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諦めた令嬢
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しおりを挟む西に位置するクロヴァンス公爵領。その領地には公爵、公爵夫人、長男の3人の公爵家がいた。家族仲は良く、笑顔が絶えない家であった。またクロヴァンス公爵家は夫婦仲が良く、社交界ではおしどり夫婦としても有名でもあった。
だが、公爵夫人が第二子を妊娠してから公爵家の明るい笑い声は消えていった。公爵夫人は日に日に弱っていき、出産と共に亡くなった。
公爵と長男は最愛の妻と最愛の母親を亡くした事をとても悲しんだ。そして、時が経つにつれ公爵夫人の犠牲で誕生したシルヴィアを恨み始めた。
◇◇◇
(物心ついた頃から私の周りには、機械的に世話をする使用人しかいませんでした。)
普通の使用人だけなら納得はできた、でもシルヴィアの乳母までも機械的だったのだ。後から思えば、使えてる主人が恨んでる子供などに優しくする価値も意味もない。反対に、優しくしても当主と子息の怒りをかうだけだ。だからこそ使用人は必要最低限の世話しかしなかった。
(私はその環境下に寂しさを抱いていました。私は毎日、家族の物語が描かれている絵本を眺めていました。)
その絵本では、父と母が子を抱きしめる絵があった。その絵を見る度に、シルヴィアは家族というものに憧れをいだいた。
生まれてから一度も見たことがない家族。絵本のように抱きしめ合う家族。
(私は家族という存在に恋い焦がれました。)
ある日、シルヴィアは恋い焦がれる家族に会うために部屋から飛び出した。使用人はシルヴィアに興味がない。そのおかげで簡単に部屋から抜け出すことが出来た。
(私は絵本に描かれたような家族に会いたくて屋敷をひたすら歩きました。)
5歳の体で一生懸命に。そして聞こえてきた声を頼りに廊下を進むと父親らしき男性と自分の兄らしき男の子を見つけた。
(あの時、私は自分のお父様とお兄様だと何故か確信を持っていました。だから2人が私を迎えて抱きしめてくれると信じていたんです。)
生まれて初めて見た“家族”。シルヴィアは疲れてあまり動かなくなった身体を気にせずに2人に歩み寄ったが、シルヴィアが思っていた反応と違かった。
「おとーさまー?おにーさまー?」
「っ!
近寄るなっ!!母上殺し!!」
ーパシッ!!
シルヴィアは伸ばしていた手を兄に叩き落とされた。
「ふぇ……?」
「メイドはどうした…早くコイツを片付けろっ!」
「お、おとーさま!」
「私はお前の父親じゃない。
お前が殺した妻の夫だ。
その憎らしい化け物みたいな顔を私たちに見せるなっ!!」
「っ!?」
その後、メイドが来てシルヴィアを部屋に連れ戻した。
(この時に私は“家族”という存在を諦めました。)
家族という存在を諦めた後、部屋に閉じこもりただひたすら日々勉強をした。“自分には何も無い”そんな事を思いたくなかった。家族という存在は無理でもせめて、自分のことを認めて欲しいという気持ちがあったから。
6歳になると貴族令嬢としての教育が始まった。帝王学、一般教養、馬術、裁縫と言った貴族令嬢の花嫁修業分野から帝王学までシルヴィアは幅広い教育を施された。シルヴィアはただただ認めてもらいたい一心で血を吐いてでも全てを身につけた。
(これで、これできっと認めてくれるっ!!)
そう思って頑張ってきたシルヴィアの思いは、ある形で裏切られた。
8歳のある時、シルヴィアは朝から綺麗に髪や肌を手入れされ、綺麗なドレスを着せられた。最初、シルヴィアはこれから何が起こるのかわからなかった。その後、シルヴィアは父親に呼ばれ、メイドに応接室に連れてこられた。
「これからお前の婚約者がくる。
今まで金を割いてやったんだ、せめてこの家のために役立て。」
「……」
父親に開口一番に言われたのは、シルヴィアの今までの努力を褒めるものではなく家の道具としての利用価値、そしてシルヴィアを貶める言葉だった。
「わかったか?」
「…はい。」
そしてシルヴィアの婚約者と紹介された男の子がクラウス・シュクナールだ。
クラウスはシルヴィアの外見に対してあからさまに嫌悪を表した。そしてシルヴィアと2人になった時にクラウスはシルヴィアに言った。
「お前みたいな化け物と婚約してやったんだ。
それだけでも感謝しろ。
必要最低限は俺の目の前に現れるな。」
日々、頑張ってきた少女は父親、そして婚約者から向けられた悪意によってこの時より感情を表に出さなくなった。
「…はい」
(この時に私は“婚約者”という存在を諦めました。そして“化け物”という言葉は私の心を縛りました。)
家族からの言葉、父親からの言葉、婚約者からの言葉によって傷つき続ける少女は、その傷を見て見ぬふりをして日々を過ごした。社交界、お茶会には病弱と偽り、人との交流を徹底的に避けた。それはまた“化け物”といわれるのが怖かったから。
(期待して裏切られるのに疲れてしまったから……)
そしてシルヴィアが13歳になった時、彼女はお払い箱のように公爵家から追い出され、学園へ入学させられた。
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