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【3】 辺境伯
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青海のような右目。
夕焼けのような左目。
いわゆるオッドアイと呼ばれる瞳をしている男は、金の髪を揺らしながらミラを見つめた。男はこの瞬間を首を長くして待っていた。
ミラの存在を認め、嬉しそうに寄っていく。
「はじめまして、ミラ様」
「あ、あの……貴方はもしかして」
「ええ、僕はミラ様に命を助けて頂いた辺境伯のディンと申します。お礼が言いたくて……昨日はありがとうございました」
真っ直ぐな視線でミラをその瞳に映し出す。けれど、ミラにとってお礼は日常茶飯事だった。ミラは毎日のように感謝され、祈られ、崇められていた。故にこれも毎日のルーティンと考えていた。
きっとこれで終わり、もう会う事もそうない。あるとしたら、また遺体となった時だろう。ミラはそう感じていた。
「いえ、わたしは当然の事をしただけです」
なにも変わらない。
変わる事のない日常。
これから先も涙を流し続ける。
少なくともミラはそう思っていた。だから、踵を返し、教会へ戻ろうとした――けれど、今日は少し違った。
「ミラ様、僕と結婚して欲しいのです!!」
唐突にディンは叫んだ。
まるで心の底から声を出したような、そんな気持ちの篭もったセリフだった。あまりの声量に圧倒されたミラは、足を止めた。
次第に足から震え始め、手さえも震えていた。そんな風にプロポーズを受けた経験がなかったからだ。
まさか、こんな公衆の面前で求婚をされるなど、ミラにとって想定外だった。そもそも、恋愛経験がなく、いきなり“結婚してくれ”など、そんな大胆に求められた事など一度もなかった。
急な事態に、ミラは動揺して困惑した。
その間にも周囲のシスターが何事かと集まり、騒ぎになっていた。
「えっ、ミラ様が辺境伯様から求婚を!?」「え~、すごーい」「辺境伯様って、あのディン様? わぁ、高身長のイケメンね」「さすがミラ様ね、ああいう美男子が自然と寄ってきちゃうのよね」「羨ましいです……」「私だったらすぐにオーケーしちゃうけどなぁ」
羨望の眼差しを向けられ、ミラはますます焦る。
「け、結婚ですか……その、ちょっと、いきなりは……」
「そうですよね。急なお願いで申し訳ない。でも、僕は真剣なんです。本気なんです。何故なら、貴女を好きになってしまったから」
「……わたしが好き?」
「一度死んで目覚めて時、傍にミラ様……貴女がいた。雷に打たれたような気分でした。まさか死んだ僕に二度目の人生を与えてくれるだなんて感激しかなかった。だから、これは運命だと僕は感じたんです」
二人は無意識の内に見つめ合っていた。ミラは人生で初めて恋に落ちた。ディンもまた彼女の潤んだ瞳に動悸が激しくなっていた。
この時のミラはもう、まんざらでもなかった。聖女という立場だから、人々の救済を齎す存在でなければならず、ある意味では孤独であった。それ故に結婚など微塵も考えた事もないし、一生同じ暮らしを繰り返すのだと信じて疑わなかったからだ。けれど、ディンとの出会いがミラを大きく変えてしまった――。
夕焼けのような左目。
いわゆるオッドアイと呼ばれる瞳をしている男は、金の髪を揺らしながらミラを見つめた。男はこの瞬間を首を長くして待っていた。
ミラの存在を認め、嬉しそうに寄っていく。
「はじめまして、ミラ様」
「あ、あの……貴方はもしかして」
「ええ、僕はミラ様に命を助けて頂いた辺境伯のディンと申します。お礼が言いたくて……昨日はありがとうございました」
真っ直ぐな視線でミラをその瞳に映し出す。けれど、ミラにとってお礼は日常茶飯事だった。ミラは毎日のように感謝され、祈られ、崇められていた。故にこれも毎日のルーティンと考えていた。
きっとこれで終わり、もう会う事もそうない。あるとしたら、また遺体となった時だろう。ミラはそう感じていた。
「いえ、わたしは当然の事をしただけです」
なにも変わらない。
変わる事のない日常。
これから先も涙を流し続ける。
少なくともミラはそう思っていた。だから、踵を返し、教会へ戻ろうとした――けれど、今日は少し違った。
「ミラ様、僕と結婚して欲しいのです!!」
唐突にディンは叫んだ。
まるで心の底から声を出したような、そんな気持ちの篭もったセリフだった。あまりの声量に圧倒されたミラは、足を止めた。
次第に足から震え始め、手さえも震えていた。そんな風にプロポーズを受けた経験がなかったからだ。
まさか、こんな公衆の面前で求婚をされるなど、ミラにとって想定外だった。そもそも、恋愛経験がなく、いきなり“結婚してくれ”など、そんな大胆に求められた事など一度もなかった。
急な事態に、ミラは動揺して困惑した。
その間にも周囲のシスターが何事かと集まり、騒ぎになっていた。
「えっ、ミラ様が辺境伯様から求婚を!?」「え~、すごーい」「辺境伯様って、あのディン様? わぁ、高身長のイケメンね」「さすがミラ様ね、ああいう美男子が自然と寄ってきちゃうのよね」「羨ましいです……」「私だったらすぐにオーケーしちゃうけどなぁ」
羨望の眼差しを向けられ、ミラはますます焦る。
「け、結婚ですか……その、ちょっと、いきなりは……」
「そうですよね。急なお願いで申し訳ない。でも、僕は真剣なんです。本気なんです。何故なら、貴女を好きになってしまったから」
「……わたしが好き?」
「一度死んで目覚めて時、傍にミラ様……貴女がいた。雷に打たれたような気分でした。まさか死んだ僕に二度目の人生を与えてくれるだなんて感激しかなかった。だから、これは運命だと僕は感じたんです」
二人は無意識の内に見つめ合っていた。ミラは人生で初めて恋に落ちた。ディンもまた彼女の潤んだ瞳に動悸が激しくなっていた。
この時のミラはもう、まんざらでもなかった。聖女という立場だから、人々の救済を齎す存在でなければならず、ある意味では孤独であった。それ故に結婚など微塵も考えた事もないし、一生同じ暮らしを繰り返すのだと信じて疑わなかったからだ。けれど、ディンとの出会いがミラを大きく変えてしまった――。
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