経験値獲得クエスト

夜桜

文字の大きさ
上 下
2 / 5

森の中のシンシア教会

しおりを挟む
 スティグマ帝国を出て『アクアの森』。
 その前に俺は立っていた。

 木々が人間の身長を優に超えている。巨人のような大木は、人間の行く手を阻むかのように広がり、威圧してきていた。


 デケェなぁ……。
 樹齢何年あるのだろうか、とにかく図太くて強風でも倒れないような大きさだった。こんな森の中を突き進むのか俺は。

 だが、この森を行かねば『シンシア教会』には辿り着けない。メイドのアドアが言うには、この中にあると言っていた。帝国発行の地図マップにきちんと掲載されていたから間違いはないという。


 今はそれを信じるしかない。


 俺は釣竿を肩に担ぎながら、歩いていく。釣り竿は相棒であり、魚を釣る道具であり、武器でもあった。そう、俺の武器は『釣り竿』。この一本があれば十分に生活が可能だった。


 そんな俺がなんで辺境伯なんて爵位を拝領しちまっているのか――それは、俺自身でも謎だった。でも、お陰様で不便のない生活が出来ているし、割と自由だった。だから、この生活が割と気にっているし、メイドなんて雇ってほのぼのやっていた。



「……まあ、行くか」



 ゆっくり緑の中を進んでいく。
 チラチラを垣間見えるスライムとかゴブリンの姿。当然、ヤツ等を討伐しても得られる経験値はゼロ。精々、しょぼいアイテムくらいだろうな。


 だから、可能な限り戦闘は避けたい。
 避けたいのだが、向こうは避けさせてくれないのが実情だ。こういう森となると、モンスターは容赦なく牙を剥く。


『――――キィッ!!』


 緑色のゴブリンが棍棒を持って向かって来る。ああ、もう戦闘か。面倒な。面倒だが、ただやられるのも癪だ。


 俺は『釣り竿』に魔力を篭めた。
 魔力は、こういう自然とか大地と密接であれば、その分強い威力を発揮できる。それがレベルアップしない人類の……せめてもの救いかね。


「てやッ!!」


 釣り竿が白く光ると、それはまるでロングソードのような鋭利を見せ、振るだけで斬撃が飛んだ。


 その攻撃がゴブリンを一撃で葬った。


『ギエエエエ……』


 獲得経験値は当然だがゼロ。
 アイテムもなかった。


 これだけで冒険者のやる気は、相当削がれる。だから、今や冒険者なんてほとんどいないし、絶滅危惧種状態だ。


 そうして突き進んでいくと、ようやく『シンシア教会』が見えた。……へぇ、こんな奥にある割には小奇麗だな。少し視線をズラすと小さな村もあった。


「これはこれは……こんな所に村があるとはね。マップにも書かれているな。どうやら『トランクイル』という村らしいな。のどかな村だなあ」


 こんな緑の生い茂る森の中に『村』と『教会』か。なんだか、雰囲気があるなって俺は思った。そのまま今日へ向かっていく。

 扉は開いていた。

 人の気配は……ないように思える。過疎っているのか、それとも、奥に潜んでいるのか。誰かいるといいのだが。


「お邪魔します。誰かいませんか?」


 自分の声が虚しく響く。
 返事はない。
 ただのしかばね……それは置いておき。


 教会の奥へ進んでいくと、綺麗なステンドグラスが七色に輝く。素晴らしい、なんて幻想的なんだろう。


『…………』


 突如、気配を感じた。


 なんだ、そんな小さな祭壇に人がいたのか。よく見れば、少女がいた。あまり上等は言えないシスター服に身を包み、祈りを捧げる少女。


 彼女はゆっくりと立ち上がり、目を開けた。


「……美しい」
「貴方は誰ですか?」

「あ、ああ……俺はスティグマ帝国から歩いて来た『ソレム』だ」
「歩いて来られたのですか!?」
「そうだ。この教会に用があってね」
「それは凄いですね。よくモンスターを対処できましたね。森に住まうモンスター達は、結構高レベルですよ?」


「あれくらいなら、一人で何とかなるさ。それより、この教会に【経験値獲得クエスト】なるものがあると噂を聞いた。本当か?」


 少女は微笑んだ。
 まさか……知っているのか。


「なるほど、【経験値獲得クエスト】を求めて来たのですね。今や世界にいる全モンスターの経験値はゼロです。レベルアップすらも出来ない世知辛い世の中……モンスターが脅威すぎて、冒険者もいない状況……ですが、このシンシア教会は、ついに経験値を獲得する術を発見しました」


「おぉ、やっぱり!」


「よくぞ来られました、ソレム様。わたくしは、この教会を任されております『ユーフォリア』と申します。どうぞ、よろしくお願いします」


 銀髪の少女・ユーフォリアは微笑む。まるで天使の微笑み。そうか、この神聖なオーラ……異様な魔力。もしかして、彼女は『大聖女』か。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

【完結】新しい我輩、はじめます。

コル
ファンタジー
 魔界を統一した魔王デイルワッツ、次に人間界を支配するために侵攻を開始する。  そんな時、人間界で「天使の剣を抜いたものが勇者となり魔王を討つべし」とお触れが出た。  これを聞いたデイルワッツは自分の魂と魔力を人間の体に移し、自ら剣の破壊と勇者を始末しようと儀式に紛れ込むがなかなか剣を抜けるものは出てこなかった。  見物人にも儀式参加となりデイルワッツの順番が回っきてしまう、逃げるに逃げれなくなってしまい仕方なく剣を掴んだ瞬間に魔力を吸われ剣に宿る精霊エリンが具現化し剣が抜けてしまった。  剣を抜いた事により勇者と認められ魔王討伐の命が下る……がその魔王は自分自身である。  自分が自分を討ちに行く謎の冒険記はじめます。 【完結済】 ・スケルトンでも愛してほしい![https://www.alphapolis.co.jp/novel/525653722/331309959] ・私が勇者を追いかける理由。[https://www.alphapolis.co.jp/novel/525653722/132420209]  ※この作品は「小説家になろう」さん、「カクヨム」さん、「ノベルアップ+」さんとのマルチ投稿です。

今更困りますわね、廃妃の私に戻ってきて欲しいだなんて

nanahi
恋愛
陰謀により廃妃となったカーラ。最愛の王と会えないまま、ランダム転送により異世界【日本国】へ流罪となる。ところがある日、元の世界から迎えの使者がやって来た。盾の神獣の加護を受けるカーラがいなくなったことで、王国の守りの力が弱まり、凶悪モンスターが大繁殖。王国を救うため、カーラに戻ってきてほしいと言うのだ。カーラは日本の便利グッズを手にチート能力でモンスターと戦うのだが…

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

契約破棄された聖女は帰りますけど

基本二度寝
恋愛
「聖女エルディーナ!あなたとの婚約を破棄する」 「…かしこまりました」 王太子から婚約破棄を宣言され、聖女は自身の従者と目を合わせ、頷く。 では、と身を翻す聖女を訝しげに王太子は見つめた。 「…何故理由を聞かない」 ※短編(勢い)

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...