11 / 43
おひめさま
しおりを挟む「ああ、夏の話ね。
今度の夏は皆で歌って踊ろうかっていう案が出てて――」
「俺は絶対!! やらねえからな!!」
目を剥いて叫ぶ陵に、麦が舌を出す。
「誰も陵にやってくれなんて、頼んでません――!」
「ちっともおひめさまにお仕えしない癖に、一番人気だなんて、ゆるせないよ!」
ぽわぽわ髪を揺らした菫が、ちいさな頬を膨らませる。
「……いや、俺のわけないだろ」
目をまるくする陵に、絢が吐息する。
「我が弟ながら、白銀で最高の顔面だからね。
うちわに書かれてる名前を、麦と菫が数えてくれたんだよ」
「おひめさまにさえ不愛想な陵が1位だなんて、酷すぎる――!」
ぷりぷりする菫に、うむうむ麦も頷いた。
「絢が2位だったぞ。
納得だな」
「白銀で2番目の顔面だからね」
喉を鳴らして絢が笑う。
「いや、絢のが美人だろ。
俺はふつー」
陵の言葉に絢は益々笑って、麦と菫は胡乱な瞳になった。
「……陵でふつーだってさ」
「ふつーが憤激に目を剥くよね」
私もしっかり頷いたら、陵がふくれた。
「白銀は、皆顔がいいんだよ。
……でないと生きてけない」
ちいさな声は、楽し気に駆ける菫のぱたぱた軽い足音に消える。
「じゃじゃーん!
ここが、客室だよ!」
きれいだけど極寒の渡殿を渡り切ったその先、離れひとつ丸々を客室として開放してくれるという。
「え、あ、あの、ご、豪華すぎる――!
私、ほんとにあんまりお金なくて――!」
「だから、お金はいいの!」
陵が眉を吊り上げて、絢も頷く。
「旅館をご予約戴いたのに、客室がご用意できなかったのは、こちらの落ち度ですから。
これくらいさせてください」
「して戴き過ぎです――!
あ、あの、ほんとに隅っこで寝させて戴けるだけで……」
アップグレードにも限度があるよ!
あわあわうろたえる私に、陵が首を振る。
「だめ」
「おひめさまなんだから、いいの!
広いとね、僕とかるたができるんだよ!」
えへんと胸を張る菫の可愛さが、国宝級だ。
「庭で雪だるまつくろー!
南天あるから、雪うさぎもできるぞ!」
麦の輝く笑顔に、
「わあ!」
思わず手を叩いた。
「荷物置いて、着替える?
よかったら、着物着せてあげる」
陵の腕が、するりと腰に回る。
長い指が、そっと顎からうなじを撫でてゆく。
「き、ききき着物着て雪だるまは、む、無理だと思う……!」
燃える頬であわあわしたら、絢が吹き出して笑った。
「確かに!
じゃあ荷物置いて、皆で遊ぼう!」
「おい、俺の傍仕えの意味は――!」
「陵も一緒に遊んでもいいよーだ!」
菫がちいさく舌を出して、麦がうむうむ頷く。
「おひめさまにお仕えしたことのない陵は、先輩の俺らの動きをよく見て勉強したらいいんだよ!」
絢が吹きだして笑って、目を丸くした陵はくしゃりと漆の髪を掻きあげた。
「……子どもたちが、なんか、ごめん。
結芽、ほんとに遊びたい?
無理してない?」
大きなてのひらで、頬を包まれる。
あたたかなやさしい手に、どきどきして、そっと頬を寄せてしまう。
「雪が珍しいから、雪だるま、つくってみたいの」
「そっか」
ふうわり、陵が笑ってくれる。
繋がる指が、あったかい。
「寒くなったり、疲れたら、すぐ言って。
温泉、いつでも入れるようにしてあるから」
「ありがとう」
微笑んだら、漆黒の瞳をやわらかに細めて、陵が笑う。
「皆が、ひめ、ひめって言う意味が、初めて解った。
結芽はほんとに、俺の、おひめさまだ」
ちゅ、とふわふわの唇が、指先に降る。
発火して倒れそうな私を、白銀の光が閃く瞳で、陵が抱きとめてくれた。
40
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
義母ですが、若返って15歳から人生やり直したらなぜか溺愛されてます
富士とまと
恋愛
25歳で行き遅れとして実家の伯爵家を追い出されるように、父親より3つ年上の辺境伯に後妻として嫁がされました。
5歳の義息子と3歳の義娘の面倒を見て12年が過ぎ、二人の子供も成人して義母としての役割も終わったときに、亡き夫の形見として「若返りの薬」を渡されました。
15歳からの人生やり直し?義娘と同級生として王立学園へ通うことに。
初めての学校、はじめての社交界、はじめての……。
よし、学園で義娘と義息子のよきパートナー探しのお手伝いをしますよ!お義母様に任せてください!
髪を切った俺が『読者モデル』の表紙を飾った結果がコチラです。
昼寝部
キャラ文芸
天才子役として活躍した俺、夏目凛は、母親の死によって芸能界を引退した。
その数年後。俺は『読者モデル』の代役をお願いされ、妹のために今回だけ引き受けることにした。
すると発売された『読者モデル』の表紙が俺の写真だった。
「………え?なんで俺が『読モ』の表紙を飾ってんだ?」
これは、色々あって芸能界に復帰することになった俺が、世の女性たちを虜にする物語。
※『小説家になろう』にてリメイク版を投稿しております。そちらも読んでいただけると嬉しいです。
となりの京町家書店にはあやかし黒猫がいる!
葉方萌生
キャラ文芸
京都祇園、弥生小路にひっそりと佇む創業百年の老舗そば屋『やよい庵』で働く跡取り娘・月見彩葉。
うららかな春のある日、新しく隣にできた京町家書店『三つ葉書店』から黒猫が出てくるのを目撃する。
夜、月のない日に黒猫が喋り出すのを見てしまう。
「ええええ! 黒猫が喋ったーー!?」
四月、気持ちを新たに始まった彩葉の一年だったが、人語を喋る黒猫との出会いによって、日常が振り回されていく。
京町家書店×あやかし黒猫×イケメン書店員が繰り広げる、心温まる爽快ファンタジー!
双葉病院小児病棟
moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。
病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。
この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。
すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。
メンタル面のケアも大事になってくる。
当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。
親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。
【集中して治療をして早く治す】
それがこの病院のモットーです。
※この物語はフィクションです。
実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。
薔薇と少年
白亜凛
キャラ文芸
路地裏のレストランバー『執事のシャルール』に、非日常の夜が訪れた。
夕べ、店の近くで男が刺されたという。
警察官が示すふたつのキーワードは、薔薇と少年。
常連客のなかにはその条件にマッチする少年も、夕べ薔薇を手にしていた女性もいる。
ふたりの常連客は事件と関係があるのだろうか。
アルバイトのアキラとバーのマスターの亮一のふたりは、心を揺らしながら店を開ける。
事件の全容が見えた時、日付が変わり、別の秘密が顔を出した。
耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー
汐埼ゆたか
キャラ文芸
准教授の藤波怜(ふじなみ れい)が一人静かに暮らす一軒家。
そこに迷い猫のように住み着いた女の子。
名前はミネ。
どこから来たのか分からない彼女は、“女性”と呼ぶにはあどけなく、“少女”と呼ぶには美しい
ゆるりと始まった二人暮らし。
クールなのに優しい怜と天然で素直なミネ。
そんな二人の間に、目には見えない特別な何かが、静かに、穏やかに降り積もっていくのだった。
*****
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
※他サイト掲載
【完結】きみの騎士
*
恋愛
村で出逢った貴族の男の子ルフィスを守るために男装して騎士になった平民の女の子が、おひめさまにきゃあきゃあ言われたり、男装がばれて王太子に抱きしめられたり、当て馬で舞踏会に出たりしながら、ずっとすきだったルフィスとしあわせになるお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる