わたしを捨てた騎士様の末路

夜桜

文字の大きさ
上 下
5 / 18

会いに来てくれた騎士団長

しおりを挟む
 お庭をぼうっと眺めていると、執事のソールズベリーが慌てていた。
 急に慌しくなってどうしたのかなと視線を送ると――扉の向こうにはウィルの姿があった。

「……ウ、ウィル様!」

 騎士の姿ではなく、煌びやかな宮廷服に身を包まれている。爽やかな笑みを浮かべ、こちらを見ていた。

「入ってもいいかな」
「ど、どうぞ、お入りください。ソールズベリー、お紅茶をお願い」

 突然のことに、わたしは震えた。
 まさかこんなタイミングでやって来るだなんて……。もう来ないかとさえ思っていたのに。ようやく会えて嬉しい。

 でも……見たこともない女性が一緒だった。

 腰まで伸びる赤い髪。黒いリボンでまとめて可愛らしい。歳は、わたしよりも下のように見える。十五、十六歳あたりかな。……まさか、ウィルの恋人とか婚約者? そんな嫌な予感が脳裏を過ぎった。

「この日を心待ちにしていたよ、エレナ」
「そのように言っていただけて、わたしも嬉しいです。……ところで、そちらの方は?」「ああ、紹介しよう。こちらの赤髪の女の子はロレイン。君にどうしても会いたいというから、今日は来てもらった」

「わたしに?」


 どういうことだろうと不思議に思っていると、ロレインが口を開いた。


「はじめまして、エレナ様。私はあのフレンに騙された内のひとりです」
「え……フレンに?」
「はい。危うく奴隷にされてしまうところでした。でも、エレナ様があの男を悪行を暴いて、騎士団に突き出したと。それを聞いてとても感動したんです」

 そういうことだったのね。
 わたしは、ちょっと悪い方向に考えていたのだけど、それは気のせいだった。……良かった。


「被害者が他にもいたとは聞いていましたが、こんな少女まで……」
「そうなんだ、エレナ。この事件は思った以上に重いものなんだ」
「それで、フレンはどうなったのです?」
「死刑には違いはないんだが、取り調べが思った以上に掛かっていてね。フレンと繋がりのある組織を洗っているところなんだ」


 まだまだ時間は掛かりそう。
 でも騎士団に捕らえられている以上、逃げることも出来ないし……安心はしていいはず。

「そうですね、フレンだけを裁いても奴隷商が残っていては根本的解決にはなりませんものね」
「理解があって嬉しいよ。それまで待っていてくれ」
「はい。裁きが下されることを信じています」


 納得しているとロレインが「私はそろそろ帰ります」とお辞儀をしていた。


「もういいの? わたしに話があったのでは?」
「お礼が言いたかっただけなので。……その、これ以上は邪魔になってしまうと思いますし」

 申し訳なさそうに去っていくロレイン。まさか空気を読んでくれたの……? なんだか気を遣わせてしまって逆に申し訳なかった。けれど、わたしは一刻も早くウィルと二人きりになりたかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

帰らなければ良かった

jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。 傷付いたシシリーと傷付けたブライアン… 何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。 *性被害、レイプなどの言葉が出てきます。 気になる方はお避け下さい。 ・8/1 長編に変更しました。 ・8/16 本編完結しました。

「大嫌い」と結婚直前に婚約者に言われた私。

狼狼3
恋愛
婚約してから数年。 後少しで結婚というときに、婚約者から呼び出されて言われたことは 「大嫌い」だった。

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

【完結】婚約者の母が「息子の子供を妊娠した」と血相変えてやって来た〜私の子供として育てて欲しい?絶対に無理なので婚約破棄させてください!

冬月光輝
恋愛
イースロン伯爵家の令嬢であるシェリルは王族とも懇意にしている公爵家の嫡男であるナッシュから熱烈なアプローチを受けて求婚される。 見た目もよく、王立学園を次席で卒業するほど頭も良い彼は貴族の令嬢たちの憧れの的であったが、何故か浮ついた話は無く縁談も全て断っていたらしいので、シェリルは自分で良いのか不思議に思うが彼の婚約者となることを了承した。 「君のような女性を待っていた。その泣きぼくろも、鼻筋も全て理想だよ」 やたらとシェリルの容姿を褒めるナッシュ。 褒められて悪い気がしなかったが、両家の顔合わせの日、ナッシュの母親デイジーと自分の容姿が似ていることに気付き少しだけ彼女は嫌な予感を抱く。 さらに婚約してひと月が経過した頃……デイジーが血相を変えてシェリルの元を訪ねた。 「ナッシュの子を妊娠した。あなたの子として育ててくれない?」 シェリルは一瞬で婚約破棄して逃げ出すことを決意する。

婚約者を解放してあげてくださいと言われましたが、わたくしに婚約者はおりません

碧桜 汐香
恋愛
見ず知らずの子爵令嬢が、突然家に訪れてきて、婚約者と別れろと言ってきました。夫はいるけれども、婚約者はいませんわ。 この国では、不倫は大罪。国教の教義に反するため、むち打ちの上、国外追放になります。 話を擦り合わせていると、夫が帰ってきて……。

決めたのはあなたでしょう?

みおな
恋愛
 ずっと好きだった人がいた。 だけど、その人は私の気持ちに応えてくれなかった。  どれだけ求めても手に入らないなら、とやっと全てを捨てる決心がつきました。  なのに、今さら好きなのは私だと? 捨てたのはあなたでしょう。

忌むべき番

藍田ひびき
恋愛
「メルヴィ・ハハリ。お前との婚姻は無効とし、国外追放に処す。その忌まわしい姿を、二度と俺に見せるな」 メルヴィはザブァヒワ皇国の皇太子ヴァルラムの番だと告げられ、強引に彼の後宮へ入れられた。しかしヴァルラムは他の妃のもとへ通うばかり。さらに、真の番が見つかったからとメルヴィへ追放を言い渡す。 彼は知らなかった。それこそがメルヴィの望みだということを――。 ※ 8/4 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

欲に負けた婚約者は代償を払う

京月
恋愛
偶然通りかかった空き教室。 そこにいたのは親友のシレラと私の婚約者のベルグだった。 「シレラ、ず、ずっと前から…好きでした」 気が付くと私はゼン先生の前にいた。 起きたことが理解できず、涙を流す私を優しく包み込んだゼン先生は膝をつく。 「私と結婚を前提に付き合ってはもらえないだろうか?」

処理中です...