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第1章「結城湊斗はどこか世話焼き」
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学校から無断で脱走し、その辺の公園のベンチに座ったオレたちは適当に時間を潰していた。
正直、サボるという行為を今まで一度もしてこなかった分、かなり罪悪感がある。
不良ってすげーよ。
メンタルお化けだろ。
「……」
オレの隣に座り、少し落ち着かない様子の少女。
彼女もまたサボるという行為には不慣れなのだろう。
どこからどう見ても優等生って感じだし。
「無理しなくても良かったんだぞ?」
一応、気を使って声をかけてみたが、少女は首を横に振った。
「私のせいで教室に戻りずらくなってるのに1人にさせちゃうのは違うかなって」
両手を胸の前でギュッと握りながら話す少女にオレは苦笑いするしかなかった。
まだ仲良くもないような奴に優しくしすぎだろ。
どうなってんだこの子。
「なら、人と話すのは苦手か?」
「……え?」
「退屈しのぎに話し相手になってくれ」
「うん」
少女の言葉に、オレは少し考える。
提案したのはいいものの、こういう時って具体的に何を話したらいいんだろうか?
好きなことでも聞いてみるか?
なんか狙ってるみたいで気持ち悪いな。
逆に嫌いなことでも聞くか?
嫌がらせでもするのかオレ?
だったらいっそ休日に何をしてるのかとか……だめだな。なんかストーカーっぽい。
あっ、そういえば。
「名前聞いてなかったな。オレは」
「結城湊斗」
「へ?」
「結城湊斗くん、だよね?」
ちょっと自信なさげに聞いてくる少女。
だが、正解だった。
「よく知ってるな」
「……、クラス分けの紙で見たから」
「なるほど」
よほど記憶力が良いんだろう。
自慢じゃないがオレなんて誰一人覚えられてない。
「私は柊南帆」
「そっか。よろしくな、柊」
「うん」
微笑む柊を見て、オレも思わず笑顔になる。
「柊ってハーフなのか?」
「え?」
「その金髪って地毛だろ?染めてるようには見えないし」
染めた髪特有の違和感がないというか、ナチュラルすぎるというか。
純日本人には絶対に真似できないような明るい金色だった。
俺の質問に柊は少し考えるような仕草をすると、ふっと口元を緩めてこう言った。
「おばあちゃんがフランスの人だから」
「あぁ、そういうことか。綺麗だよな」
「え……、ありがと」
白く輝く金髪を指先で弄りながら、頬を赤くして俯く少女。
照れ隠しのつもりだろうか?
その仕草に俺は思わず見惚れてしまった。
「でも、駄目だよねやっぱり」
「……?なにが?」
「高校生なのに金髪なんて」
柊の顔に陰りが見え、声のトーンも落ちる。
言っている意味がわからなかったが、少し経ってようやくその言葉の意味を理解した。
「アイツらに言われたのか?」
「……」
返事はなし。
まあ、だいたいの予想は着く。
おそらくあの不良たちに何か吹き込まれたのだろう。
確かに染髪を禁止している高校は多い。派手な髪色の生徒が増えると風紀が乱れる、といった昔ながらの考えからきたものだろう。
しかし、それはあくまで他の高校の話だ。そもそもこの学校には染髪してはいけないなんて校則はないし、生徒の髪の色なんて教師は気にもしないだろう。
今の時代、子供の自由を縛る方がよほど問題だ。生徒が髪を染めて評価が落ちるのは学校側であって本人ではないし、それで成績が落ちるのなら本人の努力不足でしかない。
いつものオレならここで「そんなに気にしなくても良いんじゃないか?」などと無責任に言ってしまいそうなものだが、状況が状況だ。
柊にとっては何の慰めにもならないだろう。
せっかくの綺麗な金髪だ。
守ってやりたくはある。
「下手に抗って痛い思いするよりは良いかなって。言いなりになるのは……別に、慣れてるから」
「慣れるわけねーだろ」
「……、え?」
オレは小さく呟くと、空を仰ぎつつ続ける。
「今まで散々嫌な思いをしてきたってのにこれからもずっと同じ思いをしていかきゃならないなんて納得出来ないだろ?」
「……」
「気持ちは分かる。抗う為の勇気が一体どれほど必要で流されるままの方が一体どれほど楽かってことくらいは。オレも昔、太ってるって理由で虐められてたしな」
「そうなの?」
「まあ、結構思い出したくない記憶の1つではある。で、柊はどうしたいんだ?」
「私?」
「あぁ、誰かにああしろこうしろって言われたからやるんじゃなくて。ルールとか常識とか、そういうのなしで柊はどうしたい?」
答え次第ではオレも手助けしてやれるが、さて。
しばらく考えた後、柊は弱々しく小さな声で呟く。
「……、このままが良い」
「だよな」
オレは少し笑って見せる。
「なら、そのままでいれば良い。別に教師に言われたわけでもないんだし。また嫌な思いをしたら言えよ。オレがいくらでも励ましてやる」
「うん」
俯いて返事をする柊だったが、不意に顔を上げるとこちらを見つめてきた。
「どうした?何か顔についてるか?」
「格好良いよね。結城くんって」
「そうか?」
いきなり褒められたことに驚きつつ、オレは首を傾げて見せた。
「意外と普通の顔だぞ?まぁ、格好良く見せてるってのはあるけど」
「……、違う」
「ん?」
「なんでもない」
顔を逸らして拗ねる柊にオレはさらに首を傾げるしかなかった。
顔の話じゃなかったのか?
「結城くんは、どうやって変わったの?」
ふと、そんなことを聞いてくる柊。
どうと言われてもな。
「とりあえずオレは痩せることから始めたな」
「痩せる?」
「そ。言ったろ?昔太っててそのせいでイジメられてたって。見るか?」
そう言ってスマホを操作して画像フォルダを開く。
そこに写っているのは小学生の頃の自分だった。
今とは全然違う体型をしているが、それでも多少は面影がある。
「幻滅するだろ?」
笑いながら言うオレに、柊は小さく首を振ると真っ直ぐオレの目を見つつ答えた。
「可愛いね」
「は?可愛い?」
「うん、可愛い」
いやいやいや。ご冗談を。
自分で言うのも何だがこの頃のオレなんて可愛げの欠片もなかったぞ?
無駄にひねくれてたし。
「初めてだな、そんなこと言われたの」
「そうなの?」
「あぁ、みんなオレを避けてキモイキモイ言われ続けたしな。友達だって1人もいなかった」
今もいないけどな。
なんて自虐的なことを考えている間にも彼女は画面を食い入るように見つめている様子だったので、そっとポケットに仕舞うことにした。さすがにこれ以上見続けられるのはむず痒い。
「友達って……どうやって作るのかな」
ぼそっと呟いた柊に思わず視線を向ける。その表情には不安の色が滲んでいたように見えた。
「さぁな。柊もいないのか?」
「うん。私も……ずっと1人だったから」
言葉にこそしなかったが、おそらく柊もまた今まで相当辛い思いをしてきたのだろう。
そして、今もなお苦しんでいる。
苦しんで、もがき続けている。
そんな子にオレがしてやれることは。
「……そろそろ学校も終わったみたいだな」
学校のチャイムが聞こえ、始業式が終わったらしくぞろぞろと生徒たちが下校していく。
今日は流石に午前中で学校は終わりらしい。
「鞄取りに行くか」
「……」
返事はない。
見ると柊は胸の前で手を握り、少しだけ心配そうな顔をしていた。
無断で学校を抜け出したのだ。心配もするだろう。
だが、運が良ければ教師に気付かれず、そのまま家に帰れるかもしれない。
問題はあの不良たちだ。大人しく帰ってくれていればいいんだが。
どちらにせよ、自分から乗り込んだ船だ。最後まで付き合ってやるさ。
そう思いながら立ち上がると、オレは柊と一緒に教室を目指した。
正直、サボるという行為を今まで一度もしてこなかった分、かなり罪悪感がある。
不良ってすげーよ。
メンタルお化けだろ。
「……」
オレの隣に座り、少し落ち着かない様子の少女。
彼女もまたサボるという行為には不慣れなのだろう。
どこからどう見ても優等生って感じだし。
「無理しなくても良かったんだぞ?」
一応、気を使って声をかけてみたが、少女は首を横に振った。
「私のせいで教室に戻りずらくなってるのに1人にさせちゃうのは違うかなって」
両手を胸の前でギュッと握りながら話す少女にオレは苦笑いするしかなかった。
まだ仲良くもないような奴に優しくしすぎだろ。
どうなってんだこの子。
「なら、人と話すのは苦手か?」
「……え?」
「退屈しのぎに話し相手になってくれ」
「うん」
少女の言葉に、オレは少し考える。
提案したのはいいものの、こういう時って具体的に何を話したらいいんだろうか?
好きなことでも聞いてみるか?
なんか狙ってるみたいで気持ち悪いな。
逆に嫌いなことでも聞くか?
嫌がらせでもするのかオレ?
だったらいっそ休日に何をしてるのかとか……だめだな。なんかストーカーっぽい。
あっ、そういえば。
「名前聞いてなかったな。オレは」
「結城湊斗」
「へ?」
「結城湊斗くん、だよね?」
ちょっと自信なさげに聞いてくる少女。
だが、正解だった。
「よく知ってるな」
「……、クラス分けの紙で見たから」
「なるほど」
よほど記憶力が良いんだろう。
自慢じゃないがオレなんて誰一人覚えられてない。
「私は柊南帆」
「そっか。よろしくな、柊」
「うん」
微笑む柊を見て、オレも思わず笑顔になる。
「柊ってハーフなのか?」
「え?」
「その金髪って地毛だろ?染めてるようには見えないし」
染めた髪特有の違和感がないというか、ナチュラルすぎるというか。
純日本人には絶対に真似できないような明るい金色だった。
俺の質問に柊は少し考えるような仕草をすると、ふっと口元を緩めてこう言った。
「おばあちゃんがフランスの人だから」
「あぁ、そういうことか。綺麗だよな」
「え……、ありがと」
白く輝く金髪を指先で弄りながら、頬を赤くして俯く少女。
照れ隠しのつもりだろうか?
その仕草に俺は思わず見惚れてしまった。
「でも、駄目だよねやっぱり」
「……?なにが?」
「高校生なのに金髪なんて」
柊の顔に陰りが見え、声のトーンも落ちる。
言っている意味がわからなかったが、少し経ってようやくその言葉の意味を理解した。
「アイツらに言われたのか?」
「……」
返事はなし。
まあ、だいたいの予想は着く。
おそらくあの不良たちに何か吹き込まれたのだろう。
確かに染髪を禁止している高校は多い。派手な髪色の生徒が増えると風紀が乱れる、といった昔ながらの考えからきたものだろう。
しかし、それはあくまで他の高校の話だ。そもそもこの学校には染髪してはいけないなんて校則はないし、生徒の髪の色なんて教師は気にもしないだろう。
今の時代、子供の自由を縛る方がよほど問題だ。生徒が髪を染めて評価が落ちるのは学校側であって本人ではないし、それで成績が落ちるのなら本人の努力不足でしかない。
いつものオレならここで「そんなに気にしなくても良いんじゃないか?」などと無責任に言ってしまいそうなものだが、状況が状況だ。
柊にとっては何の慰めにもならないだろう。
せっかくの綺麗な金髪だ。
守ってやりたくはある。
「下手に抗って痛い思いするよりは良いかなって。言いなりになるのは……別に、慣れてるから」
「慣れるわけねーだろ」
「……、え?」
オレは小さく呟くと、空を仰ぎつつ続ける。
「今まで散々嫌な思いをしてきたってのにこれからもずっと同じ思いをしていかきゃならないなんて納得出来ないだろ?」
「……」
「気持ちは分かる。抗う為の勇気が一体どれほど必要で流されるままの方が一体どれほど楽かってことくらいは。オレも昔、太ってるって理由で虐められてたしな」
「そうなの?」
「まあ、結構思い出したくない記憶の1つではある。で、柊はどうしたいんだ?」
「私?」
「あぁ、誰かにああしろこうしろって言われたからやるんじゃなくて。ルールとか常識とか、そういうのなしで柊はどうしたい?」
答え次第ではオレも手助けしてやれるが、さて。
しばらく考えた後、柊は弱々しく小さな声で呟く。
「……、このままが良い」
「だよな」
オレは少し笑って見せる。
「なら、そのままでいれば良い。別に教師に言われたわけでもないんだし。また嫌な思いをしたら言えよ。オレがいくらでも励ましてやる」
「うん」
俯いて返事をする柊だったが、不意に顔を上げるとこちらを見つめてきた。
「どうした?何か顔についてるか?」
「格好良いよね。結城くんって」
「そうか?」
いきなり褒められたことに驚きつつ、オレは首を傾げて見せた。
「意外と普通の顔だぞ?まぁ、格好良く見せてるってのはあるけど」
「……、違う」
「ん?」
「なんでもない」
顔を逸らして拗ねる柊にオレはさらに首を傾げるしかなかった。
顔の話じゃなかったのか?
「結城くんは、どうやって変わったの?」
ふと、そんなことを聞いてくる柊。
どうと言われてもな。
「とりあえずオレは痩せることから始めたな」
「痩せる?」
「そ。言ったろ?昔太っててそのせいでイジメられてたって。見るか?」
そう言ってスマホを操作して画像フォルダを開く。
そこに写っているのは小学生の頃の自分だった。
今とは全然違う体型をしているが、それでも多少は面影がある。
「幻滅するだろ?」
笑いながら言うオレに、柊は小さく首を振ると真っ直ぐオレの目を見つつ答えた。
「可愛いね」
「は?可愛い?」
「うん、可愛い」
いやいやいや。ご冗談を。
自分で言うのも何だがこの頃のオレなんて可愛げの欠片もなかったぞ?
無駄にひねくれてたし。
「初めてだな、そんなこと言われたの」
「そうなの?」
「あぁ、みんなオレを避けてキモイキモイ言われ続けたしな。友達だって1人もいなかった」
今もいないけどな。
なんて自虐的なことを考えている間にも彼女は画面を食い入るように見つめている様子だったので、そっとポケットに仕舞うことにした。さすがにこれ以上見続けられるのはむず痒い。
「友達って……どうやって作るのかな」
ぼそっと呟いた柊に思わず視線を向ける。その表情には不安の色が滲んでいたように見えた。
「さぁな。柊もいないのか?」
「うん。私も……ずっと1人だったから」
言葉にこそしなかったが、おそらく柊もまた今まで相当辛い思いをしてきたのだろう。
そして、今もなお苦しんでいる。
苦しんで、もがき続けている。
そんな子にオレがしてやれることは。
「……そろそろ学校も終わったみたいだな」
学校のチャイムが聞こえ、始業式が終わったらしくぞろぞろと生徒たちが下校していく。
今日は流石に午前中で学校は終わりらしい。
「鞄取りに行くか」
「……」
返事はない。
見ると柊は胸の前で手を握り、少しだけ心配そうな顔をしていた。
無断で学校を抜け出したのだ。心配もするだろう。
だが、運が良ければ教師に気付かれず、そのまま家に帰れるかもしれない。
問題はあの不良たちだ。大人しく帰ってくれていればいいんだが。
どちらにせよ、自分から乗り込んだ船だ。最後まで付き合ってやるさ。
そう思いながら立ち上がると、オレは柊と一緒に教室を目指した。
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