花は何時でも憂鬱で

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chapter7

影9

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【場面が代わり、寮のとある一室】


「僕に……何の用?」

蕩けるような甘い声を出す烏は
同じような身なりの_____顔を覆う烏の仮面を被り、身に真っ白なコートを目深く被った____男に対して凍てつくような視線を向けながら告げた。


「めぐむ様からのご依頼です」

「………拒否する」

「拒否は受け入れられません。ある生徒の監視が主な依頼です」

「…………聞こえなかった?………拒否、する」

「これは、お願いではありません。前々当主による命令です」

甘い美声の烏は、淡々と喋り続ける真っ白なコートを着る烏の喉元を潰すようにして片手で持ち上げると宙に浮かせ
ゆっくりと話し出す。


「………受けない。理解、しろ」

気道をふさがれて為す術なく、もがき苦しむ様に四肢を動かす烏の反応を哀れに思ったのか、それとも、滑稽に思ったのか握りつぶす様に持っていたソレを手放す。


「貴方様が………どれだけ拒否しようが私を使えぬ様にしようがっ…………別のものが毎日、現れるでしょう。ただ、受けると言えば終わること……っ、」

「………黙れ」

その二匹の烏の不穏なやり取りを遮ったのは
その部屋に鳴り響いたインターホンの音だった。


真っ白なコートを身につけた烏は
また来るとでもいうようにして一礼をすると
消え去っていた。


「……だれ」

インターホンの画面を覗き見る前に
何故か開いたドアから入ってきた人物たちに甘美な声の烏は目を丸めた。

「月ちゃんだぁっ!」

快活に叫ぶと同時に、思いっきり抱きつく門川に気圧され抱きつかれたままでいたが、部屋に入ってきたもう1人へと説明を求めようと視線を向けるが、速水の表情は崩れそうもない。

「……な、んで?」

「月ちゃんがいない間に、部屋の掃除をしてたから
合鍵作っちゃいましたぁっ!!」

銀色の鍵を指に引っ掛けながら
誇らしげに告げる、門川を見て
バツが悪いのか流石に視線を逸らす速水は
ボソリと告げた。

「まぁ、そういう事だ。」

「あ、因みにインターホン押したのは人の部屋だからいちおー、ね?」

「納得……しない」

「まぁ、まぁ。今度、月ちゃんの好きなグラタン作ったげるから」

「チーズマシマシなら………許す」

「やったぁ!!あ、そういえば月ちゃん。ここに来る最中ね、風紀の委員長に会ったんだけど、口元切ってた」

「そうだったか?」

「涼花、相変わらず無関心だねぇ」

ソファーに座る速水に対して、ブツブツと言いながら
戸棚にある煎餅を皿に取り出してソファーの前の机に置いて、門川は皿の上の煎餅を齧って床へと座り込む。

「相手に関心を持つと疲れるだろ。まぁ、風紀委員長の怪我は恐らく、会長だろうな」

「………涼、何で………そう思う?」

「月ちゃんでも、知らない事あんだね。んで?何で会長なの?」

「写真部と漫研の奴らが、洩らしてたんだよ。旧校舎から、会長と風紀委員長が出てきたって色めき立ってた」

「ほへぇ。………あの2人、仲良いんだね」

「………逆だ、逆。あの2人の関係は最悪だ。」

門川は、興味なさげに最後の煎餅を齧ると
新しいお菓子を出すためにキッチンへと向かう。
その姿を見送った、速水が口早に告げた。

「宗司、お前がいう化け物が何だか教えろ」

「………嫌って言ったら_____どう、する?」

「もう、その化け物に会ったんだろ。何時もの手袋はどうした?」

「………正解。気になるのは、誰のため?」

ソファーに座る速水の瞳を覗き込む烏の
フードの奥の瞳は妖しく妖艶にゆらゆらと揺らめく。

「………………さと、が好き?」

「冗談寄せ」

「ふふ。………嘘つき。さとを傷つけられる……いや?大切、したい。……正解、でしょ?」

瞑目している速水は、交錯していた視線を外して
盛大な溜息をつくと
烏のフードを下に思いっきり引っ張った。

「俺がアイツを好きに見えてんなら、とんだ情報屋だな。お前。さっさと廃業しろ」

「いたい。………ヒドイ、涼」

「酷くないわ、ボケ」

「………涼、口悪い。_____でも、ね?だいじょぶ。次は。………邪魔させない」

闇夜に浮かび欠けているあの月と同じように
烏は口元に弧を描いた。

「終わったら………グラタン。涼も………ちょうだい」

「誰が作るか」

「………意地悪。ね____涼。化け物には2種類あるんだよ。自分が化け物だと分かっている化け物と、自分が化け物だと分かってない化け物。………アレは、どっちかな?」





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