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第2章「矢渕達也は常に異端児」
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教室に入った途端、和やかな空気がガラリと変わるのがわかった。
ガヤガヤと騒がしかったはずのクラスメイトたちが一斉に静かになり、様々な感情が入り乱れた視線をこちらへと向けてくる。
なるほど。確かに柊が言った通りこれは居心地があまりいいとは言えないかもしれない。
挨拶の1つでもしておくべきか迷ったが、視線の圧に負けてオレは黙って席に着くことにした。
さらば、オレの楽しい高校生活。
「なんでアイツ怪我してんだ?」
「さぁ?喧嘩でもしたんじゃない?始業式の後」
「呼び出しって奴?やっぱ蟻塚に歯向かうもんじゃねーな」
ヒソヒソと聞こえてくる話し声を無視して机に突っ伏す。
柊は大丈夫だろうか?今日は普通に休む可能性もありそうだが……まあ、その時はその時か。
そう思った矢先だった。
「あれ?窓ガラス割ったのに停学になんなかったんだ。運が良いんだね」
唐突にそんな言葉が聞こえ、ゆっくりと顔を上げたオレは目の前に座ってこちらを向いていた男子生徒と目が合う。
「何か用か?」
「いや?別に用って程の話はないよ。なになに、もしかして用がなかったら話しかけちゃダメな人だった?ごめんね?俺って結構空気読めないところあってさ」
「……そうか」
なんというか、この馴れ馴れしい感じは正直苦手なタイプだった。
愛嬌のある笑顔でニコニコと笑うその男子生徒は異性にかなりモテそうな容姿をしており、制服をだらしなく着崩しているその姿は見るからに不良って感じではある。
「せっかく席近いんだし、仲良くしない?1人でいたってつまんないでしょ?」
「急に距離を詰めてこられたら誰だって戸惑う」
「はは、それはそう」
カラカラと笑い、不良男はこちらを向いたまま頬杖をつく。
「んで?結城くんが消えた後に柊ちゃんも居なくなったけど2人でどっか行ってたの?」
「さぁな」
「えー、2人だけの秘密って奴?すげー気になんだけど!」
「ただその辺で座って話してただけだ。お前が想像してるようなものはない」
「ほーん」
何か含みがありそうな返事をする男から視線を逸らし、再び机の上に顔を伏せる。
コイツとは関わりたくない。なんとなくそんな感じがした。
「そういえば結城くんって何処の中学?この町?」
しかし、オレの意思に反比例するように目の前の男子はしつこく話しかけてくる。
「実は俺、隣街の中学でさ。あー、ちなみに柊ちゃんや蟻塚と同じね。で、蟻塚って結構幅利かせてる奴で正直ムカついてたんだけどさ。結城くんのおかげですげースカッとしたっていうか。あれ?聞いてる?おーい」
無視をし続けるオレに痺れを切らしたのか、男が机をガタガタ揺らし始めた。
ヤバい、キレそう。えっ、何コイツ。人を怒らせる天才か何かですか?
もういっそ殴り飛ばしてやろうかと思い始めたその時。
「おはよ」
背後から聞こえた優しい声に振り向くと、そこには鞄を持った柊が立っていた。
「あ、あぁ」
突然現れた柊に動揺しつつ挨拶らしからぬ挨拶で答えると、彼女はニコリと微笑む。
だが、そこへ。
「笑ってんじゃねーよ。気持ち悪い」
一体柊の何がそんなに気に入らないのか、不良男がボソリとそう呟き、オレは思わず睨み付けてしまう。
「おい」
「なに?もしかして結城くん怒ってんの?挨拶みたいなもんじゃん。そんなに怒んなって」
男はヘラヘラとした態度で言うが、当の柊は胸の前に置いていた手をぎゅっと握り、その顔に影を落としてしまう。
そしてそのまま何も言わずに自分の席へと座る彼女を見て、少しだけ胸が痛むのを感じたオレはガタリと音を立てながら立ち上がった。
「ちょっと来い」
教室内の視線が再び一気にこちらへ集まる中、オレは不良男を連れ出して校舎裏へと向かう。
途中、柊が心配そうな表情でこちらを見てきたが、今はそれに気付かないフリをした。
ガヤガヤと騒がしかったはずのクラスメイトたちが一斉に静かになり、様々な感情が入り乱れた視線をこちらへと向けてくる。
なるほど。確かに柊が言った通りこれは居心地があまりいいとは言えないかもしれない。
挨拶の1つでもしておくべきか迷ったが、視線の圧に負けてオレは黙って席に着くことにした。
さらば、オレの楽しい高校生活。
「なんでアイツ怪我してんだ?」
「さぁ?喧嘩でもしたんじゃない?始業式の後」
「呼び出しって奴?やっぱ蟻塚に歯向かうもんじゃねーな」
ヒソヒソと聞こえてくる話し声を無視して机に突っ伏す。
柊は大丈夫だろうか?今日は普通に休む可能性もありそうだが……まあ、その時はその時か。
そう思った矢先だった。
「あれ?窓ガラス割ったのに停学になんなかったんだ。運が良いんだね」
唐突にそんな言葉が聞こえ、ゆっくりと顔を上げたオレは目の前に座ってこちらを向いていた男子生徒と目が合う。
「何か用か?」
「いや?別に用って程の話はないよ。なになに、もしかして用がなかったら話しかけちゃダメな人だった?ごめんね?俺って結構空気読めないところあってさ」
「……そうか」
なんというか、この馴れ馴れしい感じは正直苦手なタイプだった。
愛嬌のある笑顔でニコニコと笑うその男子生徒は異性にかなりモテそうな容姿をしており、制服をだらしなく着崩しているその姿は見るからに不良って感じではある。
「せっかく席近いんだし、仲良くしない?1人でいたってつまんないでしょ?」
「急に距離を詰めてこられたら誰だって戸惑う」
「はは、それはそう」
カラカラと笑い、不良男はこちらを向いたまま頬杖をつく。
「んで?結城くんが消えた後に柊ちゃんも居なくなったけど2人でどっか行ってたの?」
「さぁな」
「えー、2人だけの秘密って奴?すげー気になんだけど!」
「ただその辺で座って話してただけだ。お前が想像してるようなものはない」
「ほーん」
何か含みがありそうな返事をする男から視線を逸らし、再び机の上に顔を伏せる。
コイツとは関わりたくない。なんとなくそんな感じがした。
「そういえば結城くんって何処の中学?この町?」
しかし、オレの意思に反比例するように目の前の男子はしつこく話しかけてくる。
「実は俺、隣街の中学でさ。あー、ちなみに柊ちゃんや蟻塚と同じね。で、蟻塚って結構幅利かせてる奴で正直ムカついてたんだけどさ。結城くんのおかげですげースカッとしたっていうか。あれ?聞いてる?おーい」
無視をし続けるオレに痺れを切らしたのか、男が机をガタガタ揺らし始めた。
ヤバい、キレそう。えっ、何コイツ。人を怒らせる天才か何かですか?
もういっそ殴り飛ばしてやろうかと思い始めたその時。
「おはよ」
背後から聞こえた優しい声に振り向くと、そこには鞄を持った柊が立っていた。
「あ、あぁ」
突然現れた柊に動揺しつつ挨拶らしからぬ挨拶で答えると、彼女はニコリと微笑む。
だが、そこへ。
「笑ってんじゃねーよ。気持ち悪い」
一体柊の何がそんなに気に入らないのか、不良男がボソリとそう呟き、オレは思わず睨み付けてしまう。
「おい」
「なに?もしかして結城くん怒ってんの?挨拶みたいなもんじゃん。そんなに怒んなって」
男はヘラヘラとした態度で言うが、当の柊は胸の前に置いていた手をぎゅっと握り、その顔に影を落としてしまう。
そしてそのまま何も言わずに自分の席へと座る彼女を見て、少しだけ胸が痛むのを感じたオレはガタリと音を立てながら立ち上がった。
「ちょっと来い」
教室内の視線が再び一気にこちらへ集まる中、オレは不良男を連れ出して校舎裏へと向かう。
途中、柊が心配そうな表情でこちらを見てきたが、今はそれに気付かないフリをした。
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