【完結】悪役令息の従者に転職しました

おまけのお話

おとうと

　ユィルには弟がいる。

　内気で引っ込み思案だと聞いていた。
　帝太子を任せるには不安だと。

　それでも禁忌の子のユィルを帝太子にするわけにはいかない。
　ミィは帝太子となるべく生まれ、帝太子となった。

　何不自由なく甘やかされているから、内気で引っ込み思案でも許されるのだろう。
　両親のいる、恵まれた、認められた地位を、羨まなかったといえば嘘になる。

　望まれて生まれてきたのに、禁忌と幽閉された子どもが、ユィルだ。
　両親の愛はほどなく消え失せ、暗殺者の襲う毎日は、ユィルの心を削り取る。

　確かに愛された記憶はあるのに。
　擦り切れて、おぼろに霞み、遠くなる。

　日に日に襲う暗殺者の数が増えてゆく。

　そう遠くなく、殺されるだろう。

　……生まれてきた意味は、あったのかな。
　
　暗殺人形にされた孤児の皆を見ていると、そんな甘っちょろい弱音を口にすることは憚られた。

　暗殺人形の皆だけが、自分の言うことを聞いてくれる。
　親からも見捨てられた自分を守って闘ってくれる。

　それがどれほどユィルを支えてくれただろう。
　皆を洗脳し、酷使していることは理解している。

　それでも皆は、ユィルの生きるよすがだった。

　暗殺人形の皆がいてくれたから、生きていられた。
　すがるように、依存していた。

　だから最も優秀な、最も頼りにしていた４９番が逃走したとき、逆上した。
　追いかけて、連れ戻そうとして、洗脳を破られた。

　それはユィルに対する死刑宣告に等しいものだったのに。

　トゥヤ

　名乗った４９番は、洗脳で皆を酷使してきたユィルを護ってくれるという。
　洗脳を解かれても、暗殺者と闘ってくれるという。

　ユィルは生きる機会を与えられ、トゥヤは驚愕するほどの魔法を操り、帝宮の地下を埋め尽くしていた魔道具さえ破砕してしまった。

　父上に施されていた洗脳を解いてくれたのも、トゥヤだ。

　抱きしめられた。
　泣いてくれた。
　笑ってくれた。

　もう二度と手に入らないと思っていたものを、手に入れた。

　夢見心地なユィルに、トゥヤは弟と逢わせてくれた。

　胸を裂くだろうか。
　憎んでしまうだろうか。

　おそれる気持ちとともに相対したミィは、ちいさく、幼く、きらきらした緑の瞳で見あげてくれる。

「は、ははじめまして、おにい、さま！　ぼ、ぼ僕、ミィ、です」

　不安と、おそれと、ほのかな期待と、あこがれと、半分血の繋がった兄を慕ってくれる気持ちが揺れていた。

　ユィルは、息をのむ。

　自分から何もかもを奪った者なのに。
　ふわふわ揺れる陽の髪も、こぼれおちそうな緑の瞳も、ふるえるくちびるも、朱い頬も

　なんて、愛らしい。

　ぽかんとしたユィルは、跳ねる鼓動を聞いていた。


　──ああ、これが、弟だ。
　帝国を継ぐ者だ。

　弟の補佐をするために、きっと自分は才を与えられた。


「はじめまして。ユィルだ」


　きみの兄

　きみのために、生きる者だ。











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　はじめましての方も、ずっと読んでくださる方も、おまけも読んでくださって、ありがとうございます！

　明るいと思ってたら、ミィもユィルも暗くてびっくりでした、ごめんなさい……！
　こ、これからいちゃらぶの明るいお話に……！（笑）

　読んでくださったあなた様のおかげで、透夜とロロァにはちょっと難しいかもと、なくても泣かないと思っていた（笑）完結ブーストが起きているみたい？　で、お気に入りやエールやご感想もほんとうにありがとうございます……！
　透夜もロロァも皆も踊っています（笑）歓喜の踊り（笑）

　完結ブーストもないだろうし、おまけもさくっと終わろうと思っていたのですが（笑）感謝の気持ちをこめて！
　これはどーなってるのかなーとか気になることとか（あるとかほんとに申し訳なく……）読みたいお話とかあられたら、お気軽にどうぞですー！

　お忙しいなか大切なお時間を割いて読んでくださって、ほんとうにありがとうございます！