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第16話 エキャルラット辺境伯
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お屋敷の玄関まで戻ると、カエルム様は立ち止まられた。こちらへ振り向いて、申し訳なさそうな表情をされる。
「……スピラ様、申し訳ありませんでした」
頭を丁寧に下げられ、わたしは動揺する。
「何故謝るのです。カエルム様は何も悪くありません」
「いえ、あのインフラマラエ侯爵がスピラ様を傷つけるような言葉を……僕とした事が真面な反論も出来ず……。辛い思いをされましたよね、どうかお許しを」
「許しますし、気にしていません。だって、彼女に謝罪するよう言ってくれたじゃありませんか。ちゃんと謝って戴きましたし、ですから良いんです。お顔を上げて下さい」
「ですが……」
やっぱり辛そうにされる。
そこまで責任を感じてくれるとは……。
「そのお気持ちだけで十分です。わたしはカエルム様が味方になって下さって嬉しかったですし、わたしもカエルム様に何があっても味方ですよ」
「スピラ様……」
「ええ」
自然と見つめ合って……わたしはチャンスだと思い、瞼を閉じた。水中のは、ノーカウント! あれは人工呼吸だったから!
――その時。
ガシャンと割れる音がした。
え?
振り向くとそこには、見知らぬ紳士。
かなりお若い男性が……右手に持っていた植木鉢を地面に落とされ、驚いてこちらを見ていた。カエルム様がその紳士を認め、つぶやく。
「父上」
「え……えぇッ!? あの男性がお父様?」
「そうです。エキャルラット辺境伯で間違いありません。父上、領地から戻られたのですね」
お、お若い……。お兄さんとか言われても疑わないレベル。いったい何歳なのよ、この人。
「ただいま戻ったぞ、カエルム」
驚いていた割には、なんて落ち着いた口調。クールな方なのね。
気になってわたしは聞いた。
「あ……あの」
「ほぅ、これは綺麗な女性だ。カエルム、この方は?」
「スピラ・ネルウス様です」
今度は左手に持っていた植木鉢を落とした。そんなに驚く?
「……な、なんと。ネルウス家のご令嬢かね。これは失礼、私はテトラルキアです」
――って、なんか声小さいっ!
最初から何だか落ち着きっぷりが凄いと思ったけど、イメージとかけ離れすぎ……!
「スピラ・ネルウスです。いつもお世話になっています……」
「ああ、妻から聞いていますよ。スピラちゃんですね、カエルムの夫人になるわけですね」
「――――――!?」
ちょ……ウィンクルム様……。
どんな風に話されたのー!?
「こ……婚約はまだです」
「じゃあ、今直ぐしちゃうといいですよ。ほら、カエルムは毎日のように美しい女性から告白やらされていますからね。手紙も山のように……ですが、息子はスピラちゃんを気に入っているようですし、どうかこの愚息を宜しくお願いしますね」
な、なんで知ってるかなー…。
多分、ウィンクルム様ね。
「そ、その……カエルム様の心の準備もあると思いますし……」
「大丈夫です。僕はスピラ様一筋。一度はお見合いの予定だってあったんです。今度こそこの気持ちをお伝えしたい」
まさかエキャルラット辺境伯の前で……。身構えていると、カエルム様は言葉を続けなさった。
「スピラ様、僕と婚約を……」
返事は決まっている。
「――――もちろん、お受け――…」
「ちょっと待ったぁ!!」
肝心な所で邪魔が入るー!!
もう、誰よー!!
――って、このひと……。
「……スピラ様、申し訳ありませんでした」
頭を丁寧に下げられ、わたしは動揺する。
「何故謝るのです。カエルム様は何も悪くありません」
「いえ、あのインフラマラエ侯爵がスピラ様を傷つけるような言葉を……僕とした事が真面な反論も出来ず……。辛い思いをされましたよね、どうかお許しを」
「許しますし、気にしていません。だって、彼女に謝罪するよう言ってくれたじゃありませんか。ちゃんと謝って戴きましたし、ですから良いんです。お顔を上げて下さい」
「ですが……」
やっぱり辛そうにされる。
そこまで責任を感じてくれるとは……。
「そのお気持ちだけで十分です。わたしはカエルム様が味方になって下さって嬉しかったですし、わたしもカエルム様に何があっても味方ですよ」
「スピラ様……」
「ええ」
自然と見つめ合って……わたしはチャンスだと思い、瞼を閉じた。水中のは、ノーカウント! あれは人工呼吸だったから!
――その時。
ガシャンと割れる音がした。
え?
振り向くとそこには、見知らぬ紳士。
かなりお若い男性が……右手に持っていた植木鉢を地面に落とされ、驚いてこちらを見ていた。カエルム様がその紳士を認め、つぶやく。
「父上」
「え……えぇッ!? あの男性がお父様?」
「そうです。エキャルラット辺境伯で間違いありません。父上、領地から戻られたのですね」
お、お若い……。お兄さんとか言われても疑わないレベル。いったい何歳なのよ、この人。
「ただいま戻ったぞ、カエルム」
驚いていた割には、なんて落ち着いた口調。クールな方なのね。
気になってわたしは聞いた。
「あ……あの」
「ほぅ、これは綺麗な女性だ。カエルム、この方は?」
「スピラ・ネルウス様です」
今度は左手に持っていた植木鉢を落とした。そんなに驚く?
「……な、なんと。ネルウス家のご令嬢かね。これは失礼、私はテトラルキアです」
――って、なんか声小さいっ!
最初から何だか落ち着きっぷりが凄いと思ったけど、イメージとかけ離れすぎ……!
「スピラ・ネルウスです。いつもお世話になっています……」
「ああ、妻から聞いていますよ。スピラちゃんですね、カエルムの夫人になるわけですね」
「――――――!?」
ちょ……ウィンクルム様……。
どんな風に話されたのー!?
「こ……婚約はまだです」
「じゃあ、今直ぐしちゃうといいですよ。ほら、カエルムは毎日のように美しい女性から告白やらされていますからね。手紙も山のように……ですが、息子はスピラちゃんを気に入っているようですし、どうかこの愚息を宜しくお願いしますね」
な、なんで知ってるかなー…。
多分、ウィンクルム様ね。
「そ、その……カエルム様の心の準備もあると思いますし……」
「大丈夫です。僕はスピラ様一筋。一度はお見合いの予定だってあったんです。今度こそこの気持ちをお伝えしたい」
まさかエキャルラット辺境伯の前で……。身構えていると、カエルム様は言葉を続けなさった。
「スピラ様、僕と婚約を……」
返事は決まっている。
「――――もちろん、お受け――…」
「ちょっと待ったぁ!!」
肝心な所で邪魔が入るー!!
もう、誰よー!!
――って、このひと……。
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