花は何時でも憂鬱で

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chapter4

毒を呑む

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雪 side


「君に、毒は吞み込める?」 

「アンタ、確か。保健室にいた。」

「随分、生気のない顔しちゃってまぁ。」

寮のホールで目的の人物が通るのを待っていると
どこか気落ちしたような表情で歩いている
荒谷新くんを見つけて声をかける。


「先輩に対して、アンタっていうのは頂けないなぁ。」

「あぁ、すいません。」

「ふふっ。そんなに素直に謝られると僕が悪いことをしてるみたいじゃない。雪だよ、僕の名前は雪です。どうぞよろしく。」

「それで、俺に何か?」

「毒は呑み込めたかと思って、ね。あの子にとっての【毒】。」

「いったい、どういう意味なんですか。ソレ」

唇の前で人差し指を立てて、瞳を細める。


「さぁ。それは、自分で考えなよ。けど、きっと一生かかっても分からないだろうね。」

「優しさが毒だって、言いましたよね?」

「あの子が言ってたんだよ。君のその優しさが【毒】だってね。」

「優しいのが毒って意味がわかりません。俺は、別にただ笑って欲しいだけなんですよ。」

「君はさ、本当にあの子を見てたの?」

「……ぇ?」

「それとも、見ないふりしてた?僕には叫んで見えたよ。君の何気ない優しさが痛い、苦しいって。」

荒谷くんの瞳の奥が一瞬強張って
目を伏せた。

「でも………やっぱり、嫌なんだよ。せっかくまた会えたのに。諦めたくないんですよ。雪さん。」

「じゃあ、何で優しさが痛いと思うか分かる?何であの子があんなに痛がってるのか。」

「………何で、」

「分からない?そういう優しさとか暖かい感情が嫌いな人間だから?違うよ。他人からのそういう感情を受け取ることが自分には過ぎると思ってるから。貰っちゃいけないものだと思ってるからだよ。他人から貰うことができる優しさとか、暖かさを、あの子は、きっと忘れてる。」

「_______っ!」


最低な人間だと思うよ。
こんなことして目の前の荒谷くんを追い詰めてる
最低だ。


それでも、何処か似てたから。
例え、今、2人が歩み寄ろうとしても待ってる結果は
同じだったのだ。


決別は見えている。



今の荒谷くんと佐藤くんの関係性は
兄さんとアイツと似てる。












「______にぃ?痛いの?」

「ううん。痛くない、ただ。僕が悪いんだ。想われることが嬉しくて突き放せなくて結局傷つけてしまうんだ。優しいからこそ、痛い。痛いんだよ。」

「泣かないで、______にぃ。なかないで?」

「泣いてないよ。ほら」


兄のいう言葉の意味をきちんと理解していたわけじゃなかった。


でも、そういって微笑んだ兄さんの笑顔が
ひどく痛々しかったのを覚えている。


願わくば、あんな誰かの姿は見たくない。



でも、もしも荒谷くんがアイツとは違う結果をもたらしたら?


「ねぇ、荒谷くん。もう一度だけ聞くよ。君は、あの子にとっての毒を吞み込める?佐藤蒼くんのために。
その優しさを捨てられる?」

「優しさを捨てる?」

「あの子と一緒にいたいなら、それを捨てて。」


そして、きっとあの子は酷く冷たい子だ。
何となくそんな気がしてならない。



どんなに親切にしてくれた人でも
簡単に切り捨ててしまうような冷酷さを
脆さを感じさせる。



「できるなら、あの子を嫌って。それがダメなら利用して。」

嫌われる事が当たり前のように思ってる子だ。


だって、あの雨の日。
触れた身体が震えていたのはきっと雨で身体が濡れたせいではない。


その瞳の奥は、何処か怖さを滲ませていたから。
触れられる体温が怖い、と。


雨の中
言葉ではなく全身で叫んでいた。



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