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第11話

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 お屋敷に戻り、素敵な部屋を貰った。
 広い空間、広いベッド、広い机……何でも広かった。インタレスト侯爵のお屋敷も不便はなかったけど、それを超えていた。

「こ、こんな広いお部屋を貸して戴いて……いいのですか?」
「構わないよ。これからは一緒に力を合わせていく仲だからね」

 そんな美しいあおい瞳で見つめられると……胸が苦しい。わたしはどうかしてしまっている。これって……これって。

 考えただけで頭がどうかなりそうだし、顔が熱い。いっそ、彼に想いを……いえ、いきなりすぎるわ。もう少しお互いを知ってから……なんて思い悩んでいると、エドウィン様の兄・ルミトン様が険しい表情で現れた。


「エドウィン、状況がかんばしくないようですよ。ゾンビです、帝国周辺のゾンビが今宵は随分と活発のようなのです。私は様子を見に行こうと思うのですが」

「兄上、ひとりは危険だといつも言っている。僕も同行するし、ほら、ルシアの作ってくれた聖水ポーションがあれば襲われる心配はないよ」


 とても心配そうにわたしの作った聖水ポーションを渡される。


「ありがとうございます、エドウィン。それと、ルシア様。では、私は行って参りますので」


 冷静な表情でルミトン様は、すたすたと歩いて行ってしまった。自らゾンビの様子を見に行くだなんて……勇敢な人だなぁとわたしは思った。


「僕達は食事にしよう」
「いいんですか、こんな時に……」
「こんな時だからこそだよ、ルシア。君だって人間なんだから食べなきゃ倒れちゃうよ。ほら、食堂へ行こう」


 手を差し伸べられ、わたしは快く受けた。そうね、そうだった。無茶したって仕方がないし、倒れて聖水が作れなくなってしまっては本末転倒。



 廊下を歩き、食堂へ向かう。
 どうやら、ルミトン様が予め料理を作ってくれていたようでテーブルに並べられていた。なんて豪華。

 長テーブルの中央に何十本もの蝋燭ろうそくが刺さった燭台しょくだいがあった。その周囲にお皿が並べられ、目を楽しませるような色彩豊かなお野菜が盛られていた。あまりに綺麗な盛り付けで舌を巻く。いくらなんでも芸術的すぎ!


「た、食べるのが勿体もったいないです」
「あはは……兄上の趣味でね。さあ、座って」

 椅子を引かれ、わたしはお礼を言って着席。華やか晩餐ばんさんに心が躍った。
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