に帰ってきたそれはいずれも出席か欠席のどちらかに丸がつけてあり、近況の欄に欠席の理由を書いているものもある。寧ろあの子以外の欠席者はマメな者ばかりなのか、全員どこかしらに理由を添えている。
「……あの子がクラスで一番真面目だったのに………」
思わず出た言葉は驚くほどに弱々しく、あの子の返事が本当に残念だったことに気付く。
せめてあの子自身の言葉が欲しかった。今はどんな仕事をして、どうしているのか。女々しいとは思うけど、あの子に少しでも近づきたかったんだ。
学生の頃は大の仲良しとまではいかないけど、ただのクラスメートと呼ぶには仲が良すぎるといった具合だった。それなりに話もするし、互いに色んな表情を見たし、見せた。
あの子はよく、僕のもとに訪れては悩みを打ち明けていた。ちゃちゃも余計な言葉も言わない僕は愚痴を言いやすかったのだろう。本当は何も言えなかっただけなのだけれど。
それでも信頼する相手として選ばれていたことはとても嬉しく、誇らしかった。
はぁ…と力なく息を吐いて、机の上に乱雑に撒かれた葉書たちを集め名簿に出欠を記入していく。静かな部屋にはシャーペンが紙を滑る音しか聞こえない。
葉書を眺めると丸だけで結構性格が出るなと少し懐かしくなる。
字が汚かった少年も一所懸命頑張ったというような少し緊張した文字で僕の名前の下に様を付けている。
自己中心的だった少女は人の前に立つ仕事だからと周りを見るようにしているらしいが近況は同窓会での要望ばかりで彼女らしい。
話がうまかった少女も相も変わらず、近況ではクスッと笑えるエピソードを添えていて、一人だというのに思わず声に出して笑ってしまった。
いつも遅刻していた少年は同じクラスだった少女と結ばれ、葉書にも遅れないように連れていくという旨が書かれていた。
もう皆三十路も近い年だというのに、本当に変わらない。僕だけが変わらないのかと思う閉鎖感がスウっと消えて安心した。
葉書を一つにまとめると、宝物箱と汚い字で書かれた木箱を開ける。すると音楽が鳴り始めるから僕は一小節もならないうちに葉書を滑り込ませて木箱を閉じた。
オルゴールを内蔵した木箱は不満を漏らすようにカチッと音を立てて音楽を止める。僕はごめんと言う代わりに汚い字を撫でた。
宝物箱は多くの思い出を詰めた箱。
段ボールの中にもアルバムという思い出は詰まっているけど、この箱は誰かからの手紙やなくせない贈り物という“思い”が詰まっている。
これは僕がいつか死ぬとき、いや、死んだ後で開けて、オルゴールが鳴り響くときにゆっくり眺めるんだ。これはこうだった。あれは面白かった。なんて考えながら、成仏したいから。……最期まで、あの子のことを考えていたいから。
ほとんどあの子への“思い出”ばかりの宝物箱に苦笑しながら、さて、と席を立つ。
同窓会の催し物は何がいいかと考えながら。
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