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ほんとう
しおりを挟む手を繋いで、歩く。
数えきれない星明かりが降ってくる。
「きれいね」
囁いたら、陵が笑う。
「結芽が」
「眼科行こう、陵」
「はぁ――!?」
赤くなってキレる陵は、可愛い。
ふたりの唇から零れる吐息が白くて、繋がる指があったかい。
「寒くない?」
「平気」
のぼせそうなくらいあったまったから。
顔を見合わせて、ふたりで笑う。
雪混じりの風が吹きつけて、ふたりで肩をすくめた。
ふたりの距離が縮まって、離れへと向かう足が、速さを増した。
離れに古くからあるらしい囲炉裏に、陵が火を起こしてくれる。
ぱちぱち爆ぜる炎に照らされる白銀の髪と瞳は、夢のように芳しい。
距離を置いて座ろうとする陵の指が、ふるえていたから。
ぎゅ、と陵の手を握る。
かすかに瞳を見開いた陵は、私の手を握り返してくれた。
あたたかな炎に照らされて、朱金に染めあげられた陵が、そっと唇を開く。
「……俺は、人じゃない。
あやかしと呼ばれてる」
「……あやかし」
こくりと陵は頷いた。
「人が生まれると同時に、俺たちも生まれたと言われてる。
俺たちは、人の哀しみや苦しみ、さみしさを糧にするから」
「……私の哀しみが、陵のごはんになる?」
陵が、私の手を握る。
「こうするだけで、結芽の今までの哀しみや苦しみ、さみしさや痛みが流れ込む。
俺たちが食べると、結芽の哀しみや苦しみはちいさくなる」
目を見開いた私は、頷いた。
「白銀に来てから、私、ずっとしあわせだよ!」
白銀の瞳を細めて、陵は微笑んだ。
「……ありがとう」
私の手を握った陵は、目を伏せる。
「昔の人は、現実と夢物語の境が曖昧だったから。
魑魅魍魎やあやかしを信じてた。
俺たちは哀しみを食べてくれるあやかしとして、大事にされてきたんだ。
でも今の人は、科学で説明できないことを信じない。
人間の科学なんて、宇宙の表層をひっかくだけなのに」
白銀の瞳が、揺れる。
「……誰も、俺たちの里に来てくれなくなった。
陰のあやかしの俺たちは、陰の気に満ちたこの村を離れられない。
餓えた俺たちは、考えたんだ。
どうしたらこの山奥に、また人が来てくれるか。
怪しまれずに、哀しい人に触れられるか」
私は目を瞠る。
「だから、イケメン村?」
陵は思いきり肩を落とした。
「……絢が。顔を売り出そうって言いだして……」
「すごいよ、大成功だよ!
口コミ、☆オール5!!」
ぱちぱち拍手する私に、陵が口を開ける。
「…………やじゃ、ないの?」
「すんごい詐欺なんじゃないかって、ビクビクしてた。
ものすごいイケメンの人が、私にやさしくしてくれる理由って、お金以外に思いつかなかったから。
でも、私の哀しい気持ちを陵や、絢さん、菫くんや麦くん、里の皆さんが食べてくれて、それで私の気持ちが楽になって、皆がお腹いっぱいになるなんて、最高にWinWinの関係だよ!」
白銀の瞳が、瞬く。
「……きもち、わるく、ない……?」
「全然!
陵、めちゃくちゃきれいだよ!」
白銀の髪を、透きとおる肌を、抱きしめる。
ふるえる肩を、抱きしめた。
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