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【4】 聖涙の制約
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胸が苦しくなるほど悩み続け、ミラはついに決断した。
「……分かりました、辺境伯様。まずはお話からでいかがですか?」
「もちろんだとも。聖女様の時間を割いて貰えるだけありがたい事だから……その、死者蘇生の仕事に支障はないだろうか」
「大丈夫です。今日からしばらくは休暇ですから」
「そうなのかい?」
「ええ、聖涙は膨大な魔力を消費する奇跡ですから、三日に一度はお休みしないと魔力が完全に枯渇してしまい、能力を失ってしまうんです」
死者の傷を癒し、魂を呼び戻す聖涙の力は、ミラの膨大な魔力を以てしても三百回が最高だった。この回数を超えてしまうと体への負荷が大きすぎ、力が衰えてしまう。それは、ウルスラグナ枢機卿からの忠告でもあった。
教えに忠実なミラは、言葉に従い休暇を貰っていた。魔力が戻るまでは、しばらくは死者蘇生の業務からは外れる。
「――そうか。万能の力の裏にはそんな事情があったんだね」
「ですので、三日間は誰にも死んで欲しくないのです」
「そうだね、そう思えば……僕は本当に不幸中の幸いだったわけだ。タイミングがずれていたら、蘇生は難しかったかもしれない」
「はい、聖涙の発動条件として死後三日以内という制約があります」
ミラは、そうウルスラグナ枢機卿から教えられていた。期限を超えてしまうと、もう死者は蘇れないと。それはミラを頼る帝国民も理解しており、三日を超えた場合は通常通りの埋葬となっていた。もしくは、闇取引でネクロマンサーに依頼する者もいるとか。
ともかく、ミラは教えに従い今は魔力の回復に努めていた。
――そんな会話を交わしながら、ミラとディンは帝国の街を肩を並べて歩く。
すると、周囲からの注目を直ぐに浴びた。ミラは大衆に顔が知れ渡っているから、信者も数多い。一方のディンも女性人気は高かった。いくら伯爵令嬢のネヴァロと婚約を交わしていたとはいえ、あの氷の王子のように整ったの顔立ちは、女性だけでなく多くの人間を引きつける魅力があった。
「なんだか、見られているね、ミラ」
「え、ええ……いつも散歩をすると話しかけられるんですが、今日はちょっと違いますね」
周囲の変化に戸惑うミラ。
それも当然だった。いつもは親し気に寄ってくる民が、今日は何事かと目を丸くしていたのだ。特にミラの隣を歩く辺境伯ディンの存在に驚いていた。
「ありゃあ、辺境伯様じゃないか」「ミラ様と付き合っているのかしら!?」「うそー! あの辺境伯様と?」「アヴァロン家の騎士様じゃないか」「でも戦死したんだよな」「ミラ様の奇跡で蘇ったって話だ」「へ~、あのイケメンだもん。死ぬのは勿体ないわ」「そうねえ、それにしてもカッコいい人ねえ」「ミラ様にぴったり」
ざわざわと民が集まって来ていた。ちょっとしたお祭り騒ぎになってしまい、ミラは慌てた。
「これは予想外だったね。ミラ、どこか静かな場所へ行こう」
「は、はいっ」
ミラは、男性に始めて手を引っ張られて心臓が高鳴った。次第に心音が五月蠅いほど響き渡り、顔を耳も真っ赤になった。
この気持ちはいったい何だろうと、ミラは不思議に思った――。
「……分かりました、辺境伯様。まずはお話からでいかがですか?」
「もちろんだとも。聖女様の時間を割いて貰えるだけありがたい事だから……その、死者蘇生の仕事に支障はないだろうか」
「大丈夫です。今日からしばらくは休暇ですから」
「そうなのかい?」
「ええ、聖涙は膨大な魔力を消費する奇跡ですから、三日に一度はお休みしないと魔力が完全に枯渇してしまい、能力を失ってしまうんです」
死者の傷を癒し、魂を呼び戻す聖涙の力は、ミラの膨大な魔力を以てしても三百回が最高だった。この回数を超えてしまうと体への負荷が大きすぎ、力が衰えてしまう。それは、ウルスラグナ枢機卿からの忠告でもあった。
教えに忠実なミラは、言葉に従い休暇を貰っていた。魔力が戻るまでは、しばらくは死者蘇生の業務からは外れる。
「――そうか。万能の力の裏にはそんな事情があったんだね」
「ですので、三日間は誰にも死んで欲しくないのです」
「そうだね、そう思えば……僕は本当に不幸中の幸いだったわけだ。タイミングがずれていたら、蘇生は難しかったかもしれない」
「はい、聖涙の発動条件として死後三日以内という制約があります」
ミラは、そうウルスラグナ枢機卿から教えられていた。期限を超えてしまうと、もう死者は蘇れないと。それはミラを頼る帝国民も理解しており、三日を超えた場合は通常通りの埋葬となっていた。もしくは、闇取引でネクロマンサーに依頼する者もいるとか。
ともかく、ミラは教えに従い今は魔力の回復に努めていた。
――そんな会話を交わしながら、ミラとディンは帝国の街を肩を並べて歩く。
すると、周囲からの注目を直ぐに浴びた。ミラは大衆に顔が知れ渡っているから、信者も数多い。一方のディンも女性人気は高かった。いくら伯爵令嬢のネヴァロと婚約を交わしていたとはいえ、あの氷の王子のように整ったの顔立ちは、女性だけでなく多くの人間を引きつける魅力があった。
「なんだか、見られているね、ミラ」
「え、ええ……いつも散歩をすると話しかけられるんですが、今日はちょっと違いますね」
周囲の変化に戸惑うミラ。
それも当然だった。いつもは親し気に寄ってくる民が、今日は何事かと目を丸くしていたのだ。特にミラの隣を歩く辺境伯ディンの存在に驚いていた。
「ありゃあ、辺境伯様じゃないか」「ミラ様と付き合っているのかしら!?」「うそー! あの辺境伯様と?」「アヴァロン家の騎士様じゃないか」「でも戦死したんだよな」「ミラ様の奇跡で蘇ったって話だ」「へ~、あのイケメンだもん。死ぬのは勿体ないわ」「そうねえ、それにしてもカッコいい人ねえ」「ミラ様にぴったり」
ざわざわと民が集まって来ていた。ちょっとしたお祭り騒ぎになってしまい、ミラは慌てた。
「これは予想外だったね。ミラ、どこか静かな場所へ行こう」
「は、はいっ」
ミラは、男性に始めて手を引っ張られて心臓が高鳴った。次第に心音が五月蠅いほど響き渡り、顔を耳も真っ赤になった。
この気持ちはいったい何だろうと、ミラは不思議に思った――。
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