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シスターの君に恋心
憎いな。
しおりを挟むシャーロットを落ち着かせるために裸足になり海に足を浸すようにすすめてみる。
「落ち着いたか?」
「はい。ありがとうございます。」
シャーロットの目元は擦り過ぎのせいで赤く腫れていた。頬っぺたには乾いた涙の跡が残っている。
「何があったんだ?」
落ち着いたシャーロットにロイは問いかける。
シャーロットは腫れた目元を手で優しく触りながら話を切り出した。
「じ、実はアビーさんに私の思いを伝えたんです。」
「!!」
ロイは驚いた。初めて会った時、木の後ろに隠れながらそっとアビーを覗いていた少女がこんなに早く告白をするなんて。
「アビーさんにはやんわりと断られてしまいました。わかっていたことですが、やっぱり涙はでてしまいます。」
シャーロットは自分の両手に力を入れて握りしめる。それから少し口を開け深呼吸を3、4回繰り返す。これ以上涙を流さないように彼女なりに頑張っているのだろう。
ロイはそんな彼女をみて無意識に言葉を発していた。
「俺には恋とかよくわかんねぇや。」
ロイの言葉を聞いたシャーロットはキョトンとしてロイを見つめた。
ロイは己の発した言葉に戸惑ったが、なんとなく恋をするシャーロットに聞いてみたくなった。
「えっと、その、恋をするってどんな感じかなって‥」
ロイの問いかけに対して、シャーロットは海を眺めながら考えた。
「イカでございます!!!」
シャーロットは大声を出した。
「ロイさん!水分を抜いて干されたイカがあるのをご存知でしょうか?とある国から輸入された乾物なんです。前にお父様から少し頂いて食べてみたんですけど、噛めば噛むほど味が出て面白い味だったんです。」
「へ、へえ?」
この国でスルメが出てくることに少しの戸惑いを見せたロイは話の続きを聞く。
「恋もです!!ある日突然出会った新たな始まりを心が伝えてくれます。そして、それが味わえば味わうほど美味な物になっていくのです!!たとえ苦しく悲しい物語だったとしても!!それすらも佳味!」
シャーロットは話していくうちに熱が入ったのか力を強く片方の拳を上げ恋を語った。
ロイはシャーロットを内気な少女だと思っていたが、声を高らかに上げ恋について熱弁している彼女をみて考えを改めることにした。
「そうか、、、」
ロイはそれしか言えなかった。
「とにかく!心の声を聞くのです!その後に味わっていきましょう。」
シャーロットは失恋の悲しみをこのひとときだけ忘れ、ロイのために恋を伝えてくれる。
ロイはシャーロットが羨ましくなった。
心の声に導かれ恋をしている彼女はとても可愛らしいと思う。彼女に言われた通りに心の声に耳を傾けてみる。
チクリとした。針で胸を刺されたように。
針で傷ついた胸からは血が流れる。この血を止めなければ。だがどうやって?そもそも誰のせいでこんなことになったのか。
ロイはそんなことを考えながら更に心の声に耳を傾ける。なんだろう。これは。どうしようもなく怒りが、憎悪が、悲しみが聞こえてくる。
胸が苦しくなったロイは呼吸が乱れていく。
「ハァ、はぁはぁハア、、」
「大丈夫ですか!ロイさん!」
シャーロットの言葉で我に帰る。
「ロイさん深呼吸を!吸って、吐いて、ゆっくりですよ。」
言われたように呼吸を繰り返す。
ロイはなんとか落ち着きが戻った。
「どうなさったんですか?」
「いやちょっと嫌なことを思い出した。」
「嫌なことですか?」
「あぁ、やっぱり恋はわかんねぇや。」
シャーロットから目線をそらしてロイは悲しい表情を浮かべた。
ロイは思い出したのだ。どうしようもなく誰かを憎んでいたことを。それがエドワードなのかはわからない。でも、己に恋は程遠いのだという事はわかった。
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