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おひめさま

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「ああ、夏の話ね。
 今度の夏は皆で歌って踊ろうかっていう案が出てて――」

「俺は絶対!! やらねえからな!!」

 目を剥いて叫ぶ陵に、麦が舌を出す。


「誰も陵にやってくれなんて、頼んでません――!」

「ちっともおひめさまにお仕えしない癖に、一番人気だなんて、ゆるせないよ!」

 ぽわぽわ髪を揺らした菫が、ちいさな頬を膨らませる。


「……いや、俺のわけないだろ」

 目をまるくする陵に、絢が吐息する。


「我が弟ながら、白銀で最高の顔面だからね。
 うちわに書かれてる名前を、麦と菫が数えてくれたんだよ」

「おひめさまにさえ不愛想な陵が1位だなんて、酷すぎる――!」

 ぷりぷりする菫に、うむうむ麦も頷いた。


「絢が2位だったぞ。
 納得だな」

「白銀で2番目の顔面だからね」

 喉を鳴らして絢が笑う。


「いや、絢のが美人だろ。
 俺はふつー」

 陵の言葉に絢は益々笑って、麦と菫は胡乱な瞳になった。


「……陵でふつーだってさ」

「ふつーが憤激に目を剥くよね」

 私もしっかり頷いたら、陵がふくれた。


「白銀は、皆顔がいいんだよ。
 ……でないと生きてけない」

 ちいさな声は、楽し気に駆ける菫のぱたぱた軽い足音に消える。


「じゃじゃーん!
 ここが、客室だよ!」

 きれいだけど極寒の渡殿を渡り切ったその先、離れひとつ丸々を客室として開放してくれるという。

「え、あ、あの、ご、豪華すぎる――!
 私、ほんとにあんまりお金なくて――!」

「だから、お金はいいの!」

 陵が眉を吊り上げて、絢も頷く。


「旅館をご予約戴いたのに、客室がご用意できなかったのは、こちらの落ち度ですから。
 これくらいさせてください」

「して戴き過ぎです――!
 あ、あの、ほんとに隅っこで寝させて戴けるだけで……」

 アップグレードにも限度があるよ!
 あわあわうろたえる私に、陵が首を振る。


「だめ」

「おひめさまなんだから、いいの!
 広いとね、僕とかるたができるんだよ!」

 えへんと胸を張る菫の可愛さが、国宝級だ。


「庭で雪だるまつくろー!
 南天あるから、雪うさぎもできるぞ!」

 麦の輝く笑顔に、

「わあ!」

 思わず手を叩いた。


「荷物置いて、着替える?
 よかったら、着物着せてあげる」

 陵の腕が、するりと腰に回る。
 長い指が、そっと顎からうなじを撫でてゆく。


「き、ききき着物着て雪だるまは、む、無理だと思う……!」

 燃える頬であわあわしたら、絢が吹き出して笑った。


「確かに!
 じゃあ荷物置いて、皆で遊ぼう!」

「おい、俺の傍仕えの意味は――!」

「陵も一緒に遊んでもいいよーだ!」

 菫がちいさく舌を出して、麦がうむうむ頷く。


「おひめさまにお仕えしたことのない陵は、先輩の俺らの動きをよく見て勉強したらいいんだよ!」

 絢が吹きだして笑って、目を丸くした陵はくしゃりと漆の髪を掻きあげた。


「……子どもたちが、なんか、ごめん。
 結芽、ほんとに遊びたい?
 無理してない?」

 大きなてのひらで、頬を包まれる。
 あたたかなやさしい手に、どきどきして、そっと頬を寄せてしまう。


「雪が珍しいから、雪だるま、つくってみたいの」

「そっか」

 ふうわり、陵が笑ってくれる。
 繋がる指が、あったかい。


「寒くなったり、疲れたら、すぐ言って。
 温泉、いつでも入れるようにしてあるから」

「ありがとう」

 微笑んだら、漆黒の瞳をやわらかに細めて、陵が笑う。


「皆が、ひめ、ひめって言う意味が、初めて解った。
 結芽はほんとに、俺の、おひめさまだ」

 ちゅ、とふわふわの唇が、指先に降る。


 発火して倒れそうな私を、白銀の光が閃く瞳で、陵が抱きとめてくれた。






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