全てを諦めた令嬢の幸福

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諦めた令嬢

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   ベルモンドに教師勧誘を受けた日からシルヴィアは考えていた。なぜあの時、自分の口から「やりたい事が見つかった」と言ったのかを……

   シルヴィアはメリダと出会い、魔法と術式を好きになれた。今まではただ生きるための手段としてしか見ていなかったモノが、メリダと話すとシルヴィアの一部として自然と受け入れられてとても心地が良かった。

   だから、シルヴィアはメリダと一緒に魔法や術式について話したいと少なからず思っていた。

「私のやりたい事……」

   今までは明確でなかったが、ベルモンドとの会話でシルヴィアは気づいた。

「私は……もっと、魔法や術式を学びたい。
1人じゃなくて…誰かと…メリダと…」

   シルヴィアはこの日、決めた

「卒業式の日…私はメリダに話そう」

   友達のシルヴィアとして……上級魔法士シルヴィアとして…メリダともっと魔法や術式について話したいと……

   

   シルヴィアが意志を固めてから、あっという間に卒業式になった。

   今、舞台には卒業生代表が立ち答辞を述べている。
   
  「3年前、私たち150期生は……」

   そう、シルヴィアである。

   彼女は答辞を読みながら何を思っているのだろうか…きっとここ3年間のできごとを振り返っているのだろう。

   入学当初はオドオドして自信なさげな少女は、堂々として自信に満ち溢れた女性になった。サナギが蝶に孵化するように、今のシルヴィアは光輝いている。

「今日を持ちまして私たち第150期生は伝統あるアルティス学園を卒業いたします。
4年間、ありがとうございました。」

パチパチパチ!パチパチパチ!

   こうして卒業式は拍手喝采で幕を閉じた。


◇◇◇


「ふぅ、これを仕舞えば終わりね」

   今、シルヴィアは寮の部屋にいる。彼女の手元には1つのトランクケース。

「忘れ物はないわよね…」

   シルヴィアは他にトランクケースにしまうものはないか確認した。だがほとんどの物は休日、ルナ宮殿の研究室に運んだ為、3日分の服と筆記用具と日用品くらいしかないはずだ。

   荷物確認が終わったシルヴィアは部屋を見回した。机とイス、ベッド、タンスだけの簡素な部屋を…

「この部屋に思い入れはないと思っていたけど…案外寂しいものなのね…。
孤独だと思っていたけど…実際そうじゃなかった…。私、この学園に来て良かったわ…3年間、ありがとう、さようなら……」

   シルヴィアはトランクケースを持ち、13歳から17歳までの間、過ごしていた部屋を出た。


 
   部屋を出たシルヴィアは前日にメリダと約束していた場所に向かっていた。

   そう、これからシルヴィアはメリダに話すのだ。

   シルヴィアという存在について…

  
   約束の場所…いつも2人で笑いあった迷宮庭園でシルヴィアはメリダを待つ。ここはシルヴィアがただのシルヴィアでいられる場所…だからこそシルヴィアはこの場所を選んだ。

   (メリダは…受け入れてくれるのでしょうか…私という存在を…)
  
   不安に思いながらメリダを待っていると満面の笑みを浮かべながらメリダはシルヴィアの元まで走ってきた。

「シア!卒業おめでとう!!」

「メリダ…」
   
「答辞凄かったよ!!お疲れ様!!」   

「ありがとう…」

「あ、今日は話したいことがあったんだっけ?」

「うん…ねぇ、メリダ。メリダはどんな私でも受け入れてくれる?」

   シルヴィアの言葉にメリダはキョトンとしたがすぐに頷いた。

「もちろん!どんなシアでも私の友達なのは変わらないよっ!」

「っ!ありがとう…メリダ」

「どういたしまして!」

「メリダ…私はね」

   シルヴィアはトランクケースからローブを取りだし羽織った。

「えっ……シ、シア…そ、そのローブって!?」

「うん…今まで黙っていてごめんなさい。
私はシルヴィア・クロヴァンス公爵令嬢でもあり……アルティス王国 魔法師団所属 上級魔法士 シルヴィア でもあるの。
今日、卒業と共に公爵家からは除名されたから…上級魔法士 シルヴィア が今の私ね…」

「……」

「メリダ?」

「っ~~~!!!」

   メリダは感極まった顔で、シルヴィアの手を握り上下に振りながら言った。

「ス、すごい!シアって上級魔法士だったんだねっ!!!えっ?もしかして…私の術式を見せた知り合いの上級魔法士って……」

「実は…私なの。」

「やっぱりっ!!!うわぁ!魔法師団の推薦状を貰えたのはシアのおかげだったんだァ!!!本当にありがとう!!」

「でも、私は…メリダの術式を師団長に報告しただけだし…推薦状を勝ち取ったのはメリダの実力だと思うわよ?」

「いやいや!きっかけはシアが作ったんだよっ!本当にありがとう!!」

   メリダはシルヴィアに抱きついた。メリダに抱きつかれたシルヴィアはというと目を見開いて驚いていた。

「私、シアのおかげで探せる…“あの人”を…」
   
「あの人?」

「んーん!なんでもない」

「そお?……あのね、メリダ」

「ん?」

   シルヴィアは抱きついてるメリダを離して向かい合った。

「私ね、やりたい事がみつかったの」

「シアのやりたい事?」

「えぇ、私は……もっとメリダと魔法や術式について話して学びたい。」

「…っ!わ、私も!!シアともっと色んな話がしたい!だから……待っていて!!私は今この学園で頑張るから!」

「えぇ、お互い頑張りましょう!」

「うん!」

「話を聞いてくれて……私を受け入れてくれてありがとうメリダ」

「んーん!話してくれてありがとうシア!嬉しかったよ!」

「……うん」

  シルヴィアはメリダの言葉に照れて顔を赤くした。

「ねぇ、シア……私、頑張ってシアの元へいくから」

「えぇ、待っているわ、メリダ」


   シルヴィアはメリダに見送られ学園を去った。去り際にみせたシルヴィアの表情は、生きてきた中で1番幸せそうだった。


   この日、メリダは魔法師団になるために、シルヴィアはもう一度メリダと語り合うために…メリダとシルヴィアはお互いの目標に向けて歩み始めたのだ。
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