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しあわせのはじまり
しおりを挟むぽわぽわ、目が覚める。
「おはよう、結芽」
白銀の瞳を細めて、陵が笑ってくれる。
夢だな、と思う。
夢じゃ、いやだと思う。
やさしく頭をなでてくれる指を掴まえて、ぎゅうぎゅう握る。
陵が夢じゃないことを、確かめるように。
陵が確かに存在していることを、確かめるように。
「結芽、かわいー」
きゅ、と手を握り返した陵が、ちゅ、ちゅ、と甘いキスを降らせてくれるのに、発火した。
「はわわわわわ……!?」
「……まさか、覚えてないとか言ったら、泣くぞ」
白銀の瞳に拗ねたように睨まれて、昨夜のとろける記憶を思い出す。
「お、おおお覚えてます……!」
「……よろしい」
ほんのり紅い眦で、陵が笑う。
とろけるようにやさしくて、とかされそうに甘い匂いがする。
「……陵の、めちゃくちゃいい匂い度が上がってる」
「結芽もだから」
ちゅ、と唇に降る唇が、うれしくて、はずかしくて、とろけそうで、とびきり甘い。
絶対夢だと思うのに、絶対夢じゃ厭だ。
ずっと、ずっと、陵の傍にいたい。
祈る指を、陵の指が握ってくれる。
千切れそうだった哀しみが、とろけるしあわせに変わってゆく。
「……ありがとう、陵」
ささやいたら、陵が紅い頬で笑ってくれる。
「こちらこそ、結芽」
重なる唇は、とろける蜜の香りがする。
陵が着物を着せてくれる。
手を繋いで寝室を出たら、お膳を持ってきてくれた絢と菫と麦が、にやにやした。
「うじうじ陵、お終いか?」
麦が陵を小突いて
「おひめさま、きらきら!」
きらきらの菫の瞳で笑ってくれる。
「夜中までうじうじしてた癖に、手、早いな――!」
仰け反る絢を、陵の回し蹴りが襲った。
「してねえよ!!
めちゃくちゃ大事にするんだから――!!」
真っ赤になって叫ぶ陵と一緒に、私も発火した。
あ、あのあのあの、だ、大事にしてくれなくても……あのあの、め、めちゃくちゃ期待して……るとか言えないよ――――!!
「まあ、うん。
陵はおひめさまの御心を汲み取れるようになれ」
絢に肩を叩かれた陵が、白銀の目を剥いた。
「は!?
めちゃくちゃ汲み取ってる!」
「いやいや、まだまだだな、陵。
先輩の俺らを見習うがいい!」
「そうだよ、陵!」
麦と菫がそろって胸を張って、溜め息をついた陵は、ちいさく笑った。
「俺は、結芽の心だけ、汲み取れるようになればいいや」
ぎゅ、と手を握ってくれる陵の耳朶がほんのり紅い。
「うわあん!
陵、大すき!」
思わず抱きついたら、陵が真っ赤になって、白銀の皆が拍手してくれた。
「陵がその姿のままということは、お聞きになりましたか、おひめさま」
絢の言葉に、頷いた。
「陵の傍にいたいです。
陵の子を、もし授かれるなら、産みたいです。
皆さんを理解できるように、がんばります。
どうぞよろしくお願いします!」
深く深く、頭をさげる。
「やっぱり、本物のおひめさまだ――!」
麦と菫が、跳びあがって喜んでくれる。
絢はとろけるように笑ってくれた。
白銀の皆さんが、拍手を送ってくれる。
隣の真っ赤な陵が、手を握ってくれた。
「折角なので、皆さんのお力になりたいです。
まず、あやしさ満開のサイトをどうにかしましょう!
皆が怪しまれずに触れるように、ハンドマッサージサービスを組み込みましょう!
アレルギー対応できる宿なことをもっと前面に打ち出してアピールしましょう!
冬も皆が餓えないように、おひめさまが来てくれるよう、販促キャンペーンを打ちましょう!」
手を挙げたら、
「おおお!
さすが、我らの導きのひめ!」
イケメンの皆さんが拍手してくれる。
「あやしさ満開だってさ、絢」
「頑張ったのにね、絢」
麦と菫の言葉に、ぐぐぅと詰まった絢がしょんぼり肩を落とした。
「……あやしいですか」
「あやしいです!
もっとふつーの旅館ぽくしましょう!
イケメンを売りたいのは解りますが、これはあやしい!!」
拳を握る私の隣で、陵が笑う。
「結芽が俺のおひめさまで、ほんとによかった。
俺らを導いて、癒してね」
ちゅ、とふわふわの唇が、額にふれる。
「俺が結芽を癒して、とびきり甘やかしてあげるから」
唇にふれた唇は、とろけそうに甘い香りがした。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
最後まで読んでくださって、ほんとうにありがとうございます!
しおりを挟んでくださった方、お気に入りに入れてくださった方、いつも読んでくださった方に、めちゃくちゃ勇気を戴きました。
ほんとうにほんとうにありがとうございました。
ざまぁ? かもしれない番外編を更新の予定です。
楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
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