さようなら、わたくしの騎士様

夜桜

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守ってくれるイケメン副団長

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「ローウェル、お前を連行する」


 緊急で駆けつけた騎士団の方たちによってローウェルは捕まった。これも計算の内で、執事のバルザックが予め近くに呼んでいたのだ。

 おかげで事はスムーズに進んだ。


「本当に本当に残念です」
「……クリス、どうか……」


 最後まで必死に助けてくれと懇願こんがんしていたけれど、彼に救いの手など差し伸べる必要がない。しっかりと罰を受けて欲しい。そう切に願うばかりだった。


 ミステル邸宅ていたくの広間は静かになった。
 一人の男性騎士を残して。


「ご協力感謝します」


 彼は一点のくもりもない真っ直ぐな視線をわたくしに向けた。
 さきほど数人いた騎士たちとは違う服装で、明らかに位の高そうな身なりをしていた。
 漆黒しっこくの髪、右目の下にある泣きボクロが特徴的。


「いえ。わたくしと彼は婚約していました。でも、彼が犯罪に手を染めていたなんて……ショックです」

「それは大変申し訳ないことを……」

 丁寧に頭を下げる騎士。でも彼が悪いわけではない。悪いのは全てローウェルなのだから。

「その言葉だけで十分です」
「では、私は彼の裁判手続きをしなければならないので」

「ありがとうございました。……あ、よければお名前を」

「そうでした、申し遅れました。私は副団長のルドラと申します。またどこかで会いましょう」


 彼は静かに去っていった。
 またどこかで……そうね、また会えるといいな。



 三日後。少し生活の落ち着きも取り戻した朝。
 庭にあるテーブルで紅茶を楽しんでいると突然、騎士が現れた。


「クリス……!」


 怒りをにじませた声。振り向くと、そこにはローウェルの姿があった。
 ど、どうして邸宅ここに!

 だって彼は捕まっていたはず。なのになぜ自由の身なの……?


「あなた、なぜ……」
「なぜ? 簡単なことさ。俺は監獄に収監されたが、脱獄したのさ」

「そ、そんな……」


 腰にたずえているさやから剣を抜くローウェル。目が血走っていた。
 まるで狂気や復讐に支配されているみたいな、そんな悪魔のような雰囲気をかもし出していた。


「よくも俺の人生をブチ壊したな、クリス!」


 刃を向けてくるローウェルは、わたくしの胸を目掛けて走ってきた。……え、ウソでしょう。ここで殺されてしまう? そんな、そんなのって……。

 逃げようにも距離が近すぎた。

 あっという間に接近され、剣が迫ってきていた。


 …………ああ、もうダメ。


 諦めかけたその時だった。


 ギンッと鈍い音がして刃が宙を舞っていた。
 なにが起きたの?


「……ぐっ」


 右手を押さえるローウェル。その顔は明らかに痛みにもだえているものだった。誰かがローウェルの剣を弾き飛ばしたようだった。

 いったい、誰が?


「間に合ってよかった」
「……ルドラ様!」


 そこには三日前に我が家に駆けつけてくれた騎士ルドラがいた。そうか、彼がわたくしを。
 よかった……。
 もし彼がいなければ、今頃は胸を貫かれていたに違いない。ルドラに感謝を。


「脱獄したローウェルを追っていたのさ。やはり、君の家に現れたか」
「追っていたんですね」
「ああ、そうだ。ヤツを捕まえる為に必死にね……!」


 堂々とした表情でルドラは、剣を構えた。横顔がとても凛々りりしくてカッコいい。この人なら……。


「しつこいぞ、ルドラ!」
「黙れ罪人。脱獄した以上、貴様は一生監獄で過ごすことになるぞ」

「大監獄バーバヤーガに戻る気などない。クリスを殺し、復讐を遂げる!」


 ふところから小さなナイフを取り出すローウェル。そこまでして、わたくしを亡き者にしたいの。もとはと言えば自分が撒いた種だというのに。
 なんて人なの。最低。


「ルドラ様……わたくし」
「大丈夫ですよ、クリス様。あなたの身はこの私が守る」


 その言葉を耳にして、胸がトクンとした。
 こんな状況なのに、わたくしは妙な感情に襲われていた。
 彼が、ルドラが気になって仕方ない。
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