花は何時でも憂鬱で

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chapter6

囚われ3

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「坂田、その子に風邪引かせたいの?まだ、髪が少し濡れてる」

自然に近寄ってきて軽く俺の髪を梳いたその人は
お風呂場に入っていき、ミニタオルを出してくると
毛先をタオルで拭われる。

「ちゃんとふかないと、また、風邪ひくよ。」

いつのまにかドライヤーをセットしたのか
暖かい熱風を感じながら
その人を盗み見た。


やっぱり、何処かで会っている気がするけど
思い出せない。


ただ、この人の甘い匂いと仕草だったりは
嫌いじゃなかった。



「僕のことを見ても、何もないよ?ホラ、前見る」

「あの、……。いや、何でもないです。」


それから考えても考えても答えは出なかった。
ドライヤーを終えた後に、風紀委員長に怪我の手当てを
してもらったら、辺りはすっかり暗くなり時刻は夜を回っていた。


風紀委員長は、まだ、する事があるらしく
雪さんと帰ることになったのだが、


外に出ると、ざあっと音が響くほどの
雨が降り出した。


「おいで」

パンっと傘を開く音を聞きながら
雨雲の空を見つめていると手を差し出される。
その手を取れないでいると、きゅっと握り込まれる。

「行くよ……。今夜は、土砂降りらしいから」

「あの……っ」

「僕のことを知りたいなら、思い出してみて。ヒントはそうだなぁ、雨の日かな……?もし、分かったら僕の秘密も教えてあげる。」

「………秘密?」

「そう。誰にも言っていない秘密をね。」


傘に雨が当たる音を聞きながら
しいっと人差し指を立てると雪さんは、耳元で囁いた。

「君は僕の特別だから。」




部屋の中から、一向に止む気配のない雨の音を耳にしながら、鬼の面と演劇部に返していない鬘をテーブルの上に置いて壊れた腕輪を繋ぎ直そうとするけど、どうもうまくいかない。


「……裁縫くらい、習っとけば良かったな」

足の間に顔を埋めて溜息を吐く。


『春が出来ないことは、私がやるからいーのっ!!』


嬉しそうなあやめに気圧されて
裁縫やら料理やらは全くやってこなかった。
いや、違う……。


いくらやろうが、大惨事になって
途中でやめたんだっけか。



ふと、カレンダーが視界に入って
もう直ぐゴールデンウィークに入ることを思い出した。


「遠くからでも見に……。いや、」

余計な事をして、問題になったらと思うと
とてもじゃないけれどいけない。
それに、近くに行ったとしても会えないんだから
意味なんかない。


そういう、約束なんだから。



「よし。もう一回」


その腕輪がなんとか見れる形に修復できたのは
翌朝のことだった。




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