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chapter9
化け物4
しおりを挟む荒谷新 side
「春は、そんな風に俺を呼ばない」
戸惑ったような表情をするニセモノは、どこからどうみても春と瓜二つの顔。
俺の記憶通りに。でも、呼び方だけじゃなく、うまく言葉にすることはできないが何かが明らかに違ってしまっている。
多分、あの転校生から感じた違和感がなかったのならこの小さな違和感に気付けなかった。
「俺は、シンって呼んでたよ。10年前も同じように。だから、君のことも覚えてる。」
「調べたのか。」
「怖い顔。………………シンは俺のことを疑ってるみたいだ。でも、こんな風に考えたことはないのか?この学園でシンが見てきた春と10年前の春は別人だって。」
「意味わからないことを………」
「コレ」
その春に似たニセモノが首元から取り出したモノに目を留める。
「コレを見ても、俺がニセモノだって言える?」
宙でぶつかった金属音が音を立てる。
俺の目の前にぶら下げられる指輪のネックレスが非常階段の蛍光灯に反射して光っていた。
「まだ、疑ってるの?………コレは5歳の誕生日に母さんから貰ったモノだよ。ここまで話しても俺はニセモノなの?」
「何で、ソレ………。」
「今、この学園にいる春は別人だよ。10年前のあの時に会った春は俺だよ。シン」
「意味わかんないことを言うな。同じ顔の人間が同時に存在するなんてありえな、い。」
いや__________。
つい、最近。どちらがどちらなのか全く顔の見分けのつかない双子を見た。でも、違う。そんなのありえない。
それに………。
「双子なら、ありえるでしょ?シン」
「双子は春と、」
「あんなに、色の違う双子が存在するわけがない。あそこまで似てない双子なんていない。」
__________ゴツン。
「あー。コレは、いったい。」
壁へと頭突きした額が壁とぶつかって鈍い音を立てたのを耳に拾いながら、ニセモノへと視線をむけると驚いたような顔をしたニセモノは俺をじっと見る。
「少しでも騙された俺が悔しい。ニセモノの口車に乗るところだった。春は〝似てない〟なんて絶対に言わない。あやめを傷つけるようなことを言わない。………春は、言わないだから。……………………もうやめろよ、ニセモノ。」
「………………くっ。アハハハ。格好いいね。君。」
突然、さっきまでの雰囲気を粉々にするように破顔したニセモノに目を白黒させる。
「そんなに、春が好き?怒った顔も格好いいね。」
「は?………何。」
「気が変わった。………そう。俺は春じゃないよ。本当は春のフリして近づこうと思ったけど、君には無理そうだ。だからご褒美だよ」
「…………アンタ、マジで何なんだよ。」
「君が春のことをそんなに好きだって言うから負けてあげたんだよ。婚外子なんて好きになるなんて可笑しくて。……………………あれ?何、知らなかったの?あ、もしかして婚外子ってわかんない?愛人の子ってことだよ。あ・い・じ・ん。」
春と同じ顔で喋るニセモノを力のまま壁へ押しつけると、顔を歪ませながら俺と視線を交差させる。
「何、嫉妬?春って気安く呼ばせたくないとか?この顔が好きで見惚れてたさっきの可愛い顔はどこにいったんだかな。」
「少し、黙れよ」
「愛人の子なんて聞いて____________軽蔑した?それとも、納得したか。………何で、天宮じゃなくて佐藤の名前使ってこの学園にいるのか。」
「軽蔑なんてするわけないだろ。春と同じ顔でそんなことを喋るなって言ってんだよ。」
「どうだかね。愛人の子なんて、恥ずかしくて公表できない天宮の当主の気持ちもわかるよ。」
「アンタ、何が目的だ。恨みでもあるみたいにめちゃくちゃなこと言って………。」
「あるよ。恨みってやつ。だから、目的はたったの一つ…………俺が君の大好きな春をめちゃめちゃに傷つけて一生消えないような傷って奴を植えつけること。…………そういうことだから、楽しみにしててよ。」
狂気を感じさせ暗く渦巻く瞳を見ながら
首筋に当たるバチリという感触と共に、意識が一瞬にして落ちた。
「油断大敵ってね。………さぁ、ゆっくりお休み。シャルン______________やさしいやさしい王子様」
(『春と同じ顔をした誰かは、優しく穏やかな笑みを浮かべて囁いた。でも、その笑顔は春のモノではない、別人のモノだった。』)
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