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黒い羊はダイヤモンドの夢を見るか
遁走聖女は食い倒れたい
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クロエは串焼きの包みを抱えてほくほくと『自宅』に戻った。アイディア料として一本分負けてくれたので、なおさら気分が良い。
浮かれていると、肩の上で精霊が跳びはねて抗議した。
「いや、ちゃんと君たちの分も買って来たじゃない。あの場で一緒に食べたら、怪奇現象だからね?君たちが見えない人たちの方が、多数派なんだから」
「キュー!」
「そうだね、早く食べないと冷めちゃう」
空間収納から皿を取り出し、串焼きをのせる。
「串から外してあげなくて平気?」
「ウキュー!」
まだ十分に熱い串焼きに、毛玉たちがわらわらと群がる。彼らは別に食べなくても支障は無いのだが、美味しいものは好きらしい。酒や茶も喜んで飲む。眺めていたクロエは、ふと疑問に思った。
――見た感じ、口がどこにあるか分からないけど。どうやって食べてるんだろ?
しかし、すぐに疑問を頭から追い出した。もしもどこかの流氷の天使のような食事風景だったら、すっかり見方が変ってしまう。あまり見ない方が良い気がした。
クロエの葛藤をよそに、毛玉たちは皿の上のものを串だけ残して綺麗に平らげた。ソースすら残さずぴかぴかだ。様々な配色の毛並みがべたべたに汚れていても不思議はないが、汚れ一つなく、もふもふが保たれている。
精霊の生態の謎からあえて目をそらして、クロエはステータスのスキル欄を表示させた。『空間操作』で、いったん記録しておいたポイントにはすぐに移動できる。そのポイントに、今日見つけたあの屋台を加えて置こうと考えたのだ。
生まれ育った国を飛び出してきて以来、クロエは自分のスキルで作り出した『自宅』を拠点に、自由気ままに各地を渡り歩いている。
何しろ異世界なのだ。何かにつけて珍しい。スキルと精霊のアドバイスが身を守ってくれるので、好奇心にまかせてあちこち入り込んでも安心なのだ。人里離れた場所であっても、一瞬で『自宅』に戻れるのだから、宿に困ることもない。
作りたいものを指定して、スキルで作った異空間の中に材料を放り込めば、たいていのものが出来る。つまり、スキルまかせでも材料だけは必要なので、ふらふらと探し回る。その過程も彼女には楽しい。
少しずつ『自宅』が快適になっていくのが目に見えて、気持ちを浮き立たせる。
それに、せっせと食べ歩きをして、お気に入りの店を増やすのも、クロエの大切なライフワークだ。
さすがに元の世界よりも大味な料理が多い印象ではある。だが、今日のような『あたり』の店もあるのだ。
「あ、でもあの屋台ずっと同じ場所にいるのかな。本格的なお店持つための資金稼ぎだったら良いんだけどなあ」
「キュウ?」
「そりゃあ、ちゃんとしたお店を持った方がメニューが増えるだろうし。あのソースをアレンジして煮込みハンバーグ作ったら、絶対美味しいと思う。……でも、屋台向けのメニューじゃないから、今のままじゃあね」
もふ精霊がぼわっと膨らんでから、すぐにつぶれた。『期待を裏切られた』という風情だ。
材料さえ揃えば、作り方が分からなくてもクロエのスキルで料理を作ることはできる。しかし、あくまでも彼女が知っている食べ物だけだ。
異世界に転生したからには、元の世界には無かった材料や調理法で作られた、この世界だからこそ、という料理が食べてみたいのだ。
「あの店は伸びると思う」
クロエは力強く断言した。周りに居る毛玉たちも、期待につぶらな目を輝かせる。
「とりあえず、新メニューのできる頃に、また行こうね」
「キュッキュー!」
食い意地の張った者同士、クロエともふ精霊たちは、食い倒れ計画に盛り上がった。
浮かれていると、肩の上で精霊が跳びはねて抗議した。
「いや、ちゃんと君たちの分も買って来たじゃない。あの場で一緒に食べたら、怪奇現象だからね?君たちが見えない人たちの方が、多数派なんだから」
「キュー!」
「そうだね、早く食べないと冷めちゃう」
空間収納から皿を取り出し、串焼きをのせる。
「串から外してあげなくて平気?」
「ウキュー!」
まだ十分に熱い串焼きに、毛玉たちがわらわらと群がる。彼らは別に食べなくても支障は無いのだが、美味しいものは好きらしい。酒や茶も喜んで飲む。眺めていたクロエは、ふと疑問に思った。
――見た感じ、口がどこにあるか分からないけど。どうやって食べてるんだろ?
しかし、すぐに疑問を頭から追い出した。もしもどこかの流氷の天使のような食事風景だったら、すっかり見方が変ってしまう。あまり見ない方が良い気がした。
クロエの葛藤をよそに、毛玉たちは皿の上のものを串だけ残して綺麗に平らげた。ソースすら残さずぴかぴかだ。様々な配色の毛並みがべたべたに汚れていても不思議はないが、汚れ一つなく、もふもふが保たれている。
精霊の生態の謎からあえて目をそらして、クロエはステータスのスキル欄を表示させた。『空間操作』で、いったん記録しておいたポイントにはすぐに移動できる。そのポイントに、今日見つけたあの屋台を加えて置こうと考えたのだ。
生まれ育った国を飛び出してきて以来、クロエは自分のスキルで作り出した『自宅』を拠点に、自由気ままに各地を渡り歩いている。
何しろ異世界なのだ。何かにつけて珍しい。スキルと精霊のアドバイスが身を守ってくれるので、好奇心にまかせてあちこち入り込んでも安心なのだ。人里離れた場所であっても、一瞬で『自宅』に戻れるのだから、宿に困ることもない。
作りたいものを指定して、スキルで作った異空間の中に材料を放り込めば、たいていのものが出来る。つまり、スキルまかせでも材料だけは必要なので、ふらふらと探し回る。その過程も彼女には楽しい。
少しずつ『自宅』が快適になっていくのが目に見えて、気持ちを浮き立たせる。
それに、せっせと食べ歩きをして、お気に入りの店を増やすのも、クロエの大切なライフワークだ。
さすがに元の世界よりも大味な料理が多い印象ではある。だが、今日のような『あたり』の店もあるのだ。
「あ、でもあの屋台ずっと同じ場所にいるのかな。本格的なお店持つための資金稼ぎだったら良いんだけどなあ」
「キュウ?」
「そりゃあ、ちゃんとしたお店を持った方がメニューが増えるだろうし。あのソースをアレンジして煮込みハンバーグ作ったら、絶対美味しいと思う。……でも、屋台向けのメニューじゃないから、今のままじゃあね」
もふ精霊がぼわっと膨らんでから、すぐにつぶれた。『期待を裏切られた』という風情だ。
材料さえ揃えば、作り方が分からなくてもクロエのスキルで料理を作ることはできる。しかし、あくまでも彼女が知っている食べ物だけだ。
異世界に転生したからには、元の世界には無かった材料や調理法で作られた、この世界だからこそ、という料理が食べてみたいのだ。
「あの店は伸びると思う」
クロエは力強く断言した。周りに居る毛玉たちも、期待につぶらな目を輝かせる。
「とりあえず、新メニューのできる頃に、また行こうね」
「キュッキュー!」
食い意地の張った者同士、クロエともふ精霊たちは、食い倒れ計画に盛り上がった。
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