君が望んだ終焉の果てに

屑籠

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グレハス編

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 いつもの時間に起きて、支度をしてから宿を出た。
 今日は店員の彼ではなかったけれど、彼から聞いていたのか、愛想のいいおねぇさんが対応してくれた。
 この間のように、徒手から始まり、双剣での型を一通り終わると、声がかけられる。

「壮観だな」
「ひっ!」

 集中していたので、びっくりする。
 そんなに剣舞、というのは珍しいものなのだろうか?

「わるい、驚かすつもりはなかったんだ」
「だ、大丈夫、だし……」

 びっくりはしたけれど、触れられるほど近くにいたわけでもなし、大丈夫。
 それほど近くにいれば、間違って切ってしまっていたかもしれない。

「お前さん、南の迷宮に行ったんだってな?」
「え、えっと……行った、けど……」
「そうか……何か、無かったか?」
「べ、べつ、に……」

 話していいものかどうか迷う。
 そもそも、この人はなぜ俺に話しかけてくるのだろう?と考えてしまう。
 何かをした覚えはない。しいて言うのであれば、されているといっても良いぐらいではあるけれど。

「今日はどうするんだ?北の迷宮に行くのか?」
「え、えっと……」
「悪い、でも三日も帰ってこなかったって言うから気になってな」
「そ、そう……迷宮、に、ついては、考えて、るよ」
「なら、一緒に行ってみないか?」

 どうして?と彼を見つめてしまう。
 彼は悪い人ではないのだろう。でも、なんだか違うのだ。
 怖いでもないし、何というか、違う。

「サルジュっ!!」
「ファニア……」

 またお前か、というように、彼はため息を吐いた。

「なん、何でそいつ誘うの?俺だけじゃダメなの?」
「いや、ちょっと気になってな」
「なんでっ!!俺がいるじゃん!俺、俺だけじゃ不満なの?何が不満なの?ねぇ、サルジュっ!」
「お前に不満があるわけじゃないっての。そうじゃなくて、何となく気になるんだよ」
 
 ファニアに、ぎっ、と睨まれる。
 俺、何もしてないんだけど、とオビトは内心、溜息を吐いた。

「お前に言っても分からないだろう……」
「ひどっ!酷いっ!」
「はぁ……気になるならお前もついてくればいい」
「サルジュは俺を置いて行こうとしたの!?」

 信じられない、とぎゃんぎゃん言ってる彼。
 周りの家から人の動く気配がする。うるさくて起きたのか。
 なんでこんな痴話げんかに巻き込まれているのか。
 オビトは朝から辟易してきた。
 はぁ、とため息を吐いた彼は、面倒になって料理屋への道を帰る。
 その後を、喧嘩しながら追ってくる二人に、何で追ってくるの?と思いながら、そう言えばバッグに迷宮で拾ってきた素材があることを思い出した。
 バッグを軽くするため、まずは冒険者ギルドに向わなきゃ。
 軽くするため、とは言うけれど、別に重さを感じているわけではないが、容量がいっぱいいっぱいだ。

「……なんか、すごいのと一緒だな?」

 戻ってきたオビトに、店員の彼が笑う。いつもより遅く起きただろう彼は、ちょっぴり寝癖が付いていた。
 彼らは有名なのだろうか?
 有名だから、と言って何があるわけでもないのだが。
 オビトは特に気にしない。自分の関わるべきことではないと思ってるし、興味もないから。
 席に座れば、親父さんが朝ご飯を用意してくれた。また、胃に優しい料理だ。
 そんなに、やつれているように見えるのだろうか?ちょっとだけ、自分の容姿が心配になった。
 相変わらず、料理はおいしい。
 ごちそうさまでした、と手を合わせると立ち上がる。
 あ、そうだと、店員の彼を捕まえた。

「あ、あのっ」
「ん?なんだ?」
「きょ、今日は、ギルド、行って、から、北の、迷宮行く、から。その……」
「なるほど、遅くなるか帰ってこないかのどっちかね。わかった、気を付けて行けよ」
「う、うん……っ」

 ふぁ、と起きたばかりだったのだろう欠伸をした彼は、何気なくオビトの頭を撫でて奥へ戻って行ってしまった。
 今日はお休みだったのかもしれない、と思うと少し申し訳なく思う。
 気を取り直して、よしっ、と気合を入れ、料理屋を出るとギルドへと向かった。
 ギルドは朝が早いからか、混雑しているように思う。だが、朝から素材買取のカウンターへ向かう人は殆どおらず、空いている。
 よかった、と息を吐き、カウンターへと顔を出す。

「あ、あのっ」
「はい?」
「そ、素材の、買取、して、欲しくて……」
「あ、はい。どうぞ」

 少し広めに取られている素材買取のカウンターの上に、南の迷宮で拾ってきた素材を並べていく。
 迷宮というのは、魔獣や魔物を倒すと、自動的にその体は迷宮に溶けて消えてしまうのだが、倒した報酬みたいなものが、溶けたその場に残る。
 何が残るかはランダムみたいで、同じ魔獣や魔物から、同じものが落ちるとは限らない。
 ギルドタグと一緒に、バッグの中に入っていた素材を全て出す。今のオビトには必要のないものばかりだ。
 もちろん、薬などその他必要なものはあらかじめ把握している。
 量が量だったので、少し時間がかかると言われ、ギルドの中で待つことになった。
 手持無沙汰だったオビトは、何の気なしに、空いている掲示板を見上げてみる。
 
「……えーらんく?」

 このランクとは何だっただろうか?と、思い出そうと記憶をたどるが、思い出せない。
 ギルドに登録するときに、説明されたっけ?と、首をかしげる。

「お前さんはまだAランクの依頼は受けられないだろ?」

 いつの間にか来ていたサルジュが隣にいた。

「べ、別に、受けるとは、言って、ない……」
「ギルドに登録したばかりなら、あっちのFランクの依頼を受けるべきなんだが」
「い、依頼、受けなくて、いいって、言われた、し……」
「一定期間依頼を受けないと、Fランクなら資格を剥奪されるはずだが……?」

 えっ、と驚いた声に、え?とサルジュの困惑した声が答えのように返ってきた。
 ファニアは、拗ねたような顔をしてサルジュの隣に居たかと思えば、次の瞬間にはあきれ顔でオビトを見ている。

「え、おまっ、ギルドの説明ちゃんと聞いてた?」
「だ、だって、登録、するつもり、無かった、し……」

 無理やり登録しろと言ってきたのは、あの受付の人だ。
 依頼を受けなくていいって言ったのも。
 だから、依頼を受けなくてもいいはずだ。そう言えば、何だっけ?
 なんだかかんだかって言ってた気がするけど、忘れた……。
 そうして話している後ろから近付いてきた人物に、ごつんっ!と頭をぶん殴られたオビト。

「いっ!?」
「こんの、あほんだらが!!」

 頭を押さえ、うずくまっていると、首根っこを掴まれてひっくり返された。
 見覚えの濃くある顔が、目の前にあって、怒っているようだ。
 何かしたっけ?と涙目になりながら考える。

「お前、今まで何してやがった!?オジカの明細用意しておくって言っただろ!さっさと来ないか、馬鹿者が!!」
「い、いたい……えっ、オジカ……?あ、オジカ、忘れてた……」

 そう言えば、数日前に大きな個体のオジカを狩っていたのだ。
 あの日、いつとは言われてなかったから、いつでもいいものだと思っていた。

「だ、だって、そ、んな急ぎじゃない、し……」
「だとしても、だ!次の日には来るだろう、普通!」
「ふ、普通とか、しらない、しっ!」
「だぁから世間知らずだって言うんだ!!」

 まったくっ!とそのまま抗うこともできず、この前の個室に連れていかれる。
 あ、おい、とサルジュたちも後を追いかけてきていた。
 椅子に縛り付けられるように下ろされ、蛇に睨まれるがごとくその場に拘束される。
 ちょっと待ってろ、と言うが逃がさないようにか、受付の人はさっと戻ってきた。素直にすごいと思うぐらい早い。

「これが、オジカの肉、骨、頭部、内臓、毛皮の買取金額だ。それから、依頼報酬がこっち」

 紙に、何がいくらで売れたのかが書いてあり、次の紙にはオジカの討伐依頼完了報告などが記されていた。
 そう言えば、興奮したように言っていたな、と今更ながらに思い出す。

「それから、これが今日持ち込んできた素材の買取金額だ。お前の事だから、全部ギルドの預金に突っ込んどいたぞ。必要なら後で手続きして下ろせ」
「へぇ、やるじゃん……すっごい金額」

 オジカだけでも、肉にしてもすごい金額が書かれていた。
 これはもしや、稼ぎすぎなのでは?と心配になるぐらい。

「ファニア……」
「はいはい。まぁ、俺たちは金に困ってるわけじゃないからいいっしょ?」

 はぁ、とため息を吐く音だけが聞こえた。
 彼らは、相当な冒険者なのだろう。ランクが高ければ、一度に受ける依頼の報酬も高く、金には困らなくなる。
 
「そんで?お前らはなんでこいつといる?」
「あ、そうだおっさん!」
「誰がおっさんだ、誰が!」
「まぁ、いいじゃん。んで、おっさん。こいつに、ギルドの加入説明ちゃんとした?こいつ、依頼を受けないと資格剥奪されること知らなかったんだけど」
「ちゃんとしたぞ、俺は。大方、聞いてなかっただけだろ、こいつが。この間オジカを狩った件でランクは上がってるしな」

 そう言って、彼から返されたギルドカードの色は不思議と変わっていた。
 はじめは、木の板に文字が書いてあるようなものだったのに、今は黒く、鉄のような素材で出来ている。

「ふぅん、Dランクか……」

 この黒いカードはDランクの証らしい。
 へぇ、と興味なさげに呟いた。実際、オビトにそこら辺の興味はない。だからきっとまた忘れるだろう。

「次は、忘れるなよ?」
「……え?」
「お前に言ってんだよコラっ」
「い、いた、いたたたたたたっ!!」

 がしっ、と大きな手で頭を鷲掴みにされたオビトはぎりぎりと力を込められていくのに耐え切れず、痛いと暴れる。
 しかし、彼の手は、彼が満足するまで離れることはなかった。
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