イスティア

屑籠

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第一章

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 後日、商業ギルドに向かえば、二日後に面接という事になった。
 まぁ、合うか合わないか、が大切だろう。

「……ジル、明後日ついてこい」
「えっ?はい……はい?」

 呼ばれたことに返事をし、オーガの言葉になんで俺?とジルは困惑したようにオーガを二度見した。

「あ、あのオーガ、さん?」
「なんだ?」

 ん?と首をかしげるオーガと、困惑し、困った顔で眉間にしわを寄せ、オーガを見るジル。

「僕、なんでその……付いて行くってどこにですか?」
「商業ギルドだ。まともな飯、食べたいだろ?それに、お前たちも食べていくために料理を覚えたほうがいい。俺はできないが」

 オーガは料理ができない。簡単なものは作れるけれど。
 凝った料理など作れるはずもなく。そもそも、子供が好きな料理も作れない。
 自分のつまみ程度なら作れるのだが。

「はい……?」
「まぁ、こいつらの代表ってところだな」
「僕でいいんですか?」
「……正直、一人を連れて行くというならお前が適任だろ」

 ルディ辺りを連れて行けば、下手をすると警らに捕まる可能性しか考えつかない。
 小さい子供でも同じだ。全員、それか人数を連れて行くならまだしも、だ。
 ジル以外には、ヤンチャになってきた男しかいない。

「なるほど……わかりました」

 何とも言えず、噴き出したジルが笑いながら告げる。
 おい、と思いつつじゃあ、よろしくな、とオーガはそのまま地下へと向かう。
 そろそろ在庫の補充をしなければ。
 最初、森にいたときに拾った素材はあるから、しばらくは持つだろう。だが、買い付けを忘れていた。
 と息を吐く。
 今から行けば、あるだろうか?と思いつつ冒険者ギルドへ久しぶりに向かうことに決めた。

「ちょっと出かけてくる」
「あぁ……一人で大丈夫か?」
「……毎回言うようだが、お前らは俺の何を心配しているんだ」

 出かける先から、疲れた、と言うように息を吐いてからオーガは街中へと繰り出す。
 ついでと、夕飯の買い出しも頼まれた。リカルドたちは、もう遠慮がなくなってきた気がする。
 そもそも、何が心配になるというのか。やらかしている、という自覚ならある。リカルドやアレンの表情をみれば、理解できた。
 この世界の常識に合わせていたら自分の技術が廃れてしまう、と遠慮はしないことにしているが

「今の時間は空いているな……」

 冒険者ギルドは、早朝に人が来て昼は暇なのか、飲んだくれと世話しなく事務処理をしている職員、それから後は依頼をしにくる人だけだ。
 本当に閑散としていた。
 受付に近寄って、ギルドカードを提出しながら、訪ねる。

「はい、どのようなご用件で?」
「薬草の売買について、ギルドの薬草は買えるか?」
「どのぐらい必要でしょうか?」
「そうだな……」

 ふと、考える。
 10枚一束の薬草は、10枚で約30本分の初級の回復薬が作れるのだが。
 自分で作る分を、1000として、34セットは必要ということ。
 それ以上に、子供たちにも練習として作らせたい。

「ルディエラ草とムムリエ草を50セットずつ、ぐらいか」
「50セットですか……今、在庫の確認を行いますね。少々お待ちください」

 他へお回りくださいの立て札をだし、在庫確認へと受付が移動していく。
 オーガは、仕方なしに、空いている席へと腰をかけた。
 無くてもかまわないが、ギルドにそういえば薬草は常備しているものなのだろうか?
 もちろん、新人の依頼はこれと、はぐれゴブリンの盗伐か、だ。
 ランクが上がれば、難しいダンジョンに潜る者も多いが。

「おう、兄ちゃんしけたつらしてんなぁ!なんだ、飲まないのか?」

 酔っ払いが、オーガを見つけ絡んでくる。
 オーガははぁ、とため息を吐く。

「買い出しだ。あまり近づくな」

 酒臭い、と絡んできた体を押しのける。
 そうかいそうかい、とそれでも楽しそうにまた誰かに絡みに行くおっさん。
 あぁいう、酔っぱらいはほっとくに限る。変に絡まれたら大変だ。酔っぱらいは面倒なんだ。

「オーガさん」

 戻ってきた受付に呼ばれ、ふぅ、と息を吐きながらオーガは立ち上がる。

「現在、ルディエラ草とムムリエ草ですが、ムムリエ草の方はご用意できそうです。ルディエラ草が、お売りできる分が12セットしかございません」
「まぁ、それでいい。幾らになる?」
「はい、ルディエラ草は一枚銅貨5枚、ムムリエ草は一枚銅貨8枚です。ルディエラ草は銀貨6枚、ムムリエ草は大銀貨4枚になります」

 一つ、うなずきを返してから、オーガはギルドカードを差し出した。
 商業ギルドに預けてあるお金は、冒険者ギルドでも引き出すことができる。
 デビットカードやクレジットカードのような役割も果たしてくれ、便利だ。

「はい、お支払いが確認できました。こちらが、お品物になります」

 そうして、受付に差し出された大小二つの袋。
 小さい方にはルディエラ草が、大きい方にはムムリエ草が入っているのだろう。

「出来れば、ルディエラ草の採取をお願いしたい。その場合はどうすればいい?」
「そうですね、依頼と言う形で掲示板に張り出すことは可能ですが」
「じゃあ、通常通りの手続きでルディエラ草の採取依頼を出してくれ」
「かしこまりました。常時依頼で、ルディエラ草10枚1セットを3セット採取。金額は……今預けられている所からの引き落としで大丈夫でしょうか?」
「あぁ……出来れば定期的に配達してくれ。一度、ここのレイリーとかいう奴が来たことがある。そいつに聞けば場所はわかるだろ」
「レイリーさん、ですか……畏まりました。その分、代金も高くなりますがよろしいでしょうか?」
「あぁ、構わない」

 かしこまりました、と申込用紙にさらさらと記入し、オーガに差し出してくる。

「こちらで間違いはないでしょうか」
「……あぁ、大丈夫だ」

 奇麗な字で書かれたそれに、齟齬はない。
 買取の場合の料金に、配達料が銅貨2枚。
 ギルドの規定道理。
 オーガが受付にその紙を返せば、何かの魔法なのか、それともその紙が魔法紙なのか、受付が魔力を込めると二つに分かれた。
 機械の要らないコピー機を見ているようだ。

「こちらが控えとなります。では、よろしくお願いいたします」
「あぁ、世話をかけた」
「またのご利用、お待ちしております」

 最後まで事務的に対応されて、ほっ、と内心息を吐く。
 受付にはいろんなタイプが居て、オーガはこの受付ならまた利用したいと思えた。
 まぁ、どんな受付だって、イライラさせられなければ別に問題ない。

「……帰るか」

 冒険者ギルドを出て、空を見上げると、まだ日は上ったばかりで青く染まっている。
 帰ってこれから、子供たちに錬金術を仕込まねばなるまい。
 買えた材料は少ないが、少しでも練習できるようにしなければならない。
 ムムリエ草はたくさん買えたので、最初教える時にはルディエラ草を使い、練習にはムムリエ草を使う事にしよう。
 C級、D級、E級のどれかにはなるだろう。
 S級、A級、B級には、そうそうならない。コツをつかめば簡単だが、それが掴めるまで、C級辺りで躓くことになるだろう。

「ただいま」

 ぶらぶらと街を歩き、少し遠回りして帰ってくれば、お昼近くになっていた。
 夕飯の買い物をするのには、少し遠回りする必要があったから仕方がないのだけれど。
 勝手口みたいな場所から入り、店の方へ少し顔を出してみれば、珍しく客が来ている。

「あ、おかえりなさーい」

 店のカウンターにいたそっくりな顔が揃ってオーガの方を向いた。
 双子のアルデとクルテだ。

「客か……」

 それだけ言って、二人の頭をなでる。
 ちらっと、帳簿を見てみれば売れているのはやはり回復薬が多い。
 特に、なぜか魔力回復の薬が売れている。
 ダンジョン攻略に必要だって持っていくが、そんなに切迫した状況なのだろうか?
 もしかすると、転売されているのかもしれないが、それを規制するすべは今のところ無いだろう。
 別に買い占められているわけでもなし。
 ちなみに今いる客は、外見は良くいる冒険者ってところだ。
 別に、悪さをしそうな感じでもない。それどころか、子供たちに接している不審者としてオーガを警戒しているくらいだ。
 いい冒険者、なのだろう。いや、まっとうな、と言うべきなのか。

「何かあったら、呼べよ」

 はーい、と双子の揃った返事を聞きながら、奥へと向かう。
 子供たちは、木刀を持ち、遊びながら学んでいるようだ。
 時折、それを見ていたアレンから指導が入っている。
 二人は今日、冒険者としての仕事を休み、半日とはいえ子供たちの相手をしていたらしい。
 アレンに至っては、暇そうな子供たちに体術や剣術を教えていたりしていたみたいだから、少しありがたいが。
 リカルドも、薬草や鉱石の鑑定や違いについて子供たちに教えていたらしい。
 二人とも、自分の技術を子供たちへと教えることに抵抗はないのか、オーガは首をかしげて聞いてみた。

「鑑定は、天性の感覚だ。だが、そうじゃなくても覚えられることがあるなら覚えていくべきだろ?この子たちは、将来何になるのかはわからないが、素材の善し悪しや、特徴を知っておくのは悪いことじゃない」

 鑑定と言う能力が、この世界では後付けされないものだからこその言葉だ。

「剣術や体術って言うのは、人が使うから意味があるものだ。秘匿しても何も得られるものはないさ。それに、使われて初めてわかることもある。そして、俺が教えることによって救われる命がある。なら、それでいいじゃないか。さすがに、俺じゃあ魔法を教えたり錬金術を教えたりはできないからな。この子たちに何かできることをしてやりたいと思えば当然だろう」

 少し困ったように笑うアレンに、オーガは眉を顰める。

「お前たちは俺に巻き込まれただけだろう?子供たちの相手だって、そうだ。俺の、独断と偏見からだ。それなのに、わざわざよく付き合えるな?」

 皮肉っぽく聞こえてしまったかもしれない。
 オーガは、そう言ってからぐっと下唇を噛み締める。
 こんなことを言いたかったんじゃないのに、と。
 そんなオーガを見て、二人は顔を見合わせ仕方がないな、というように笑う。

「バカだな、お前は」
「はぁ?」
「お前に付いて来たのも、お前を信頼したのも、お前が決めたことに従ったのも、全部命令されたことじゃない。俺たちが、俺たち自身で決めたことだ。何で今更お前が責任を負うように感じているんだよ?」

 仕方のない奴だ、とわっしゃわっしゃオーガの頭をかき回すアレン。
 その様子を見ながら、リカルドは腕を組み、ふぅ、と息を吐く。
 まったくその通りだと言わんばかりに。

「……ばかはお前らだろ。こんな、偏屈なオッサンに好んで付き従うとか」
「お前は偏屈かもしれないが、十分面白い存在だぞ?」

 そう卑屈になるな、とアレンは笑った。そういうものか?とオーガの気分は回復してくる。
 そもそも、どうしてこんなに気分が沈んだのか。
 アレンの手から逃れながら小首をかしげる。王都についてから、どこか、何かがおかしいような気がした。
 まるで、外堀を埋めていくように……。

 昼飯を食べ終え、子供たち6人を連れて地下の調合などを行う錬金部屋へと向かう。
 作業をするには、あまり人が居ても効率が悪い。
 他に、アレンたちが戦闘訓練や素材の判別を教えてくれている。
 子供たちの前にムムリエ草を置く。ムムリエ草を使った回復薬は、ルディエラ草を使った回復薬と作り方は変わらない。
 オーガ自身はルディエラ草を使い、商品になるものを作っていくつもりだ。

「まず、お前たちの前に置いてあるのはムムリエ草だ。この、ルディエラ草よりも回復量がおおい。それに、少しだけムムリエ草の方は魔力も回復する。うまくいけばの話だがな。薬のつくり方は変わらんから、よく見ておけ」

 はーい、という良い子のお返事が届いたところで説明を再開する。

「まず、窯に水を汲み、火にかける」

 子供たちの前には、窯と簡易コンロがあり、水は備え付けの水道から汲む。
 ある意味、この部屋は理科室と似ている構造のような気がする。

「ぐつぐつと沸騰してきたら、コンロの火を一度止めて人肌くらいになるまで冷ます」

 強火でコンロを動かせば、すぐに、とは言わないが、それほど時間もかからずに水は沸騰してお湯になる。

「冷ましている間に、薬草をすり潰す。その時、この薬草の茎の部分はなるべく無くすように切り落とす」

 ヨモギのような葉のルディエラ草の葉だけを入れるように、茎をぷちっと爪で切り落とす。
 乳鉢に数枚葉を入れて、ゴリゴリと擦る。

「ある程度すり潰せたら、先ほどの水を満遍なくすり鉢にかけ、数分待つ」

 沸騰させ、少し冷ましていたお湯を小さなおたまで掬い、乳鉢の中に入れた。
 すると、乳棒に付いていた薬草のペーストも、乳鉢にくっ付いていたそれも、ぺりぺりと剥がれ、浮かび上がってくる。
 それがすべて剥がれたころ合いを見て、オーガは乳鉢の中身をすべて、窯の中に入れた。

「全部剥がれた奴から、窯の中に薬草を入れろ。そして、少しずつ魔力を注ぎながら煮ていく」

 コンロの火をつけ、大体中火にしてからオーガがそれに魔力を注ぐ。

『命の水、生命を呼び起こせ

 あるべき力をあるべき場所へ

 巡り巡って、ここへ帰れ』

 ぽぅ、と輝く窯の中身。
 その様子に、子供たちは興味津々と言う顔をして、目を輝かせていた。
 オーガが魔力を注ぎ込むのを段々と辞めるに従い、輝きも小さくなって消える。
 そして、オーガが窯の中をかき混ぜていたおたまを持ち上げ、たら~っと子供たちに見せる。

「これが回復薬だ。わかったか?」
「はい!」
「ん?」
「さっき、なにいったの?」

 質問があります、と言うように手を挙げたサシャ。
 オーガはつられるように、ん?と首を傾げた。
 サシャは不思議そうにオーガを見ている。
 錬金術の時に使用した言葉を、サシャたちは理解できなかったみたいだ。
 オーガは普通に唱えているつもりだったので、無意識に言語を分けて使用していたのか、と少し驚く。
 そもそも、言語の使い分けをこの世界に来てから意識したことはなかったけれども。

「さっきのは、命の水、つまりは回復薬の事だ。生命を呼び起こせ、薬草の力を引きだし、あるべき力をあるべき場所へ、つまり必要な場所へと運べるように。巡り巡ってここへ帰れ。体内をめぐり、傷口へと作用するように。と言う意味だ」
「ん~?よくわかんないけど、わかった!」
「おー、とりあえず何となくわかってりゃそれでいい」

 と、子供たちへ回復薬を作るように促す。最初はどれだけ失敗したっていい。日本には失敗は成功の母、という言葉もあるぐらいだし。
 何度も練習を重ねて、作れるようになればそれでいい。

「何度も、何度も失敗して上手くなれ。ここで教える技術すべてがお前ら自身を生かす糧となることを忘れるな」

 生きること、それが最大の目的だ。
 薬草を知り、加工し、薬を作れること。それは、他者へと誇れる技術となるだろう。
 けれど、それでも彼らはオーガに依存してはいけない。いつかはこの店から巣立たなくては。
 冒険者になるもよし、薬屋になるもよし。縫製が得意なのであれば、服屋になるもよし。防具や武器を作る鍛冶屋になるもよし。
 子供たちの可能性は無限大に広がっているのだから。教えられることは、教えよう。
 興味がある仕事に就けばいい。
 それまでは、ギブアンドテイクの関係が保たれればそれでいいのだ。
 生きるために手を貸し、そしてオーガの望みのための働いてもらう。それが、オーガが理想としている形だ。
 どんなに慕われようが、どんなに嫌われようが構わない。それが、生きていく道なのだから。

 次の日、商業ギルドへとリカルドに店と子供たちを任せて出てきた。

「……何でお前までいるんだか」
「まぁ、気にするな」

 あはは、と苦笑いしてるジルと呆れた顔をしたオーガの間には、呼んでもいないはずのアレンがニコニコと笑いながら立っていた。
 どれだけ過保護だ!とオーガは少し叫びたくなったが、口にせず堪える。いざとなれば、ジルを守ってもらえばいいか、と考えを改め、商業ギルドの扉をくぐる。
 商業ギルドは、前に来た時と同じように中は朝だというのにがやがやとしていて、怒号まで響いている。
 前は気が付かなかったが、朝競りみたいなものもやっているらしく、遠くから何番いくら、という掛け声が聞こえてきていた。
 そんな中、目的の受付へと顔を出す。

「すまない、この間依頼したオーガだが」
「は、ははは、はい!!えぇ、と、オーガさんでしたね。料理人をお探しという事で、もう少しすれば希望者が見えると思います」

 こちらがその方々の資料です、と手渡されたのは数枚の経歴書。
 自分の経歴や持っているスキルなどが事細かに記載されていた。
 これは、商業ギルドの信頼にもかかわる問題のため、ギルドで専用の魔道具を使い記載される。
 便利なもので、魔道具に手をかざせば、数分もしないうちに自分の履歴書が嘘偽りなく出来上がってしまうのだ。
 直すことは可能らしいが、それを複数作り出すことは不可能だ。構造自体は簡単なものだが、そこに書き込まれている術式がとても複雑らしい。
 さる高名な魔導研究家が作った最高傑作だともいう。
 だから、その術式が狂えば、使い物にならなくなる。が、その術式が組み込まれてるのは、魔道具の心臓部。あと数百年は壊れる心配もないというが。

「商業ギルドも、闇だよなぁ」

 ぼそり、とオーガが呟いた言葉に、受付嬢はびくり、と肩を跳ね上げる。
 履歴書を書くときは、手書きで嘘偽りも通す。
 けれど、面接の受付です、と機会に触れさせられ、こうした資料を作成される。
 ここで、履歴書と出てきた経歴書がかみ合っていなければ、受付の時点で弾かれ、二度と職業の斡旋などしてもらえはしない。

「誰も彼も同じようなもんだな」

 ぺらぺらとめくり、ふぅ、と息を吐いたオーガはぱんっ、とそれをたたき、読みたそうにしていたアレンへと放る。
 それを難なくキャッチしたアレンは、ふーん?と言いながら、ぺらぺらとオーガと同じようにめくり、目を通す。
 書面上では似たり寄ったりだが、一人だけ気になる人物が居なかったこともない。
 会って、話してみて、だ。それに、ジルが気に入らなければ意味がない。

「では、あちらの控え部屋でお待ちください」

 受付嬢に示された場所は、比較的騒々しい商業ギルドでは静かなところで、4脚のイスと一つの机があるだけの簡単な部屋だった。
 控え部屋、と受付嬢は言ったが、商談などにも使われたりするのだろう。
 商業ギルドに持ち込みで売りに来た人物の対応とか。
 そこで、ふとオーガは気になりそういえば、と声を上げる。

「王都で魔法薬……ポーションの類を作ってる店はどのくらい有るんだ?」
「王都でもそこまで多いわけじゃないが、辺境に比べればそれなりの人数は居るな」

 ふーん?と自分で聞いておいて興味のないような返事をするオーガ。だが、内心では首をかしげていた。
 レイリーはなぜ、オーガに回復薬の作成を頼んできたのか、と。
 回復薬自体、作れる人物は多い。なら、多少成功率が低いところで、彼らとてオーガ並みの回復薬を作れてもいいはずだ、と。
 それほどまでに、回復薬の需要が高まっているのか、はたまた錬金術師や薬師の質が悪いのか。
 それはオーガにはわからないけれど。

「ただ、扱ってるポーションはお前の物ほど質はよくない。それに、値段も高いしな。だから、少しの擦り傷なんかは薬師の下で傷薬を購入して使う。俺たちみたいな竜人族なんかは必要ないけどな。人間は根幹が違う。弱いからな」
「……そういうもんか?」
「そういうものだ」

 なぁ?とアレンがジルに同意を促せば、ジルは苦笑しつつもアレンに同意する。

「そうですね。それすら、俺たち平民には高くて手が届きません。だから、病気やけがは基本的に自然に治るのを待ちます」
「……そんなに大層なものでもないだろうに」

 技術料、そう言われてしまえば元も子もないけれど。
 そこまで高い値段にし、利益が出るかと言えば微妙なところだろう。
 ランクEの回復薬など銅貨で売ってもいいぐらいなのだ。銅貨5枚。それで回復薬が買えるのならばこの世界であれば安い方だろう。
 銅貨五枚、日本円にしてみれば、500円ぐらいだから、高いか安いかは人によるが。
 需要と供給のバランスが、回復薬の高騰でおかしくなっている気がする。
 需要はあるのに供給はない。いや、供給がされない。
 全くないわけじゃないから、手に入れるには財力が必要と言う事になるだろう。
 何処でもここでも、人は金がないと生きていけないのだとつくづく思い知らされる。

「生きてるだけで金がかかるな……面倒くさい」

 それでも、死ぬことに魅力を感じない。生きていたい、と思うほどに。
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