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王妃の大誤算
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あんなに余裕ぶった表情をしていたヴァレリアは、がくがくと震えて生まれたての小鹿のようだった。
この程度だったなんて……。
最初から剣で勝負していれば決着も早かったかもしれない。
彼女は威勢だけの女性だった。
「敗北を認めなさい、ヴァレリア」
「……っ!」
認めたくないと唇を噛む。
やっぱりプライドが邪魔するようね。
でもいいわ、これでわたくしが勝利したのだから。
「すぐに王国に帰りなさい。命だけは助けてあげる」
「ほ、本当……?」
もちろん、違う。
そろそろルドラが帰ってくるはず。
その予感は的中した。
広間に現れるルドラの姿。でも、彼は仮面をしていた。一応、フェイルノートという前提で来たようだった。
「久しぶりだな、ヴァレリア」
「フェイルノート! ……いえ、ルドラね。だって、本物のフェイルノートは、わたしが殺したのだから」
罪を認めるヴァレリア。ルドラはそれを耳にして少し眉を吊り上げた。
「そうか。今の言葉、確かに刻まれた」
「は? どういう意味よ」
「そうであろう、バルザック」
肩を押さえながら立ち上がるバルザック。
「はい。今の言葉は確かに記録いたしました」
そうか。バルザックには“映像に残す力”があるのだ。その力で今の言葉を能力で保存したに違いない。十分すぎる証拠だ。
「くっ! どうでもいいわ。どうせ敵国の王妃として処刑されるなら、ここで毒を飲んで死んでやるッ!」
惨めな死に方はしたくないと叫ぶヴァレリアは、懐から毒らしきカプセルを取り出していた。
「そうはさせない」
瞬間、ルドラは魔法で光の剣を作ってヴァレリアの指を吹き飛ばしていた。
「きゃあああ!!」
毒のカプセルは床に落ちた。指と血と共に。
「弟……“ルドラ”の仇だ」
「――は?」
右手を押さえるヴァレリアは混乱していた。
わたくしも意味が分からなかった。
ルドラは、今なんて……?
「改めて名乗ろう。我が名はフェイルノート。本物のフェイルノートだ」
「え……は? 嘘おっしゃい! フェイルノートは戦場で殺したわ! このわたくしが!!」
けれど、ルドラは――いえ、フェイルノートは首を横に振った。
「違う。戦場に向かったのが弟なのだ。当時の俺は病で遠征が不可能になっていた。だから、代わりに弟のルドラが戦場に出たのだ」
……そう、だったのね。
だから、彼はどこかフェイルノートっぽい雰囲気がところどころにあったんだ。戦死したのは弟のルドラだった。
彼は弟を完璧に演じていたわけだ。
「フェイルノートなのね……」
「すまない、クリス。真実はこの時の瞬間まで明かさないと弟の墓前に誓っていたんだ」
「いいのです。わたくしは、あなたを信じていますから」
「ありがとう」
ヴァレリアに改めて剣を向けるフェイルノート。
衝撃的な真実に、彼女は愕然としていた。
この程度だったなんて……。
最初から剣で勝負していれば決着も早かったかもしれない。
彼女は威勢だけの女性だった。
「敗北を認めなさい、ヴァレリア」
「……っ!」
認めたくないと唇を噛む。
やっぱりプライドが邪魔するようね。
でもいいわ、これでわたくしが勝利したのだから。
「すぐに王国に帰りなさい。命だけは助けてあげる」
「ほ、本当……?」
もちろん、違う。
そろそろルドラが帰ってくるはず。
その予感は的中した。
広間に現れるルドラの姿。でも、彼は仮面をしていた。一応、フェイルノートという前提で来たようだった。
「久しぶりだな、ヴァレリア」
「フェイルノート! ……いえ、ルドラね。だって、本物のフェイルノートは、わたしが殺したのだから」
罪を認めるヴァレリア。ルドラはそれを耳にして少し眉を吊り上げた。
「そうか。今の言葉、確かに刻まれた」
「は? どういう意味よ」
「そうであろう、バルザック」
肩を押さえながら立ち上がるバルザック。
「はい。今の言葉は確かに記録いたしました」
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「くっ! どうでもいいわ。どうせ敵国の王妃として処刑されるなら、ここで毒を飲んで死んでやるッ!」
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「そうはさせない」
瞬間、ルドラは魔法で光の剣を作ってヴァレリアの指を吹き飛ばしていた。
「きゃあああ!!」
毒のカプセルは床に落ちた。指と血と共に。
「弟……“ルドラ”の仇だ」
「――は?」
右手を押さえるヴァレリアは混乱していた。
わたくしも意味が分からなかった。
ルドラは、今なんて……?
「改めて名乗ろう。我が名はフェイルノート。本物のフェイルノートだ」
「え……は? 嘘おっしゃい! フェイルノートは戦場で殺したわ! このわたくしが!!」
けれど、ルドラは――いえ、フェイルノートは首を横に振った。
「違う。戦場に向かったのが弟なのだ。当時の俺は病で遠征が不可能になっていた。だから、代わりに弟のルドラが戦場に出たのだ」
……そう、だったのね。
だから、彼はどこかフェイルノートっぽい雰囲気がところどころにあったんだ。戦死したのは弟のルドラだった。
彼は弟を完璧に演じていたわけだ。
「フェイルノートなのね……」
「すまない、クリス。真実はこの時の瞬間まで明かさないと弟の墓前に誓っていたんだ」
「いいのです。わたくしは、あなたを信じていますから」
「ありがとう」
ヴァレリアに改めて剣を向けるフェイルノート。
衝撃的な真実に、彼女は愕然としていた。
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