毒はすり替えておきました

夜桜

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婚約破棄

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 いつもの生活。
 いつもの豪華なお料理。

 ずっとずっとこんな幸せな毎日が続くと信じていた。

 けれど。
 伯爵様の様子がおかしかった。

 フォークをテーブルに置くと彼は真剣な眼差しでこう口にした。

「……モネ、悪いんだが婚約を破棄してくれないか」
「…………なぜ。なぜ、今そんなことをおっしゃるのですか。そんなの嫌に決まっているでしょう」

「そうか、残念だ。でもいい、モネ……君はもう死んでいるのだから」
「え……」

「あと三十秒もしない内に君は毒に侵され、もがき苦しみ、死を迎えるだろう」


 残酷に笑う伯爵様。
 ああ、やっぱりね。
 彼の雇っているメイドから全てを聞いていた。

 だから。


「残念でした」
「なんだと」
「伯爵様、本当に残念でなりません」
「どういうことだ」

「この料理、すり替えておいたんです」

「……!? な、なにを――がァ!?」


 首を抑え、もがき苦しむ伯爵。テーブルの上のお皿や料理を薙ぎ払い、こちらへ向かってくる。


「婚約破棄も毒を盛ることも全て知っていたのですよ」
「き、貴様……モネ……」

「伯爵、わたしは本当に幸せだった。ずっとあなたと一緒にいたかった。なのに、なぜ裏切ったのです」

「…………モネ」


 ガタンと床に伏せる伯爵は力尽きた。
 もう意識はない。
 彼の体は急速に冷たくなってしまった。
 酷い人。
 当然の報い。
 わたしを裏切り、殺そうとした罰だ。
 さようなら、伯爵様。
 その後、わたしは裁かれることなく無罪となった。伯爵のわたしに対する殺意が認められたからだ。正当防衛とみなされたのだ。


 数日後。


 オレステイア伯が現れた。


「久しぶりだね、モネ」
「オレステイア伯……どうなされたのです」
「今回のことさ。僕が君を無罪にするよう、あっちこっちに取り合ったのさ」
「そうだったのですか」

 それで正当防衛が認められたんだ。
 オレステイア伯のおかげね。

「これからどうするんだい?」
「……特に考えてはいないのですが、新しい出会いは欲しいです。ひとりぼっちで寂しいので」

「そうか。なら、僕と一緒に来ないか」
「……ですが」

「君のような美しい女性を放ってはおけない。それにね、今回の毒殺事件の影響で、貴族たちは疑心暗鬼に落ちっているんだ」

「え……」

「この国に危険な毒物が流通していると噂が広まってしまってね。食事をとるのにも一苦労さ。でも、他の領地なら影響はない。僕の屋敷なら安全だよ」

 彼なら守ってくれる。
 わたしを無罪にしてくれたのもオレステイア伯なのだから。

 彼についていく。


 ◆


 その後、オレステイア伯はわたしを幸せにしてくれた。
 毒のない、幸福な毎日。
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