全てを諦めた令嬢の幸福

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終焉と黎明

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『おねがい!!私の記憶の欠片を…探して!!』

「記憶の欠片??それは、、いったいどういうことなの…?」

『お、、い、、』

「ルティシアーナ?!!」

   突如響いた声は聞こえなくなり、その場には沈黙が流れた。

   記憶の欠片?…そんなもの私は知らないわ。それにこの暗い世界に記憶の欠片らしきものなんて…1度も見たことがないわ。

   ルティシアーナのいう記憶の欠片…それがどういう物なのか…どこにあるのかシルヴィアは知らない。

「どうしましょう……」

   この暗い世界がどのくらいの広さなのか知らない。むやみやたらに探したとしても、必ず時間がかかるはず。ルティシアーナの声は焦りが混じっていた…つまり、直ぐに見つけなければならない。

「シアちゃん?」

「?」

   考え込むシルヴィアにシルヴィアの母エリチカは、声をかけた。

「記憶の欠片?かしら?…お母さんもしかしたら知っているかもしれないわ~」

「!?本当ですか???」

「えぇ、少し歩くと思うけど…着いてきてちょうだい」

「はい!」

「その前に…はい!」

「えっ?」

   お母様は、私に手を差し出してきた。何故、お母様が手を差し出してきたのか分からず困惑しているとお母様が教えてくれた。

「離れないように…それに、、、私がシアちゃんの手を握りたいから…ダメかしら?」

「…っいえ、、、私もお母様と手を繋ぎたいです…」

「うふふ、なら良かったわ~」

   握りしめた母の手は、温かかった。母は、シルヴィアの手を引き歩き始める。

   お母様に手を握ってもらうのは、新年の時以来になるのね…ん?

   ふと、気になった。

「お母様…お母様はなぜ、、新年の時…この世界からでられたんですか?」

「あら?言ってなかったかしら?」

「はい」

「あの日の新年は…特別だったからよ」

「特別?」

「あの日は400年に一度、精霊が眠りにつく日だったの…シアちゃんはリアリナが何者か知っているかしら?」

「いえ……ただ、この世を見守る傍観者であり、星を読み取る巡りの魔女だとしか……」

「そう、、、私から言っていいか分からないけど…彼女は精霊よ」

「精霊!?」

「えぇ!その日は、リアリナの封印の力が弱まって…何故か出れたのよ~不思議ね~」

「……そうですね。。」

「そういえば…あの時、、誰かが私の背中を押してくれたような…?」

「背中を…?」

「えぇ、『あの子に会ってあげて』って…さっき聞こえてきた声に似ていた気がするわ…」

「……」

   ルティシアーナは、私の心の中にお母様がいることを知っていたのね。だから、新年の日にお母様に会わせてくれたんだ。。。

「さあ!着いたわよ!ここが多分?記憶の欠片じゃないかしら??」

「えっ!?」

   エリチカの声に顔を上げると目の前には色様々なガラスの欠片が散らばっていた。
   
「これが……記憶の欠片…?でも、、全て砕けているわ」

「そうね~。あら?シアちゃん、このガラスとあのガラスの欠片同じものじゃないかしら?」

   エリチカが指さす2つのガラスは確かに同じ柄が入っていた。

   砕かれたガラスを組み合わせれば……何かが起こるのかしら?

「お母様…ここで少し待っていてください」

「うふふ、嫌よ」

「え?」

「せっかくの娘との共同作業なんだから~お母様もするわ」

「で、でも……これは私の問題ですし、、」

「娘の問題なら母の問題でもあるのよ?それに…恩返しをしないと…だから手伝わせて?」

「……分かりました」

   2人は砕け散ったガラスの破片を繋ぎ合わせていく。一枚…また一枚とガラスは集まり一枚の絵が完成した。

   青い湖が描かれたガラス絵は青い光を…

   緑が生い茂る森が描かれたガラス絵は緑の光を…

   土が実りを与え豊作が描かれたガラス絵は茶の光を…

   黄色い街を照らす太陽が描かれたガラス絵は黄色い光を…

   赤い焚き火が描かれたガラス絵は赤い光を…

   そして最後に…暗い灰色の牢屋が描かれたガラス絵ができあがった。

「これで全て…」

ーーカチッ

   最後の欠片をはめた瞬間、完成した全てのガラス絵は眩く光ながら泡になり上へ上へと登り始めた。泡には色々な感情やルティシアーナの記憶の一部が映し出されている。彼女が嬉しかったこと、楽しかったこと、怒ったこと、悲しんだこと…そして、絶望したこと。砕け散った欠片は今完全なものとなって彼女の元へ返ったのだろう。

「シアちゃん…」
   
   暗闇の中様々な光の泡が登る幻想的な光景に目を奪われているとエリチカが声をかけてきた。

「お母様?…っ!」

   振り返るとエリチカの体が透けていることに気がついた。信じられなくその場に立ちつくすシルヴィアを抱き寄せたエリチカは別れの挨拶を始める。

「もう…お別れみたいね」

「…っゃ、、いやっ!」

「シアちゃん…」

「やっと、、やっと会えたのに……いやです!」

「シアちゃん…短い時間だったけど…あなたと話せて楽しかったわ」

「お母様……」

「大丈夫よ…いつでも母はあなたを見守っているわ。それに、貴方は愛されている。だって、貴方は私の大切な娘なんだもの」

「、っ」

「さぁ、シアちゃんも戻りなさい…現実に。あなたを愛してやまない人たちを悲しませちゃだめよ?」

「……はい。ありがとう…お母様……さようなら…」

「うふふ、さようなら…私の大切な子……また、、いつか、、、」

   最後までエリチカは笑顔を絶やさず、ルティシアーナの記憶の欠片と共に泡となって消えた。その場に一人取り残されたシルヴィアは、涙を脱ぐい現実に戻るために一歩踏み出す。

   
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