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突入
しおりを挟む駆けだした透夜は、よい子の隠密団の皆が一緒に行こうとしてくれるのを、伸ばした腕で止めた。
「皆なら、暗殺者に後れをとることはないと思う。皆を信じてるから、阿保みたいな魔法の暴発を防ぐためにも、魔道具の大元を破壊するためにも、俺ひとりで、帝宮に行ってくる」
柳が心配そうに眉をさげ、藤は吐息した。
「止めても、行くんでしょ」
「俺だけなら、たぶんやれる。誰かを守りながらだと難しいからさ。ロロァさまを、頼む」
「任せとけ!」
胸を叩いてくれる紅蓮が、スパダリだ。
真のスパダリを胸に刻んだ透夜は、笑う。
「じゃあいってくる。ロロァさまを、ミィを、セオを、ユィルを、キァナを、頼むけど、皆も絶対、無事でいて。致命傷は絶対避けて。生きることだけ、考えて」
目を見開いた皆が、笑ってくれる。
「透夜も」
ごつごつの手を握って、皆で笑った。
手を挙げる。
透夜は、駆ける。
情けなくても、みっともなくても、鼻水と涙でダラダラでも、スパダリじゃ全然なくても、ロロァは透夜を選んでくれた。
だから、いいんだ。
スパダリに、なれなくても。
俺は、俺のままで。
わがきみを、守る。
皆を、守る。
暗殺人形をつくる秘術は、ロドだけが使えるものじゃないだろう。
その魔力の源泉が帝宮にあるなら、破壊するだけだ。
もう誰も、真っ暗な目で、暗殺なんてしなくていいように。
できることがあるなら、とても、誇らしいと思うんだ。
「精霊さん、はちみつめちゃくちゃ贈るから、ぱわー全開でお願いします!」
『ぱわー?』
『ぱわー!』
前世の記憶を覗き見て理解してくれる精霊さんが、透夜の力を解放してくれる。
「今って思った時に、全出力で! 帝宮突入します。よろしくお願いします!」
『がんばれー、とーや!』
『いっくよー!』
風の精霊さんが加速してくれる。
暗殺人形だったときは、ただただ指令をこなすだけだった。
自分で考えたり、自分で制御したりすることなんて、殆どなかった。
精霊さんたちがたすけてくれたのは、奇跡だ。
今は、自分の力の使い方が解る。
精霊さんにお願いすれば、何ができるのかも、解る。
どんどん加速してゆく身体が、心地いい。
速さに、目が、足が、手が慣れてゆく。
今まで到達したことのない高みへと近づいてゆく。
ピコンと近くの敵が、頭のなかの地図に赤く燈った。
どこに誰がいるのか、全く意識しなくても知らせてくれる。
暗殺者は、仲間に任せる。
警護の衛士は、なるべく避ける。
どうしても前を通らないといけない時は屋根にあがり、それもできない時は全速力で駆けた。
人間の限界まで加速した透夜は
「……え?」
衛士が茫然とする間に、遥か彼方を駆けている。
接敵しても交戦することなく、透夜は駆けた。
広大な帝宮の地下へ。
誰も、こんなところまで侵入されると思っていなかったのだろう。
侵入される時は衛士や近衛が大騒ぎして、増援が来るから大丈夫だと思っていたのかもしれない。
いつもどおりの警護の、とても静かな帝宮に、ひらりと透夜は降り立った。
僅かな時間で柳が探ってくれた侵入経路はひとつだけ。
正面突破だ。
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