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ひとりを選ぶ

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「僕を選んでくれたら、とろとろになるまで愛してあげる」

 絢の榛の瞳の奥に、紫檀の光が閃いた。


「ぼ、僕を選んでくれたら、い、一緒に遊んであげる!」

 ちいさな美少年の、光があたるとすみれ色に見える髪がぽわぽわ揺れて、大きな菫の瞳が照れくさそうに輝いた。

「私を選んでくださったら、至高のマッサージを!」

「僕は指圧が得意です、おひめさま」

「お、俺は、えと……あ、一緒に雪だるまつくろう!」

 短い麦の髪が跳ねて、麦の瞳がきらめいた。

「えー、じゃあ僕は凧揚げ! 楽しいよ!」

 次々に告げてくれる皆の目は、きらきらしてる。
 言わされてる無理矢理感、厭々感が、全くない。
 そういう風に教育されているのかもしれないけれど、透きとおる瞳の輝きに、くらくらする。


 今まで、誰にも求められたことがなかったから。
 お金を払っているから与えられるサービスだとしても、めちゃくちゃうれしい。


「あ、あの、あの、で、でも、私、そんなにお金なくて……」

 とりあえず防波堤!
 お金持ってませんよをアピールしてみたよ!

 イケメンの皆さんはきょとんとして、陵は吐息した。

「金なんかとるかよ」

「え、いや、あの、ふつうはめちゃくちゃ取るよ――!!」

 拳を握って叫んだら、絢が笑う。


「おひめさまが癒されると、私たちも癒されるのです。
 なのでお代は宿泊料金だけで結構ですよ」

 ……私はめちゃくちゃ癒されるけど、イケメンの皆さまは癒されないでしょう!
 接客は大変だよ!

 引き攣る私に、絢の榛の眉が困ったように下がる。


「だって、宿泊代金も要らないって言ったら、もっとあやしいでしょう?」

 こっくり頷いた。
 それは怖い。

 榛のなかに紫檀がひらめく瞳で、絢が微笑む。

「ひめにとって、一番いい匂いのする者を選んで」

「え?」

「身体の芯が痺れるような、とろけそうな香りのする者は、いる?」

「陵」

 即答した後で、発火した。
 隣の陵も、真っ赤になった。

「……え、うそ、結芽、ほんとに?」

 口元に手をあててうろたえる陵の耳まで紅くて、あわあわした私も燃える頬でこくりと頷く。

 いやがられなかった……?
 それだけで、ものすごくうれしい。


「皆それぞれすきな香りをつけてて、凄くいい匂いがするけど、陵のは次元が違うくらい、いい匂いする」

 しゅう、と湯気をたてて蹲る陵を、ぺいと押しやって、菫の髪の美少年が前に出た。


「匂いは負けちゃったかもしれないけど、でも、おひめさま、僕、痛くしないよ」

 おっきな菫の瞳の甘えるような上目遣いで、きゅ、と手を握ってくれた。





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