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2章

迷走の後始末 1

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 略式の謁見に用いられる部屋――レジナルドと最後に顔を合わせた一室。エレノーラは豪奢な椅子の上であくびを一つ噛み殺した。

「女王陛下は建国の功臣を軽んじておられる!」

「臣下の忠誠をないがしろになさるようでは、人心も離れてしまいますぞ。その点、先王陛下はご立派でいらっしゃいました」

 はなやかというよりけばけばしい装いの貴族たちの、装飾過多でまったく実のない訴えがようやく終わった。要は彼らから取り上げた宮廷での地位を返してくれ、と言うのだ。

 彼らは家柄が良い。いわゆる建国の功臣の子孫に当たる。継承権を主張できるほどではないが、王家の血をひいた者もいる。

 ただし良いのは家柄だけだ。初代の遺産を数代かけて食いつぶし、目立った功績どころか不祥事を起こして爵位を降格された者さえいる。そんな彼らは先王レジナルドに泣きついて情に訴え、持ち上げて自尊心をくすぐり、それらしくでっち上げた役職を得た。そうして宮廷に屯しているだけでたっぷりと俸給を受け取っていたのだ。

「……たしかに貴方方のご先祖はご立派でしたわね。この国も彼らなくしては成り立たなかったでしょう。
 では、貴方方は?貴方方ご自身はこの国に、わたくしに、何をしてくださったの?」

エレノーラの言葉にあわせて、貴族たちの表情は見事な浮き沈みを見せた。控えている秘書官は失笑を冷静な表情の下に押し込めた。

「……わ、私どもも非才の身ではございますが、精一杯のご奉公を……!」

「それはわたくしの寝室に薄汚い野良犬を送り込もうとなさったことかしら?」

 貴族たちの多くがある偏見を持っていた。『エレノーラは身分が高く容姿に優れた男性を好む』という思い込みだ。そのどちらも満たしていないダグラスを夫としたことを『逃亡中に手近で済ませた』と意地の悪い見方をする者もいる。

 そして、中でも野心のある者は考えた。血筋が良く見目の良い若い男をあてがえば、女王などたやすく手懐けられる、と。

 今女王の前にいる者たちもそうだ。風采の良い身内の男を見繕ってあれこれと怪しい計画を立てていた。事はどの辺りまで露見しているのか。疑心に駆られて朋輩の顔と女王の顔の間で視線を忙しく動かしつつ、口をむなしく開閉させる。

「お言葉ですが陛下。さすがに陛下に不貞をそそのかす目的ではないのでは」

 秘書官の思わぬ援護を受けて貴族たちが生色を取り戻す。だが、味方と判断するのは甘かった。彼女の発言が進むにつれて、再び血の気を失っていった。
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