公爵令嬢の白銀の指輪

夜桜

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公爵令嬢エリザの決意

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 大広間に招き、執事のアーノルドに紅茶を用意してもらった。少し味わって気持ちを落ち着かせてから改めてヨハンに聞いた。

「ここへ来たということは、伯爵に恨みがあるのですね」

「はい……大切な幼馴染を殺され、私の人生は大きく変わってしまった。なぜ止められなかったのかと後悔している毎日なのです。
 私にもう少し勇気があったのなら……こんなことには。せめて、彼女の無念は晴らしたい。そんな時、ヘイズが捕まったと聞いて」

「それで、わたしに相談しに来たというわけですか」
「そうです。このまま事件の真相が究明され続ければ、彼は必ず死刑になるでしょう。ですが、私には分かるのです……」

 ヨハンは唇を強く噛む。
 その手は酷く震えていた。

「なにが分かるのです?」
「ヘイズはきっと看守を買収しているでしょう。騎士団の中にも伯爵に味方する者がいると情報を得ています。このままでは彼は戻ってきてしまう。また被害者が出てしまうのです」

「そ、そんな、まさか……」

 けれど、伯爵という立場である彼ならやりかねない。止めないと大変なことになる。

「有益な情報をありがとうございます。さっそく騎士団へ問い合わせてみますね」
「エリザ様に相談して良かったです」

「いえいえ、わたしもヘイズを許せないので。このままにはしておけません」


 一旦、騎士団へ向かおうと席を立った時だった。アーノルドが現れ、少し慌てた様子でわたしを見た。


「お嬢様、大至急でお知らせしたいことがございます」
「どうしたの?」
「伯爵が釈放されたようなのです」

「なんですって!?」

「騎士団の話によれば、伯爵は多額の保釈金を支払ったとのことです。大量の金や宝石まで担保にして、異例の保釈となったようなのです」

 そ、そんな……殺人の罪が確定しているのに保釈が認められた? ありえないわ。死刑の場合、権利保釈の対象にはならない。それが帝国の法律。

 つまり、既に『買収済み』というわけね。
 そんな汚い手を使うだなんて。想定外の出来事に、わたしは動揺するしかなかった。
 こんな形で自由を得るだなんて。どんな手段もいとわないというわけか。

 こうなった以上、こちらも本気でいくしかない。

「ヨハンさん、ここから先はわたしにお任せください。なんとしてでも、あの悪人を牢へ送り返します。そして、必ずや罪を償わせますので」

「任せっきりになってしまい、申し訳ありませんエリザ様。私にも協力できることがあれば、なんでもおっしゃってください」

「ええ、その時はぜひお願いします」


 ひとまず、わたしは宮廷錬金術師・サリエリを頼ってみることにした。彼は不思議なほど権力を持ち、貴族にも顔が広い。
 博識な彼なら、きっと何か案を出してくれるはず。期待を胸に、わたしはキリエ城へ向かった。
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