上 下
1 / 13

◆婚約破棄と復讐代行

しおりを挟む
「ティア、君とは婚約破棄したい」

 アスモデウス伯爵ダニエルはそう言った。
 彼がなにを言っているのか、わたくしは一瞬分からなかった。理解が追い付かなかった。

「……ダニエル、なぜそんなことを言うのです」
「俺は本気だ。理由を話すつもりはないし、もう関わる気もないよ。さようなら、ティア」

 不敵に笑うダニエルは、わたくしはの元を去っていく。
 やっぱりそうなのね。
 彼には浮気の証拠があった。

 彼の部屋に入った時、偶然にも指輪が落ちていた。それは見たこともない指輪だった。
 不安になったわたくしはダニエルを尾行した。
 すると彼はわたくしはとは別の女性と……もう思い出すだけで悲しいし、怒りがこみあげてきた。

 わたくしはダニエルを許せない。
 復讐がしたい……。

 どうすれば彼を追い詰めることができるの……?

 ずっとずっと悩んだ。
 ひとりでどうやってダニエルを葬ることができるのかと。

 でも、なかなか良い案が思い浮かばなかった。
 どう考えても、後々わたくしが重い罪を背負ってしまう。リスクが高すぎると思った。

 そんなある日。

 知人の女性から『復讐代行』なるものを教えてもらった。
 ある男性に依頼すると、代わりに復讐を果たしてくれるのだという。

 もちろん、高いお金が要求されるのだけど、わたくしはお金には困っていなかった。今はとにかく、あのダニエルに一泡吹かせたい。

 結婚の為の資金だったお金を握りしめ、わたくしは復讐代行が住むという郊外へ。

 馬車で向かい、ようやくたどり着いた。

 こんな場所に住んでいるだなんて……。

 家の方へ向かい、扉をノックした。


 …………。


 少し待つと中で反応があった。
 扉が開き、そこには若い男性がいた。


「復讐を希望かな」
「……そうです。お金ならたくさんあります」
「分かった。では、詳しくは中で聞こう」


 部屋の中へ案内され、わたくしは男性についていく。
 椅子に座るよう言われ、従った。


「さっそくですが、ダニエルという男性貴族に復讐がしたいのです」
「ダニエル。もしや、アスモデウス伯爵のことかな」
「ご存じでしたか。そうです。彼に浮気され、婚約破棄され捨てられ……裏切られました。……今のままでは、わたくしは先へ進めない」

「相手が貴族ともなると相応の金額が必要だ」
「では、今所持しているお金を全て差し上げます」
「そこまでの覚悟か。いいだろう。引き受けた」
「お願いします。どうか、ダニエルに……死を」

 お金を支払い、わたくしは席を立った。
 依頼は完了した。

 あとは待つだけ。


 * * *


 ――数日後。

 お庭で日光浴を嗜んでいると、知らない女性が無断で入ってきた。


「ティア! あなた! なんてことしてくれたの!」
「……? あなたは誰ですの」

「私はダニエルの婚約者よ!」


 ……そうなんだ。この女が。
 でも、こんなに慌てているということは復讐が果たされたということかしら。


「で、なに?」
「ふざけないで! ダニエルが公開処刑されるのよ! たった今から!」

「へえ? それは吉報ね」


 凄いわ。復讐代行。
 まさかあのダニエルをそこまで追い詰めただなんて。

「どうしてくれるの! 私まで疑われているじゃない!」
「知らないですわ。それより、わたくしはダニエルの処刑を見に行きます」

 喚きたてる女の横を通り過ぎて、わたくしは広場へ向かった。
 すでに多くの観客で埋め尽くされていた。

 断頭台にはダニエルの姿があった。


「助けてくれええぇぇ…………! お、俺は無実なんだ! ファフニール伯を殺してなどいない!! 本当だ!」


 ファフニール伯?
 ああ……そういえば数日前に殺人事件があったという。
 その犯人がダニエルということになっているのね。

 観客に紛れ込んで、ダニエルの最後を見守っているとあの復讐代行の男性がわたくしに声をかけてきた。


「ファフニール伯はでっちあげ。架空の人物さ」
「……そ、そうなのですか」
「だが、ちゃんと殺人事件となるよう死刑囚の遺体を使った。その犯人がダニエルということさ」

 復讐代行……そこまでできるの。凄いわ。

 そして、ついにダニエルは処刑された。


「うあああああああああぁぁぁぁ……」


 最後まで惨めに泣き叫んでいた。
 ……わたくしを裏切るからそうなるのよ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

家出した伯爵令嬢【完結済】

弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。 番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています 6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております

「聖女に比べてお前には癒しが足りない」と婚約破棄される将来が見えたので、医者になって彼を見返すことにしました。

ぽんぽこ@書籍発売中!!
恋愛
「ジュリア=ミゲット。お前のようなお飾りではなく、俺の病気を癒してくれるマリーこそ、王妃に相応しいのだ!!」 侯爵令嬢だったジュリアはアンドレ王子の婚約者だった。王妃教育はあんまり乗り気ではなかったけれど、それが役目なのだからとそれなりに頑張ってきた。だがそんな彼女はとある夢を見た。三年後の婚姻式で、アンドレ王子に婚約破棄を言い渡される悪夢を。 「……認めませんわ。あんな未来は絶対にお断り致します」 そんな夢を回避するため、ジュリアは行動を開始する。

王宮で虐げられた令嬢は追放され、真実の愛を知る~あなた方はもう家族ではありません~

葵 すみれ
恋愛
「お姉さま、ずるい! どうしてお姉さまばっかり!」 男爵家の庶子であるセシールは、王女付きの侍女として選ばれる。 ところが、実際には王女や他の侍女たちに虐げられ、庭園の片隅で泣く毎日。 それでも家族のためだと耐えていたのに、何故か太り出して醜くなり、豚と罵られるように。 とうとう侍女の座を妹に奪われ、嘲笑われながら城を追い出されてしまう。 あんなに尽くした家族からも捨てられ、セシールは街をさまよう。 力尽きそうになったセシールの前に現れたのは、かつて一度だけ会った生意気な少年の成長した姿だった。 そして健康と美しさを取り戻したセシールのもとに、かつての家族の変わり果てた姿が…… ※小説家になろうにも掲載しています

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

【完結】婚約破棄された聖女はもう祈れない 〜妹こそ聖女に相応しいと追放された私は隣国の王太子に拾われる

冬月光輝
恋愛
聖女リルア・サウシールは聖地を領地として代々守っている公爵家の嫡男ミゲルと婚約していた。 リルアは教会で神具を用いて祈りを捧げ結界を張っていたのだが、ある日神具がミゲルによって破壊されてしまう。 ミゲルに策謀に嵌り神具を破壊した罪をなすりつけられたリルアは婚約破棄され、隣国の山中に追放処分を受けた。 ミゲルはずっとリルアの妹であるマリアを愛しており、思惑通りマリアが新たな聖女となったが……、結界は破壊されたままで獰猛になった魔物たちは遠慮なく聖地を荒らすようになってしまった。 一方、祈ることが出来なくなった聖女リルアは結界の維持に使っていた魔力の負担が無くなり、規格外の魔力を有するようになる。 「リルア殿には神子クラスの魔力がある。ぜひ、我が国の宮廷魔道士として腕を振るってくれないか」 偶然、彼女の力を目の当たりにした隣国の王太子サイラスはリルアを自らの国の王宮に招き、彼女は新たな人生を歩むことになった。

遊び人の婚約者に愛想が尽きたので別れ話を切り出したら焦り始めました。

水垣するめ
恋愛
男爵令嬢のリーン・マルグルは男爵家の息子のクリス・シムズと婚約していた。 一年遅れて学園に入学すると、クリスは何人もの恋人を作って浮気していた。 すぐさまクリスの実家へ抗議の手紙を送ったが、全く相手にされなかった。 これに怒ったリーンは、婚約破棄をクリスへと切り出す。 最初は余裕だったクリスは、出した条件を聞くと突然慌てて始める……。

婚約破棄が国を亡ぼす~愚かな王太子たちはそれに気づかなかったようで~

みやび
恋愛
冤罪で婚約破棄などする国の先などたかが知れている。 全くの無実で婚約を破棄された公爵令嬢。 それをあざ笑う人々。 そんな国が亡びるまでほとんど時間は要らなかった。

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

処理中です...