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おまけのお話
おにいさま
しおりを挟むミィには、お兄さまがいる。
禁忌の子と囁かれ、お逢いすることさえ許してもらえなかった。
お兄さまは、とても堂々としていて利発なのだという。
「ユィルさまとミィさまが逆だったらよかったのに」
「こんなに内気で帝太子さまだなんて、務まるのか?」
「無理だろ、お飾りでも喋れないだなんて」
「ああ、ユィルさまの十分の一でもご立派だったら!」
刺さる言葉は、いつもミィを圧し潰した。
「情けない」
投げつけられる父上の言葉は、ミィの足を震わせる。
お兄さまが、そんなにご立派じゃなかったら、こんなに落ちこぼれだと思われなくても済んだかな。
さみしく思う日もあった。
けれどミィにとって、ユィルは憧れだった。
自分と違って、賢くて、何でもできるお兄ちゃん。
お傍にいて、お話できたら、どれほど楽しいだろう。
ミィには、おかあさましかいなかったから。
おかあさまは、ミィにやさしくしてくれた。
ミィにはおかあさましかいなくて、おかあさまにはミィしかいなかった。
父上がほんとうに愛しているのは、お兄さまのおかあさまだという。
禁忌だと糾弾され、他国からもおぞましいと指弾された父上は、仕方なくユィルのおかあさまを遠ざけた。ふりで、こっそり通っているという。
子どもができないように配慮しているようだから、重鎮たちも大目に見ていると聞いている。
ミィにわかるのは、おかあさまはミィを生むために帝宮に入り、ミィを生んだからお役目が終わってしまったということだけだ。
公の場で父上と並んで微笑むおかあさまは、とてもさみしそうで、なのにとてもきらきらしていた。
皆が、おかあさまに、感嘆の息をつく。
ミィにはとても誇らしかったけれど
「あの方々の御子が、これとは」
「あれほどおしとやかな方が密通なさるとは思えないが──これでは」
「ユィルさまこそが帝太子となられるべきだろう」
おかあさまが、父上が、お兄さまが、きらきらするほど、ミィはくすんで落ちぶれてゆくようだった。
おかあさまのお役目であるミィが出来損ないなら、おかあさまも出来損ないだと言われてしまうかもしれない。
膝を抱えて泣いていたら、真っ暗な衣に身を包んだ少年が天から降ってきた。
「ひでーこと言ったり、殴る輩が、サイテーだから。元気だせ!」
凛々しい顔をやわらかにほどいて、笑ってくれた。
ごつごつの手で、頭を撫でてくれた。
トゥヤ
教えてくれた名は、胸のなかで輝いた。
また逢いたいと願っていたら、襲う刃から救ってくれた。
一度じゃない。
エゥリケ王太子と一緒に暗殺されそうになったときも、爆風と一緒に現れて、たすけてくれた。
それだけじゃない。
お兄さまと、逢わせてくれた。
「は、ははじめまして、おにい、さま! ぼ、ぼ僕、ミィ、です」
つっかえながら、燃える頬で頭をさげる。
初めて逢ったお兄さまは、透きとおるような氷の髪に、氷の瞳の、才気のあふれる少年だった。
2歳弱くらいしか歳が違わないと思えない、堂々たる気品を湛え、氷の瞳をしずかに細めた。
「はじめまして。ユィルだ」
厭悪も憎しみもない、瞳とおなじに透きとおる声だった。
お逢いした瞬間、わかったんだ。
──ああ、お兄さまだ。
僕は、おにいさまが、だいすきだ。
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