イスティア

屑籠

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第一章

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「オーガ、何ぞ難しい顔をしておるな?」
「……また人の夢に勝手に入ってきやがって」

 ボンヤリとした意識に掛けられた声。
 ちっと舌打ちをしたオーガに、ラジュールはははは、と笑う。

「許せ。我とてお主が心配なのよ」
「あの時は助かったが、心配されるようなことは無いぞ」
「連れないことを言う。して、その顔はなんじゃ?」

 ぐりぐりと痛みは無いが、眉間のしわを伸ばすように人差し指で突かれもまれる。
 その手を払いながら別に、と言いかけて口をつぐむ。

「お前、ルラギラの街に寄るのか?」
「ルラギラの街か?それなら、このフルフラの街から少し遠回りをしてからよるのぉ」
「そうか……」

 少しホッとしたような顔をしたオーガに、ラジュールは眉間にしわを寄せた。
 ふむ、とラジュールは少しオーガから距離を取り考える。

「何やら問題がありそうじゃな」

 そっとラジュールはオーガの頭を撫でる。
 オーガは、ラジュールの行動に驚きつつも、その手を払った。

「子供じゃねぇんだぞ」
「優しく、いい子の頭を撫でて何が悪い」
「いい子って年でもねぇから。優しく何て無いしな」
「優しくない者は、他者の心配などしないものじゃ」

 お主は十分優しい、とラジュールがその顔で笑うから、思わずオーガは顔をそむけた。
 美形の笑顔怖い。

「さて、そろそろ朝かの。息災で有れ、オーガよ」

 そっと、またラジュールはキスをしてオーガから離れていった。
 それと同時に、オーガの目が覚める。
 むくりと起き出せば、おはようと声がかけられた。

「……っ!?」

 クリアな視界に、ハッとして顔面を手で確認するオーガ。
 アレンとリカルドはそんなオーガの様子に苦笑いをしていた。

「昨日の夜、自分で外したの、忘れたのか?」
「自分で、外した……?」

 うそだろ、とオーガはうなだれる。
 アレンはもちろんの事、リカルドだって強面だが、男気溢れる顔立ちをしている。
 それが、不細工な自分と一緒に居て、自分が比べられることをオーガは恐れた。
 さっさと仮面を付け、はぁ、とため息を吐く。

「そこまで神経質になる必要もないだろう?お前の顔、別段へんには思わない」
「そうだな。確かに、少し残念には感じるけど……まぁ、許容範囲だろ」
「っ、その言葉が一番聞きたくねぇ!」

 美形がどれだけ偉いんじゃ~っっ!!とオーガは叫んだ。
 叫んで、はぁはぁ、と息を切らし、そうして少し落ち着いたらしい。

「まぁ、俺たち以外の前で外すことなんてないだろうし、気にするな」

 苦笑いしているリカルドとアレンにちっと舌打ちをするオーガ。

「……犬にでも噛まれたと思って忘れる」

 それが良い、そうしようとオーガの中では、今この時、無かったことになった。
 朝食を取り、予定通りルラギラの街を出たオーガたちは街道沿いにまっすぐと王都へと進む。
 途中には小麦畑が広がっていたが、まだ青々としていて収穫時期ではない。
 けれども、一面緑と言うのもまた壮観と言うものだ。

「この地図分かり難い……まっすぐ行けばいいのか」

 ステータスに表示されている、自動マッピングされていく地図と目の前の地図を比べ、どの変化を把握する。
 レティのスピードで有れば、あと二日ぐらいで着くだろう、というアレンの予測だ。
 まぁ、此処は土地勘のあるアレンやリカルドに習うのが無難だろう。
 しかし、昔ながらの地図と言うのは、現代の地図に慣れているオーガにしてみれば本当に分かりにくい物である。

「縮尺もわからん。そもそも、この地図、山と場所の名前しか描いとらん」

 ふー、と息を吐けば馬鹿ねぇ、とレティが笑う。

「そんなの、当たり前じゃない。前の世界でも、原住民が使っていた地図もそんな感じだったでしょ?」
「原住民(NPC)が使ってた地図何て知るかよ。てか何?お前、この地図よめるわけ?」
「あら?当たり前じゃない。あの竜人に確認したけど、ちゃんと前の世界と同じ読み方だったわよ」
「じゃあ、お前がそれ見て走れよ」
「まぁ!投げやりね!知ってたけど!!」

 ぷりぷりと怒り出すレティに、オーガは再びはぁ、とため息を吐いた。

「……魔術の確認をしよう」

 どんな魔術があったか、と思い出そうとすればすらすらすらすら頭の中で、魔術式が流れて消えていく。
 魔法の呪文すらもすらすらと。
 これは……、とおもうが、便利な一方で一気に暇になってしまったオーガ。
 どうするか、とストレージの中身を探る。

「……あれ?こんな物まで入れてたっけか」

 そっとオーガがストレージから取り出したもの。
 それは、魔石を埋め込み、一つの魔法だけ発動させることが可能な剣。
 何かの依頼の品だった気がするが、覚えてない。
 ONI時代の依頼の品は全部、メールでやり取りしていたので、此処にその証拠もないとなれば、どうすることも出来まい。

「どうすっかな、コレ」

 魔石を埋め込むだけの簡単な作業、とは言え、剣自体もオーガが手ずから鍛えたもの。
 攻撃力、耐久値共に申し分ない、Sランク。
 ……もったいない気もするが、自分では使わない装備である。
 アレンか、リカルドへと渡すことも視野に入れ、それはとりあえず保留としてストレージの中へ戻す。
 狼の毛皮やラットの肉など、その他たくさんの要らないものまで。
 狼の毛皮をなめせば、とは思うが、そもそも鞣してもあまりいい装備にはならない。
 ダンジョンに挑戦するなら、余計に。
 うーん、と考え資材の部分を開く。
 手持ちの武器や防具はオーガ的にあまり良い物とは言えないからだ。

「金貰ってなかったし、まぁ、大丈夫か」

 素材と金は、オーガの品物と交換。
 オーガはオーガの伝手で、色々と素材は交換できる。
 それに、オーガだって戦えないわけではないのだ。自分で用意することぐらいたやすい。
 トップランナーの周辺に居る魔物でない限りは。

「……暇だな」

 そっと、オーガはそう呟くと無言で魔法を発動させ、小さな水の塊を数十個浮かせる。
 その水を保ったままそっとその中へ光の玉を出現させた。
 水の形を変えてやれば、キラキラと光りも動き、道ですれ違う馬車の行者からは驚きの目で見られる。
 が、それをオーガは気にしない。
 魔力を消費するだけ、と気が付き飽きたのでやめる。
 パッと魔力を消せば、水の玉も火も消え去った。
 今度は、ぱちぱちと雷を掌に出し、それを花火のように見せるため操る。
 魔力操作は魔術、魔法の基本である。
 その操作が完璧なら、どんな魔法だって自在に操れるものだ。

「……暇だ」
「オーガちゃん、さっきからそればっかりね?もうすぐお昼よ?中に声でもかけてみたらどうかしら?」

 それもそうか、とオーガは小窓を開けて中におーい、と声をかければ、何だ、とアレンが出てきた。
 どうやら、リカルドが料理をしている所を見ていたらしい。
 オーガが呼べば少し不機嫌そうな顔をしていた。

「もうすぐ昼だが、どこかで休むか?」
「あぁ、えっと……この先に、少し開けた場所があるはずだ。そこで昼食にしよう」

 りょーかい、とオーガは言い、小窓を閉める。
 アレンの言葉を聞いていただろうレティは、開けた場所ねーと駆け出していく。
 レティの走り方を見るに、魔術で少し強化しておいてよかったなぁ、と改めて思う。
 ガタガタとした道を、車輪が外れそうになるのも構わず走るから。
 それでも、魔道駆動をさせなくてよかったとは思う。魔道駆動させれば、その分車体に負荷がかかる。
 一瞬、視野に入れたが瞬間的に排除した。

「あ、有ったわよ」

 そうしてゆっくりとスピードを落としてたどり着いた場所には、二台の馬車が留まっていた。
 馬が怯えてもいけないので、レティが少し離れた場所に停車する。
 ふぅ、と馬車の金具を自分で外すと、レティは大きく体を伸ばす。それこそ、犬がするみたいに。……いや、犬か。
 てこてことオーガが下りて馬車の中に乗り込む際中、少しだけ相手馬車の方から嫌な視線を感じる。
 まぁ、レティが馬車の近くで寝ているので、フィンリルを知っている者なら近づいてきたりしないものだが。

「この辺を通る馬車って、何なんだ?」
「ん?そりゃ色々だろ。商業馬車も通るだろうし、乗合馬車だって通る。貴族が乗る馬車だって通るさ」
「……そういう輩っていうのは、変にこっちを探るものか?」
「どうだろうな?そりゃ、商会にも所属にもよるだろう。何せ、大事な荷物を運んでいる時も、貴族の護衛なんかするときも、こういう場合は自分以外を警戒するもんだ」
「……そんなものか」

 が、オーガは何となく納得のいっていない様子。
 野盗の可能性はあまり考えられないが、そうではなくて。
 何て言えば良いのか。
 いやらしい感じ?と言えばいいのか。
 こちらを探るような、狙っているようなあの視線をオーガは好まない。

「それよりオーガ」
「ん?」
「この先は、小さな町や村しかない。細々としたそう言う村を抜ければ王都だ。どうする?俺が代わるか?」
「……いや、いいよ。昨日も一昨日もアレンだっただろ。俺も何かしないとな」
「十分すぎるぐらい色々してるだろ」

 アレンとリカルドがオーガを呆れたように見るが、オーガにしてみれば錬金術師として当然と言うか、基礎みたいな技術で作ったこれらを別に手柄とも成果とも思わない。
 ONI時代はそれが普通だったからだ。

「暇は暇だけどな」
「……何というか、オーガらしいな」
「俺らしいってなんだそれ」

 あん?とオーガが首を傾げて見せるが、にこにことアレンもリカルドも笑うだけだ。
 と言うか、オーガはこの二人に年下扱いされている気がする。

「そう言えば、お前らって幾つなんだ?」
「俺か?俺は23だ」
「……ウソだろ?若い、若すぎる……」

 自分よりも約十歳も年下のリカルドに、おおぅ、と何気にショックを受けるオーガ。

「俺は159歳だな」
「年寄か!!って、何で百歳越えなんだよ!?」
「年寄って……お前な、竜人種の寿命がどれだけあると思ってんだ。俺の種族にしてみればまだ若い方だぞ。何せ、成人が100歳だからな」
「はぁあああああ!?」
「そもそも、魔力が多い奴は長寿だろ?それに、竜種が1000年は優に生きるんだ。俺たち竜人種は人間とその竜たちの中間、平均500年くらい生きるんだぞ?まだまだ俺なんて若い方だ」
「……魔力が多いと、長寿?」
「ん?あぁ、そうだぞ?」

 マジかよ……、とオーガは頭を抱える。

(えっ?じゃあ、俺どんだけ生きんの?)

 オーガの魔力はとんでもなく高い。
 その魔力をもってして、どれだけ生きるかはわからない。

「俺は、人族だからな。そんなに生きねぇ。生きて大体100年に届かないぐらいだろ」
「だから、俺と番に……」
「うるさい」

 アレンがリカルドに迫ると、リカルドはうんざりした様にアレンの方を張る。
 それでもめげないし、傷つかないのがアレンである。
 タフだなぁ、とオーガは遠い目をした。

「何で番とか……?」
「婚姻による結びつきは、夫婦の寿命を平均にしてくれるからだ。例えば……例えたくないが、此奴と俺が教会で夫婦として登録されると、そこで神からの祝福があり、俺の寿命が300年に伸びて、此奴の寿命が300年に縮むんだ」
「……へぇ?」

 神様と言うのは、そんな事をしているのか、と少し不思議に思う。

「王族はその限りではないがな」
「は?」
「シーファの王族は、特別な血の持ち主であり、今の王なんてもう100年は生きてるはずだぞ」
「……一応聞くが、人間だよな?」
「それが一概に人族ともいえん」
「この国の王族は血が混ざりすぎて、神聖視されている一方、種族が特定できない」
「神聖視?人が人を、か?」

 オーガが疑問を告げれば、あぁ、とリカルドが話す。

「王族は、血が混ざりすぎて本来の人としての外殻しかない。中身は、獣人の血もエルフの血も、魔族の血だって流れている。人と言えないんだ」
「けれど、その存在は、この世界の神と等しく、また神との交信もすることが可能だという」
「噂だが、教会の巫女や聖女が受け取るお告げよりも、王族の直系が聞く話の方がはっきりとしているモノらしい」
「レスティアがこの国と交易しているのは、そう言う王族神聖視もあっての事だ。時折、レスティアから王族を一人迎えたい、という依頼もあるが、それに対してシーファは断っているな。もちろん、本人が行きたいと言うのなら別だが」

 面倒くさい宗教問題がありそうだ、とまたしてもオーガは遠い目になる。
 さっさと口に昼食を放り込むと、スタッと立ち上がった。

「んじゃ、また何かあったら呼んでくれ」
「あぁ。だが、本当に変わらなくてもいいのか?」
「大丈夫だ。外で試したい事も有るしな」

 そうか、という二人に見送られて、オーガは外に出る。

「レティ、行こうか」
「あら?もういいの?それじゃ、行きましょうか」

 ぺろぺろと体を舐めて綺麗にしていたレティは、オーガに目を向けると目を細めた。
 ゆっくりと立ち上がると、オーガも行者の席へと座る。
 そう言えば、と先ほどの辺りを見てみると、もう馬車は居なかった。
 何だったのか、と思うが考えても仕方がない、とオーガは座り、レティが再び走り出した。

「そう言えば、オーガちゃん」
「何だ?」
「さっきの馬車、中身、なんだと思う?」

 にやにやと言う声音でレティが聞いてくるが、オーガは知るか、と一括する。
 もー、つまんないわねぇ、と少し不貞腐れるようなレティ。
 だが、その足は止まらない。
 小さな町や村を一つ二つと超えていく。さすがのスピードだ。
 馬車に魔法かけておいてよかった、と改めて思う。
 ダークフィンリルであるレティは、朝や昼よりも夕方の方が力が出やすい。
 夜は、独断場と言っても過言ではないだろう。

「奴隷よ、あの馬車の中身」
「は?奴隷?」
「そう。魔術の匂いがすると思ってよぉく観察してたのよ。そしたら、分かったわ。匂いも漏れないように馬車を改造しているみたいだけど、私の鼻を侮ってもらっちゃ困るのよ」
「さすが犬っころだな。で?何だったんだ、中身」

 ふぅ、とため息を吐くレティ。
 オーガちゃんは、これだから、とぶつぶつ文句も言っている。

「人も乗ってたけれど、あの馬車に乗ってたのは殆どが獣人だったわ」
「……国家もある獣人を、奴隷に?そんな事してれば、国際問題じゃないのか?」
「さぁ?そこまで私が知るわけないじゃない。ただ、私は事実のみを述べているだけよ」

 ふぅ、とため息を吐くオーガ。通りで変な視線を感じた訳だ、と。
 商品になるかの値踏みだったのかもしれない。
 まぁ、レティが居たから手を出しては来なかったみたいだが。

「人間って言うのは滑稽よね?同じ下等生物の癖に優劣をつけるんだもの」
「珍しく、人に対して毒舌だな?俺も人だが?……人間のそういう格付けは本能なんだろ。自分より下の奴がいる、だから幸せだ、と思わなきゃやっていけない奴らが多いんだ」

 俺も含めてクソ野郎ばっかだ、とオーガは自嘲する。
 そんなオーガを、レティはクスクスと笑う。
 何がおかしい、とレティをにらむが、レティは依然として楽しそうだ。

「オーガちゃんが、クソ野郎じゃなかった時の方が少ないじゃない。今さら何言ってるの」
「……お前が俺をどう見てるのか、よぉく分かった」

 この野郎、と思わなくもないが、今レティが馬車を引いている状況では、どうすることも出来ない。
 王都に着いたら覚えてろ、と言うオーガにレティが先ほどよりも大きく笑った。

「オーガちゃんが忘れる癖に」
「……ほんとお前覚えてろよ?王都に着いてからもこき使ってやる」
「いやん。オーガちゃん前に言ってた、これがハラスメントってやつね!」
「むしろDV……いや、なんでもない」

 はぁ、とため息を吐いたオーガは、もう何も言うまい、とレティから目を背けた。
 さて、どうするか。
 とオーガは考えるが、暇なのは変わらない。
 あー、と意味もなく声を出し、手を見つめる。

「暇だ……」

 寝ることも出来ない。何かあったときは、無理やりにでもレティが起こしてくるとは思うが。
 そもそも、いい天気だが眠気は一つもない。
 いや、眠ったらラジュールが出てきそうで、嫌だと言うのもある。
 何故、こんなに離れた場所でも繋がっているのかは不思議でならないが。
 オーガは、ストレージの中から端材を取り出し、掌の上に魔力で錬金術の魔方陣を描き出す。

『回る、回る、吹けと回る
 落ちる落ちる、何処へ落ちる?

 回れ回れ、とくと回れ
 飛んで、回れ彼の宴』

 端材がオーガの掌で形を変えていく。
 出来上がったのは、木と紙で出来た、風車。
 暇だ、と適当に取り出した端材で尚も作り続ける。
 端材はまだあるが、50個近く作ったことで、ハッとしてオーガは作る手を止めた。

「……魔力がやべぇ」

 ****************************

 名前:オーガ
 ジョブ:魔法剣士
 sub:錬金術師
 レベル:3

 体力:22,000/22,000
 魔力:250,000/620,000
 腕力:4388
 精神:6300
 俊敏:3240
 防御:3375
 運:3375

 ***************************

「んぅ!?……何でレベルが上がってるんだよ……?」

 ぽかん、としてオーガは自分のステータスを見る。
 やはり、体力、魔力は二倍に、その他ステータスは1.5倍になっていた。
 どういうことだ?とオーガはステータスを見ながら首を傾げる。

「……このまま行くと、俺のステータス、化け物になるんじゃないのか?」

 ぽつり、と呟くが、あぁ、やだやだ、とオーガは考えることを放棄する。
 それよりも、レベルが上がった理由だよ、とステータス画面をタップしようとするも、通り抜けてしまって触ることも出来ない。
 説明が欲しいが、この現象を知っている人など居ないだろう。
 やはり、王都の大聖堂まで行く必要があるかもしれない、とオーガはため息を吐く。
 今日だけで何度、ため息を吐くのか分からない。

「大聖堂、か……収穫があるといいが……」

 ラノベじゃねぇからなぁ、と一人オーガは呟く。

「早く店を持って、のんびりと隠居暮らしがしたい……」
「隠居って、オーガちゃんの根暗!」
「うるせぇカマ犬。しっかり走れ」

 そんな軽口をたたきながら、通常では考えられないくらいの速さでレティが街道を走っていく。
 小さな廃村も中には見え隠れしていたが、オーガは気にしない。
 文明とは、やがてすたれていく物だ。それが、小さくても大きくても。
 ルラギラの街に流れたスラム街の住人たちの、元々の村だったのかもしれないが。

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 side:???

「おい、さっきの馬車」
「大丈夫だ、あのフィンリルが気が付いたって、どうすることも出来ねぇだろ。それに、魔物がしゃべるかよ」
「それもそうか」

 ひそひそと話をする彼らの後ろから、おいっ!!と偉そうな声がかかる。

「いつまで止まってるつもりだ?さっさと僕の領地に運びたまえよ、無能どもが」
「へいへい、坊ちゃま」

 ふんっ、と鼻を鳴らすと、彼は勢いよくカーテンを閉めた。
 はぁ、とため息を吐いた二人組は比較的豪華な方の馬車ではなく、ぼろく窓もない馬車の行者の席へと乗り込む。
 ぺこり、と頭を下げた前の馬車の行者は、バシッと鞭の音を響かせ、馬車を走らせる。
 それに続くように二人も馬車を走らせた。
 一つ、彼らが行者をしている馬車は確かにレティが言っていたように獣人の奴隷をのせた馬車だが、もう一つは違う。
 明らかに、彼の人が奴隷のはずがない。
 奴隷は、人に命令などしない。
 僕の領地、つまり彼は貴族なのだろう。

「全く、王都ではおちおち商売もしてられん。奴隷も売れ残った。クソが」

 この国で、奴隷売買は禁止されている。
 奴隷売買が認められているのは、魔国と意外かもしれないが、聖国である。
 魔国では、奴隷法と言うものが整備されており、あまりひどい扱いもされない。
 が、一方で聖国の奴隷は、人族以外の種を指し、聖国で獣人や亜人は人間以下、という扱いを受ける。
 酷いものだ、と公国は常より対策を取ってはいるが、奴隷商人たちもありとあらゆる手を使うので鼬ごっこになっていたりもする。

「聖国へ流せば、少しは利益が得られる……ファルデル伯と話をしなければ」

 くそっ、ともう一度彼は悪態を吐き、ガジガジとかじっていた親指の爪を離して勢いよく馬車の椅子へと座りなおす。
 彼らが向かう先は、オーガたちが来た道を戻った先にある。
 そう、ルラギラの街だ。

「あの国だって、受け入れさえしてくれれば……奴隷法など崩壊してしまえばいいのに。下賤な血など……この世界に必要あるまい。畜生が地べたを這うのは当然の事。何故、神はこんな世界に作ったのか」

 彼はシーファに有りながら、レスティア教信者だった。
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