失恋竜が幸せになるまで

屑籠

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4.本能

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 ふと、リーズの居ない時に目が覚めた。
 孕んでから、リーズがいる時に目が覚め、それ以外は眠って過ごすようになったが、起きてリーズの気配がしないと、首を傾げる。
 大きな気配が、この巣に近づいてきている気がした。
「この、気配は……アイゼルか?」
 ぐっ、と考えれば眉間にしわが寄った。
 こんな辺境へ、何をしに来たというのか。
 何か用があったとて、この巣の近くに近づかなければリーズは怒るまい。
 はぁ、と息を吐いて重たい体を動かして再びごろりと寝床へと横になる。
 まだ腹も膨らまないというのに、体だけは日に日に重くなっていく。それがまた、憂鬱でしかない。
「……何だ?何がしたいんだあいつは」
 目を閉じていたのに、近づいてきて何かを探しているような、フラフラした気配にイライラしてきた。
 そもそも、会いたくもない相手がなぜそこにいるのか。ふざけるな、と思いながら出ていくのもしゃくだ、とイライラした気持ちで目を閉じた。
 はぁ、とため息を吐くとばぁん、と何かが巣にぶつかる音がして、それには流石に飛び起きる。
「なん、なんだ……」
「レイド!」
 飛び込んできたアイゼルに目を疑った。
 扉を壊し、入ってくるとは思わなかったからだ。そもそも、他の竜の縄張りである巣に突っ込んでくる竜なんていない。
 さすがの俺でも、アイゼルのこの行動に頭を抱えた。はぁ、とため息を吐いてから、何をしに来た、とアイゼルに問う。
「何って、レイドが発情期を過ぎても姿を見せないから、心配で……」
「発情期に孕めば、必然的にお前らにかまってる暇なんてなくなるだろ」
 あほか、と再びため息を吐けばアイゼルはひどい!と憤慨する。奇麗で、頭もいいが少し抜けてるところがあるのが此奴の魅力だった。
 が、ここまで本能を忘れた阿呆だったとは思わなかった。
「さっさと帰れ。そして、ここには二度と近づくな」
「そんなっ!」
 ひどいだの、何だのと言ってるアイゼルよりも、俺が顔を青ざめさせる原因となっている気配が近づいてくることの方が問題だ。
 外から、怒りの怒号が響いている。
 そのことに、アイゼルはようやく気が付いたらしい。
「リーズ?何で、あんなに怒ってるんだ……?」
 そんな疑問を、不思議そうに出すから、俺は再びため息を吐いてしまった。
 どうして、何で、何て分かりきっていることだろうが。
「ここがどこだか分かってないのか?リーズの巣だ。他の竜を縄張りに入れたい雄は居ない。当然だろ」
 だから、帰れと言っている。
 だが、一歩遅かったらしい。
「何してんだ、アイゼル」
 低く、怒りを隠しきれていないリーズの声が静かに俺たちに届く。
 ふと、寝室の入り口を見れば、壊れた扉の梁に寄り掛かるようにして、リーズはこっち、というよりアイゼルを睨んでいた。
「その……レイドが心配で……」
「友が心配なのはわかる。が、発情期が終わってすぐ出てこないのは、子のできた証だ。フォルスに教えられなかったのか?」
 巣を犯された怒りを抑えているようだが、声はいつもと比べると冴え冴えとしていて、その言葉を向けられていない俺自身も恐怖を感じるほど。
 竜の怒りとは、どれほどの被害が出るのか。それは定かではない。近年、竜が怒り狂ってしまったことはないのだから。
「ご、めんなさい……」
「わかったなら、出ていけ」
「で、でもっ」
「出ていけ!!」
 リーズの怒鳴り声に、びくぅ、と体を縮こまらせたアイゼルはまたね、と言って巣を飛び出していった。
 それを見送り、竜族が使える魔法で、リーズは扉を修復するとはぁ、とため息を吐く。
「……おかえり」
「あぁ……ただいま」
 ばつの悪そうな顔をして、内心、怒りと安堵が綯交ぜになっているのだろう、微妙な顔をしてリーズは笑った。
 竜の本能であるから仕方がないだろう。
「リーズ、仕事は?」
「途中で抜けてきた。今日はもう、ないよ」
 竜の里では、雄が狩りをするのは当然だが、その他に持ち回りの仕事と言うのもある。
 リーズの今日の仕事は、畑の世話だ。畑自体は共有資産であり、みんな必要な分だけその畑から持ち帰る。
 採食の竜などもいるため、畑は重要な食料源でもあった。もちろん、採食竜だって獲物を狩るし、肉も食べるが、一般的な竜と比べると非常に割合は少ない。
 俺やリーズは基本的に肉食であるため、あまり必要とはしていないが、体のバランスを保つためには必要なものだ。
 はぁ、と息を吐き俺の頭を抱き寄せたリーズは安堵したように目を伏せた。
「何もなくて、よかった……」
 きっと、理性では何もないことなんてわかってる。けれど、そういう問題ではないのだ。本能とは。
 リーズの気の済むまで、俺はそのままリーズのしたいようにさせてやる。
 落ち着かないことには、暴れだしかねない。これもまた、本能と言う奴だ。ある種、グルーミングとも似ているのかもしれない。
 番や、番でなくとも自分の子を孕んでいる雌に対する雄の独占欲。
「なんか、なんて有る訳ないだろ……」
 ここはリーズの巣で、大抵の竜は近づかない。隣の里の若い者が時折、命知らずにも飛び込んでくることはあるが、この辺りに充満しているリーズの縄張りのにおいを嗅げば、よっぽどのバカじゃない限り慌てて引き返すレベルで。
 この巣の中は、この里で3番目には安全な巣だろう。
 一番目は言わずもがな、竜王の巣。二番目は、フォルスの巣。フォルスは最近、巣の身辺を奇麗にしたばかりだが。
 この二人に近いぐらい安全なのが、ここなのだから俺に何かあれば、たぶんこの里全体の問題にまで発展しかねない大事だろう。
 まぁ、アイゼルは本能をどっかに忘れてきたんじゃないかって思えるぐらいのバカだが、それでも龍神種だ。リーズより強い。同じ龍種のフォルスは本能も忘れずに持っているというのに、アイゼルは何処か抜けているから心配になる。幼馴染としても、初恋の相手としても。
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