不法投棄された聖女

夜桜

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不法投棄

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「――私と結婚してくれませんか」

 海のようなあおい瞳を向けられている。こんな優しい目で求婚されたのは人生で初めてだった。わたしは、それを運命と感じ婚約を承諾した。


「アクィラ伯爵様。貴方はこのシレントの街周辺で最も権力をお持ちの方……そんな方が、どうして田舎娘であるわたしなんかを選んで下さったのですか」

「君が聖女だと聞いたからさ、アムール。ただの町娘だった君が大いなる力を覚醒させた。これは凄い奇跡だよ。でもそれ以上に、君の女神のような美貌や運動神経抜群な所に心を奪われたのだ」


 それが本心であると、付け加えて下さった。正直、悪い気はしなかった。伯爵の仰る通り、わたしはただの田舎の町娘で、走る回るしか能のない運動好きの名も無き聖女だった。けれども、伯爵様はどこかで噂を聞きつけ、わたしの前に現れてくれた。

 彼が運命の人なんだ。



 それからお屋敷に迎えられ、わたしは一週間を優雅に過ごしていた。


「さすが伯爵様。不便のない生活を送れるし、最高ね。このまま本当に結婚して安定した生活を送って――」


 部屋の掃除を進めていると、コンコンと扉をノックする音が響く。わたしは向かって、扉を開けた。そこには伯爵の姿が……あれ、どうして怖い顔を?


「あの……どうかなされましたか?」

「アムール、ちょっとこっちへ来い」


 強く腕を引っ張られ、外へ連れていかれる。

 ぎゅっと締め付けられ、本当に痛い。

 どうしたのだろう。



「あの……」



 それから、貧民の住むゴミ捨て場の前に立たされた。先ががけになっていて、かなりの高所。下に落ちればゴミだらけで、登って戻るのは不可能な高さがある。


「すまないな、アムール」
「はい……? ど、どういう事です? なんで、わたしはこんな場所に連れて来られたんですか?」


 伯爵は申し訳ないとしながらも、悪魔のように不敵に笑い、そして……こう言った。


「アムール……お前はいらなく・・・・なった・・・。婚約破棄だ。つまり、物理的にもてるって事さ」

「は……はぁ!? 意味分かんないですよ。いきなり連れて来られて、棄てるって……人をゴミみたいに!」


「そうだよ。アムール、お前はゴミ・・だ」


「……」


 もう意味が分からない。
 いきなりどうして、そんな酷い事を言われなくちゃいけないの。あんなに愛してくれたのに、あの狂おしい程の愛は何処どこへいったの?


「教えてやろう。お前の妹さ」
「い、妹!? ミセルの事!?」


「そうだ、私は最初からミセルを愛していたのだよ」


 ミセルを……という事は、わたしは騙されていたの……。妹が先駆けて伯爵と婚約を交わし、わたしを騙すために。


「見事に騙されてくれたわ、アムール。ありがとう、アクィラ伯爵」


 木々の影から現れる妹のミセル。
 そんな所で待ち伏せしていたのね。


 という事は、本当に……そんなぁ……。


 あまりにショックが深すぎて、わたしは涙が止まらなかった。悔しくて悔しくて、泣き崩れるしかなかった。


「すまないねぇアムール。これはお前の妹がど~してもと言うのでね。邪魔者のお前を排除するにはこれしかなかった」


「そう。お姉様は私よりも先に聖女になられた。それが悔しくて、妬ましくて……許せなかった。でも、私も今日やっと聖女になるの。いえ、もうなれたわ・・・・・・……アムールお姉様、あなたを死亡扱い・・・・にしてね」


 そんな、そんなのってあんまりよ……。


「そう、これは全てミセルの為。アムールお前が消えれば、彼女が真の聖女となるのだ。ミセルがより輝けるというわけだよ」


 ひどい、ひどすぎる……!

 そこまでして、わたしをおとしめるとか……。

 こんなの……わたしの人生メチャクチャよ!


「じゃあ、そろそろゴミになってくれないかな、お姉様」

「ミセル……よくも!」

「往生際が悪いわ、アムール! あんたはもうオシマイ! オシマイなの! 貧民街の薄汚い連中にその全身を汚されてきなさいな!」


 ミセルの右足が飛んでくる。
 わたしを突き飛ばす気だ。


 もともと運動神経の良かったわたしは、それを回避する。すると、ミセルは足を踏み外して、勢いで崖へ向かって行く。


「わ、わわわわわ……ッ! アクィラ伯爵! アクィラ伯爵助けて!! このままじゃ、私が落ちちゃう!!」

「あ、あぁ任せろ!!」


 アクィラ伯爵がミセルの手を掴む。
 けれど、伯爵自身が咄嗟とっさだった為、バランスを崩す。わたしは助けようとしたが、間に合わなかった。


 二人とも崖から落ちて、貧民街のゴミ溜めへ。


 かなりの高さがある為……。


「…………ぁ」


 良かった。ゴミがクッションになったようね。 
 でも、貧民街の住民が直ぐに気づき、二人を襲った。



「「や、やめろ、うあああああああッ!!!」」



 二人とも服を奪われ、縛られていった。
 残念だけれど、この高さでは二人を助ける方法はない。貧民街の民は狂暴で、オークやゴブリンの混血も多いという。人語を話せる者すらいるか怪しい。



「……せめて祈りを」



 軽い祈りを捧げ、わたしは崖を後にした。



 ――それから一週間後。



 二人は行方不明と処理されてしまった。

 生死は不明。



「……残念ね」



 わたしは新しい男性・ユベントス辺境伯と出会い、恋に落ちた。今は幸せに彼のお屋敷で暮らしている――。
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