わたしを捨てた騎士様の末路

夜桜

文字の大きさ
上 下
17 / 18

幸せの涙

しおりを挟む
 いてもたっても居られなくなった、わたしは元老院へ向かった。
 まずはソールズベリーに話をしないと。
 お城へ向かい、彼を探した。

 すると、ちょうど部屋から出てくるソールズベリーの姿があった。

「……おやおや、これはエレナ」
「あ、あなた……ソールズベリー!」
「おいおい、私はもう元老院議長だ。呼び捨てはどうかと思うよ」
「そ、それは失礼を。いえ、そんなことはどうでもいいの。騎士団長ウィルに何をするつもりなの」

 問い質すと彼は遠くを見つめた。

「親友の危機を救いたいのさ」
「……危機を? 意味わからないわ。今がその危機的状況じゃない! 彼を解放しなさい」

「それはできない。君たちには幸せになってもらいたいからね」
「……どういうこと。理由を話して」

 ソールズベリーは誰もいないことを確認して、わたしに語り始めた。
 彼によると、元老院の中に裏切者がいるらしいことが分かった。でも、それが誰なのかは分からないという。
 このままではウィルはその手の者によって騎士団長の立場どころか、全てを失う可能性さえあるようだった。

 その情報はノリッジが突き止めたようだ。
 フレンを処刑したことで裏の仕事を失った者達が恨みを持ち、その者達が元老院の誰かを支援してウィルを陥れようとしているのではないかという情報だった。

 なるほど、そういうことだったのね。

「――というわけでね、ウィルには偽装の罪でしばらくは大人しくしてもらうことにした。言わなくて悪かったよ」
「あなたを信用していいの……?」

「少なくとも私はウィルに対して恨みなんてないさ。大切な親友だよ。この立場を得たのもその為だ。ウィルを守るためにここまで上り詰めた」

「証拠を見せて。それで信用する」
「証拠か。――うん、そうだね。じゃあ、丁度良い。君は確か辺境伯の娘。ということは、辺境の領地をいくつか持っているはず。そこで二人でひっそり暮らすと良い。もちろん、私も出来る限り支援しよう」

「……そこまで言うのなら」

 二人で暮らして良いというのなら、どこでも構わない。


 * * *


 その後、ソールズベリーの言う通り本当に二人きりで帝国を出ることになった。彼の言葉は本当だったんだ。

「これはどういうことだい、エレナ」
「詳しい事は領地でお話しします。向こうに小さなお屋敷があるので、そこでひっそりと暮らしましょう」

「……分かった。騎士団長ではなくなったけど、命はある。そして、君という素晴らしい伴侶がいる。それで俺は十分幸せだ」
「ありがとうございます、ウィル様」


 こうして、わたしは辺境領地へ向かった。
 馬車を走らせ、辿り着いた僻地。自然豊かで何もないところではあるけれど、ここなら誰にも見つからずひっそりと暮らせるはず。


「一面緑で農業も捗りそうだ」
「そうですね、一緒に野菜とか果物を育てていきましょう」
「悪くないな。子供の頃、父上の手伝いをしたものだ」
「良かった。ウィル様、幸せになりましょうね」
「もちろんだ、エレナ」

 手を取り合い、お互いに見つめ合った。
 そっと触れる唇。

 わたしは幸せすぎて涙が零れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

彼が愛した王女はもういない

黒猫子猫(猫子猫)
恋愛
シュリは子供の頃からずっと、年上のカイゼルに片想いをしてきた。彼はいつも優しく、まるで宝物のように大切にしてくれた。ただ、シュリの想いには応えてくれず、「もう少し大きくなったらな」と、はぐらかした。月日は流れ、シュリは大人になった。ようやく彼と結ばれる身体になれたと喜んだのも束の間、騎士になっていた彼は護衛を務めていた王女に恋をしていた。シュリは胸を痛めたが、彼の幸せを優先しようと、何も言わずに去る事に決めた。 どちらも叶わない恋をした――はずだった。 ※関連作がありますが、これのみで読めます。 ※全11話です。

好きにしろ、とおっしゃられたので好きにしました。

豆狸
恋愛
「この恥晒しめ! 俺はお前との婚約を破棄する! 理由はわかるな?」 「第一王子殿下、私と殿下の婚約は破棄出来ませんわ」 「確かに俺達の婚約は政略的なものだ。しかし俺は国王になる男だ。ほかの男と睦み合っているような女を妃には出来ぬ! そちらの有責なのだから侯爵家にも責任を取ってもらうぞ!」

「大嫌い」と結婚直前に婚約者に言われた私。

狼狼3
恋愛
婚約してから数年。 後少しで結婚というときに、婚約者から呼び出されて言われたことは 「大嫌い」だった。

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

今日は私の結婚式

豆狸
恋愛
ベッドの上には、幼いころからの婚約者だったレーナと同じ色の髪をした女性の腐り爛れた死体があった。 彼女が着ているドレスも、二日前僕とレーナの父が結婚を拒むレーナを屋根裏部屋へ放り込んだときに着ていたものと同じである。

真実の愛の言い分

豆狸
恋愛
「仕方がないだろう。私とリューゲは真実の愛なのだ。幼いころから想い合って来た。そこに割り込んできたのは君だろう!」 私と殿下の結婚式を半年後に控えた時期におっしゃることではありませんわね。

私の知らぬ間に

豆狸
恋愛
私は激しい勢いで学園の壁に叩きつけられた。 背中が痛い。 私は死ぬのかしら。死んだら彼に会えるのかしら。

あの子を好きな旦那様

はるきりょう
恋愛
「クレアが好きなんだ」  目の前の男がそう言うのをただ、黙って聞いていた。目の奥に、熱い何かがあるようで、真剣な想いであることはすぐにわかった。きっと、嬉しかったはずだ。その名前が、自分の名前だったら。そう思いながらローラ・グレイは小さく頷く。 ※小説家になろうサイト様に掲載してあります。

処理中です...