銀の聖女と金の皇帝

夜桜

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金の皇帝・プロテア

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 三日後、ホアキンのことをすっかり忘れて、わたしは日常を取り戻していた。このユーフォルビア帝国の皇帝・プロテア様に溺愛され、幸せしかなかった。

 そんなある日。
 今日はたまたま自分のお屋敷に戻っていた。

 身の回りの整理をしていると、扉をノックする音が耳に入った。

「どうぞ、入ってください」

 きっと迎えの騎士様だろうと思っていた。けれど、それは違った。扉の向こうから現れたのは見知らぬ女性だった。
 高貴でとても綺麗なドレスに身を包む。

 鋭い目つきでわたしを睨んで、こちらへ歩み寄ってきた。


「貴女がアイリスね」
「は、はい……。貴女は? 無断で家に上がらないで下さい」
「黙りなさい、この魔女め」

「……いきなり何ですか。失礼でしょう」

「よくもホアキンを牢屋に送ってくれたわね! おかげであの人は死刑よ」

 まさか……この女性はホアキンが新しく見つけたというパートナーなの。どうして、家に。

「知りません。彼の自業自得です」
「なんですって! あんたのせいで私の人生メチャクチャよ! 責任取りなさいよ!」

「わたしだって被害者ですよ。恨むなら筋違いです。ホアキンを恨んで下さい」

「……そう、とぼける気。いいわ、あんたを魔女裁判にかけてやるッ! なにが聖女よ、この詐欺師!」

 散々悪態をついて女性は去った。
 魔女裁判……最近噂になっている。
 帝国は魔女を排除していると。
 主に元老院の決定みたいだけど……。


 * * *


 お城へ戻るとプロテア様自らお出迎えしてくれた。


「心待ちにしていたよ、アイリス! あぁ、今日も君の白銀の髪が神秘的で美しい」
「ありがとうございます、プロテア様。お忙しいのに……」
「そんなことはない。アイリス、君との時間がなによりも有意義。私の生きがいなんだ」「まあ、嬉しいです。陛下は本当にお優しくて素敵な方です」

 優しく手を取ってくれる陛下は、お城の中へ連れていってくれる。

「ところで、君の家にアイナという女性が訪ねて来なかったかな」
「アイナ? もしかして……」
「そう、ホアキンと彼女は、つい最近まで付き合っていたんだ。君に秘密でね」

 やっぱり、そうだったんだ……。
 わたしの気持ちを裏切っていたんだ。
 ずっと不審に思って、でも、考えないようにしていた。けれど、いつか我慢の限界がやってくる。それがつい一週間前だった。

 なんとなく気づいていた。

 そんなところを偶然通り掛かった陛下に助けられたんだ。
 全てを知り、わたしは救われたような気がした。

「それで、そのアイナは……」
「安心するといい。彼女は“魔女”だった。捕まって、もう間もなく魔女裁判にかけられる」

「え……魔女だったんですか!?」

「そうとも。彼女は聖女である君を魔女にしたかったようだけど、私の目は誤魔化せなかった。いいかい、アイリス。私は君の危険を察知できる。なにがあっても必ず守ると約束しよう」

 その言葉だけで、わたしの心は浄化されるようだった。なんて嬉しいの。陛下はもう手回しをしてくれていたのね。

 そういえば、皇帝陛下には特殊な力があると聞いていた。確か、この帝国を象徴する『金の魔法』のはず。
 魔女が使う『黒の魔法』は違法だけど、金の魔法は我々を正しく導き、敵を撃ち砕くとされていた。わたしの魔力・銀の魔法とはちょっと違うけど。でも、黒ではない。
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