全てを諦めた令嬢の幸福

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狂気と傀儡

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「きゃぁぁぁぁああ!!!」

「だ、誰か、、助けてくれっ!!」

   家を出て最初に聞いたのは街の人々の悲鳴だった。町娘の服を着たシルヴィアと宮廷魔法士のローブを着たヴェルティは顔を見合わせて頷いた。

『ルフっ!!』

ー 魔獣は、、盗賊は、、どの方角にいるの??

   そう思いを込め、ルフの名前を呼んだ。付き合い初めて3年…長くもなく短くもないルフとシルヴィアだが、確かに2人には“主と従魔の絆”が存在していた。

   主であるシルヴィアの思いを汲み取ったルフは南に飛んで鳴いた。

ー ピィィィィイイン!!

「シアさん?」

「どうやら…南の門から侵入したようです…」

「了解ですわっ!では、事前に話し合った通り私は街人の保護に…シアさんは盗賊の拘束に」

「はい!お願いします!」

   2人は南の門に向かって走り始めた。“盗賊を捉えれば全てが終わる”と信じて…だからシルヴィアは躊躇してしまった。正しいと思ったことが、救えると思ったことが…誰かを追い詰めていたなんて…思ってもいなかったから。



◇◇◇

 

   南の門についた2人はヴェルティの魔法発動開始と共に別行動を始めた。ヴェルティは魔獣から街人を保護し落ち着かせ、シルヴィアはわざと盗賊に自分が見えるように動き始めた。

   目的は私の“左眼”のはずです。

   わざわざ右眼を眼帯にして目立つようにしていたシルヴィアは、すぐに盗賊に見つかった。遠目でヴェルティの様子を確認し、自分に意識が向いた盗賊たちを人気のない方向へ誘導させる。

   お茶…いえ、解毒のおかげで街の人々は正気を保てていたのが心配でしたが…ヴェルティさん上手くその場をまとめたようですね。

   人は、1人がパニックになると伝染するようにそれが広がっていき収拾がつかなくなる。それを心配していたが杞憂だったようだ。ヴェルティは街の人々と魔獣の間に水のシールドを張り、魔獣より先に街の人々の精神ケアをしていたからだ。

   ヴェルティさん、そちらは任せました!私は…

   後ろを振り返り自分を追いかける魔獣と盗賊を見た。数匹、街人の方へ魔獣は残っているが大半の魔獣と盗賊はシルヴィアを追いかけてきたようだ。

   こちらを片付けます!!

   南の門から離れて人気がないことを確認したシルヴィアは足を止め、振り返り、練り上げていた魔力で“拘束”術式を描き魔獣に放った。

「その場に止まりなさいっ!!」

ー アウッ!

ー ウォォンッ!

ー キャンッ!

   その場から動けなくなった魔獣達に“睡眠”術式を描き放った。

「眠りなさいっ!!」

   魔獣達は、その場で眠りにつき始めた。

   これで魔獣は倒せました。次は…盗賊たちを…

「っ!!」

   油断していたっ!!

   その瞬間、シルヴィアは後ろから数人の盗賊に拘束されてしまった。シルヴィアは魔力を練り、盗賊達からの拘束を逃れようとしたが手首に魔封じの手錠をされてしまった。脚太ももにあるナイフで対抗しようとも考えたが、敵が多い。
 
   隙を狙うしかありませんね…

   シルヴィアは、相手を挑発しないよう話しかけた。より多くの情報を手に入れるために…隙を狙うために…

「まさか…西門にも数名いたとは…驚きました。」

「ははは、そうだろう?でもこっちも驚いたぜ。まさか探していた子が魔力持ちとは…」

「あら?魔力持ちだったらどうしますか?」

「どうもしないさ…さすがに嬢ちゃんも素手なら適わないだろうから魔封じはさせてもらったがな…」

「確かに…これでは抵抗できませんね」

「あぁ、すまねぇな…嬢ちゃん。アレを…」

    シルヴィアと話していた男が盗賊の誰かに指示を出す。

「あ、あぁ…」

   指示を出した男も出された男も…盗賊全員が悲痛な顔をしていた。

   何故?そんな顔をしているのでしょうか…

   何かがおかしい。

   そう思える節は沢山あった。

『宝飾を奪わない』

『街の人々を襲わないように魔獣に指示を出していた』

『話を投げたらちゃんと返事をしてくれる』

   そして何よりも…捕まったはずの私に『許しを乞う』のだ。

   今までのことを省みても普通の盗賊とは何かが違う。それに彼らはシルヴィアを捕まえたが、その顔は嬉しそうではない。シルヴィアを通して誰かを見ているようなのだ…

「すまない…嬢ちゃん…」

   指示を出された男がシルヴィアの口元に薬の染みた布を押さえた瞬間、タガが外れたように苦しそうに男たちは言い始める。

「こうするしか…守れないだ…娘を…家族をっ!」

「すまない!すまない!許してくれっ!っ、」

「俺たちのことは恨んでくれても構わないっ!」

「許してくれ、許してくれ、」

  許しを乞う声を聞きながらもシルヴィアの意識は薄れていく。

   あぁ、この男の人たちは家族を護るためにしていたのですね…

   私には無縁の“家族の絆”。それを目の当たりにした。反撃はできた。でも、、、

   私が捕まらなかったら…この男の人たちの娘は…家族はどうなるのでしょうか?

   最悪の場面を想像したら何も出来なくなってしまった。当初は、盗賊達を全員拘束する予定だった。魔封じをされても隙を見てナイフで抵抗もできた。でも、涙ながらに許しを乞う男たちをみて私は躊躇してしまった。

   ごめんなさい…

   体から力を抜き抵抗する気力を失ったシルヴィアは盗賊に捕まった。

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