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銀髪の伯爵
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ドット伯爵の暗躍は続いているらしい。夜な夜な現れては、若い女性の心を盗み取る。もう、これ以上の被害は出したくない。
そんな思いで、わたしは“虚無”のまま満月が照らす夜を駆けた。
ひとり。
たったひとりで街の中を走っていく。
――聞こえる。
ざわざわとした心の声。
どくどくとした心の声。
彼はいる。
今日もか弱い女性を狙って跋扈していたのだ。
「……ようやく見つけました」
「……君は、アーシャか」
「ええ、ドット伯爵。あなたから心を盗まれたアーシャです。心がないまま自力でここまで回復しました」
「それは素晴らしい。心を奪われた人間は、通常廃人となり……夢遊病患者のように彷徨うくらいしかできないのだ。だが、アーシャ……お前は違った。お前の心は誰よりも清らかで強かったのだ」
月の下に姿を晒すドット伯爵。
――あれが、伯爵の素顔。
そこには銀髪の青年がいた。素顔こそ仮面で隠しているので分からなかったけれど、美しいと思えた。
けれど、わたしはただひとりで来たわけではない。執事であるアーサー・エディントンを遠くから見張らせていたのだ。彼は剣の達人で、あっというまにドット伯爵を捕らえた。
「覚悟しろ、ドット伯爵」
「……やれやれ、アーサーがいるとはね」
「なに? お前はいったい」
アーサーがドット伯爵の仮面に手をかけた。
そんな思いで、わたしは“虚無”のまま満月が照らす夜を駆けた。
ひとり。
たったひとりで街の中を走っていく。
――聞こえる。
ざわざわとした心の声。
どくどくとした心の声。
彼はいる。
今日もか弱い女性を狙って跋扈していたのだ。
「……ようやく見つけました」
「……君は、アーシャか」
「ええ、ドット伯爵。あなたから心を盗まれたアーシャです。心がないまま自力でここまで回復しました」
「それは素晴らしい。心を奪われた人間は、通常廃人となり……夢遊病患者のように彷徨うくらいしかできないのだ。だが、アーシャ……お前は違った。お前の心は誰よりも清らかで強かったのだ」
月の下に姿を晒すドット伯爵。
――あれが、伯爵の素顔。
そこには銀髪の青年がいた。素顔こそ仮面で隠しているので分からなかったけれど、美しいと思えた。
けれど、わたしはただひとりで来たわけではない。執事であるアーサー・エディントンを遠くから見張らせていたのだ。彼は剣の達人で、あっというまにドット伯爵を捕らえた。
「覚悟しろ、ドット伯爵」
「……やれやれ、アーサーがいるとはね」
「なに? お前はいったい」
アーサーがドット伯爵の仮面に手をかけた。
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