43 / 86
狂気と傀儡
4
しおりを挟む「きゃぁぁぁぁああ!!!」
「だ、誰か、、助けてくれっ!!」
家を出て最初に聞いたのは街の人々の悲鳴だった。町娘の服を着たシルヴィアと宮廷魔法士のローブを着たヴェルティは顔を見合わせて頷いた。
『ルフっ!!』
ー 魔獣は、、盗賊は、、どの方角にいるの??
そう思いを込め、ルフの名前を呼んだ。付き合い初めて3年…長くもなく短くもないルフとシルヴィアだが、確かに2人には“主と従魔の絆”が存在していた。
主であるシルヴィアの思いを汲み取ったルフは南に飛んで鳴いた。
ー ピィィィィイイン!!
「シアさん?」
「どうやら…南の門から侵入したようです…」
「了解ですわっ!では、事前に話し合った通り私は街人の保護に…シアさんは盗賊の拘束に」
「はい!お願いします!」
2人は南の門に向かって走り始めた。“盗賊を捉えれば全てが終わる”と信じて…だからシルヴィアは躊躇してしまった。正しいと思ったことが、救えると思ったことが…誰かを追い詰めていたなんて…思ってもいなかったから。
◇◇◇
南の門についた2人はヴェルティの魔法発動開始と共に別行動を始めた。ヴェルティは魔獣から街人を保護し落ち着かせ、シルヴィアはわざと盗賊に自分が見えるように動き始めた。
目的は私の“左眼”のはずです。
わざわざ右眼を眼帯にして目立つようにしていたシルヴィアは、すぐに盗賊に見つかった。遠目でヴェルティの様子を確認し、自分に意識が向いた盗賊たちを人気のない方向へ誘導させる。
お茶…いえ、解毒のおかげで街の人々は正気を保てていたのが心配でしたが…ヴェルティさん上手くその場をまとめたようですね。
人は、1人がパニックになると伝染するようにそれが広がっていき収拾がつかなくなる。それを心配していたが杞憂だったようだ。ヴェルティは街の人々と魔獣の間に水のシールドを張り、魔獣より先に街の人々の精神ケアをしていたからだ。
ヴェルティさん、そちらは任せました!私は…
後ろを振り返り自分を追いかける魔獣と盗賊を見た。数匹、街人の方へ魔獣は残っているが大半の魔獣と盗賊はシルヴィアを追いかけてきたようだ。
こちらを片付けます!!
南の門から離れて人気がないことを確認したシルヴィアは足を止め、振り返り、練り上げていた魔力で“拘束”術式を描き魔獣に放った。
「その場に止まりなさいっ!!」
ー アウッ!
ー ウォォンッ!
ー キャンッ!
その場から動けなくなった魔獣達に“睡眠”術式を描き放った。
「眠りなさいっ!!」
魔獣達は、その場で眠りにつき始めた。
これで魔獣は倒せました。次は…盗賊たちを…
「っ!!」
油断していたっ!!
その瞬間、シルヴィアは後ろから数人の盗賊に拘束されてしまった。シルヴィアは魔力を練り、盗賊達からの拘束を逃れようとしたが手首に魔封じの手錠をされてしまった。脚太ももにあるナイフで対抗しようとも考えたが、敵が多い。
隙を狙うしかありませんね…
シルヴィアは、相手を挑発しないよう話しかけた。より多くの情報を手に入れるために…隙を狙うために…
「まさか…西門にも数名いたとは…驚きました。」
「ははは、そうだろう?でもこっちも驚いたぜ。まさか探していた子が魔力持ちとは…」
「あら?魔力持ちだったらどうしますか?」
「どうもしないさ…さすがに嬢ちゃんも素手なら適わないだろうから魔封じはさせてもらったがな…」
「確かに…これでは抵抗できませんね」
「あぁ、すまねぇな…嬢ちゃん。アレを…」
シルヴィアと話していた男が盗賊の誰かに指示を出す。
「あ、あぁ…」
指示を出した男も出された男も…盗賊全員が悲痛な顔をしていた。
何故?そんな顔をしているのでしょうか…
何かがおかしい。
そう思える節は沢山あった。
『宝飾を奪わない』
『街の人々を襲わないように魔獣に指示を出していた』
『話を投げたらちゃんと返事をしてくれる』
そして何よりも…捕まったはずの私に『許しを乞う』のだ。
今までのことを省みても普通の盗賊とは何かが違う。それに彼らはシルヴィアを捕まえたが、その顔は嬉しそうではない。シルヴィアを通して誰かを見ているようなのだ…
「すまない…嬢ちゃん…」
指示を出された男がシルヴィアの口元に薬の染みた布を押さえた瞬間、タガが外れたように苦しそうに男たちは言い始める。
「こうするしか…守れないだ…娘を…家族をっ!」
「すまない!すまない!許してくれっ!っ、」
「俺たちのことは恨んでくれても構わないっ!」
「許してくれ、許してくれ、」
許しを乞う声を聞きながらもシルヴィアの意識は薄れていく。
あぁ、この男の人たちは家族を護るためにしていたのですね…
私には無縁の“家族の絆”。それを目の当たりにした。反撃はできた。でも、、、
私が捕まらなかったら…この男の人たちの娘は…家族はどうなるのでしょうか?
最悪の場面を想像したら何も出来なくなってしまった。当初は、盗賊達を全員拘束する予定だった。魔封じをされても隙を見てナイフで抵抗もできた。でも、涙ながらに許しを乞う男たちをみて私は躊躇してしまった。
ごめんなさい…
体から力を抜き抵抗する気力を失ったシルヴィアは盗賊に捕まった。
0
お気に入りに追加
4,452
あなたにおすすめの小説
【完結済】完全無欠の公爵令嬢、全てを捨てて自由に生きます!~……のはずだったのに、なぜだか第二王子が追いかけてくるんですけどっ!!〜
鳴宮野々花@初書籍発売中【二度婚約破棄】
恋愛
「愛しているよ、エルシー…。たとえ正式な夫婦になれなくても、僕の心は君だけのものだ」「ああ、アンドリュー様…」
王宮で行われていた晩餐会の真っ最中、公爵令嬢のメレディアは衝撃的な光景を目にする。婚約者であるアンドリュー王太子と男爵令嬢エルシーがひしと抱き合い、愛を語り合っていたのだ。心がポキリと折れる音がした。長年の過酷な淑女教育に王太子妃教育…。全てが馬鹿げているように思えた。
嘆く心に蓋をして、それでもアンドリューに嫁ぐ覚悟を決めていたメレディア。だがあらぬ嫌疑をかけられ、ある日公衆の面前でアンドリューから婚約解消を言い渡される。
深く傷付き落ち込むメレディア。でもついに、
「もういいわ!せっかくだからこれからは自由に生きてやる!」
と吹っ切り、これまでずっと我慢してきた様々なことを楽しもうとするメレディア。ところがそんなメレディアに、アンドリューの弟である第二王子のトラヴィスが急接近してきて……?!
※作者独自の架空の世界の物語です。相変わらずいろいろな設定が緩いですので、どうぞ広い心でお読みくださいませ。
※この作品はカクヨムさんにも投稿しています。
忘れられた幼な妻は泣くことを止めました
帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。
そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。
もちろん返済する目処もない。
「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」
フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。
嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。
「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」
そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。
厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。
それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。
「お幸せですか?」
アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。
世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。
古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。
ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。
※小説家になろう様にも投稿させていただいております。
【完結】公女が死んだ、その後のこと
杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】
「お母様……」
冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。
古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。
「言いつけを、守ります」
最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。
こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。
そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。
「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」
「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」
「くっ……、な、ならば蘇生させ」
「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」
「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」
「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」
「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」
「まっ、待て!話を」
「嫌ぁ〜!」
「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」
「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」
「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」
「くっ……!」
「なっ、譲位せよだと!?」
「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」
「おのれ、謀りおったか!」
「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」
◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。
◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。
◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった?
◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。
◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。
◆この作品は小説家になろうでも公開します。
◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!
あなたなんて大嫌い
みおな
恋愛
私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。
そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。
そうですか。
私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。
私はあなたのお財布ではありません。
あなたなんて大嫌い。
【完】前世で種を疑われて処刑されたので、今世では全力で回避します。
112
恋愛
エリザベスは皇太子殿下の子を身籠った。産まれてくる我が子を待ち望んだ。だがある時、殿下に他の男と密通したと疑われ、弁解も虚しく即日処刑された。二十歳の春の事だった。
目覚めると、時を遡っていた。時を遡った以上、自分はやり直しの機会を与えられたのだと思った。皇太子殿下の妃に選ばれ、結ばれ、子を宿したのが運の尽きだった。
死にたくない。あんな最期になりたくない。
そんな未来に決してならないように、生きようと心に決めた。
【完結】あなただけが特別ではない
仲村 嘉高
恋愛
お飾りの王妃が自室の窓から飛び降りた。
目覚めたら、死を選んだ原因の王子と初めて会ったお茶会の日だった。
王子との婚約を回避しようと頑張るが、なぜか周りの様子が前回と違い……?
家出した伯爵令嬢【完結済】
弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。
番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています
6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております
冤罪から逃れるために全てを捨てた。
四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる