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イケメン旅館
しおりを挟むあったかい腕に包まれて、め、めちゃくちゃいい匂いがする……!
あわわわわほわ!!
ぱたぱたするのも畏れ多くて、こくこくこくこく頷いた。
「ご、ごごごめんなさい……!」
「俺は役得」
ふうわり笑った陵が、きゅ、と抱きしめてくれる。
「……っ……!
あ、あのあの、こ、こんなにサービスしてくれたら、あの、お客さん皆、勘違いするんじゃ……」
『襲われちゃうよ!!』
思わず叫びそうになったのを、何とかこらえる。
ちょっとふくれた陵の、抱きしめてくれる腕が強くなる。
「……ただの客に、こんなことするかよ」
呟きは低すぎて、ちいさな村を渡る風の音に溶けた。
「え?」
「おいで、結芽」
陵が、手を引いてくれる。
それだけで、頬が熱くなって、鼓動が跳ねる。
チカリと白銀の光が、足元で瞬いた気がした。
踏み出した足が、つるつるしなくなった?
陵が手を繋いでくれているからかな、安心して歩ける。
繋がる指は、恋人繋ぎだ。
もう今までの一生分以上どきどきしてる。
見あげる陵の横顔が尊すぎて、拝みたくなる。
「どした? 結芽」
『拝ませてください』
とか言えないよ!
あわあわした私は慌てて話題を考えて、足元に目を落とした。
「え、あ、えと、す、滑らなくなった?」
……陵が手を繋いで歩いてくれるから。
恥ずかしくて、言えなくて、ぎゅ、と陵の手を握る。
「陵と一緒だと、ふつうに歩ける、みたい。
……ありがとう」
熱い頬で囁いて、あわてて付け足す。
「陵は革靴で雪道歩けるの、すごいね」
陵が、ちいさく笑う。
「結芽が転ばないように、魔法かけといた」
繋がる指が、握られる。
その強い力に、眩暈がする。
癒されるというよりも、どきどきし過ぎて、倒れそうだ。
手を繋いで、一緒に雪道を歩く。
すぐに見える、びっくりするほど大きなお邸に、口を開けた。
幾つもの氷柱が茅葺き屋根を彩り、煙突からは白い煙がたなびいた。
家というより、御殿だ。
その大きさと、厳かな佇まいに息をのむ。
陵がお伽噺に出てきそうな、古い、古いお邸の扉を開けてくれる。
広やかな玄関には、卒倒しそうな美形がずらりと並んだ。
「おかえりなさいませ、おひめさま」
皆が微笑んで、胸に手をあて、やわらかに腰を折る。
雅やかな所作に、ぽかんと見惚れた。
まるで只人ではない人たちにしか見えなかった。
皆、ひとりひとり違うけれど、物凄くいい匂いがする。
見ただけで、頭がぽーっとして、意識が霞んだ。
皆がきらきら輝いて見える。
…………イケメン村のイケメン度が、異次元すぎる。
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