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出た

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「じゃあ皆で行こう。探知範囲外まで追わなくていい。この辺のを一掃で」

 透夜の言葉に常葉が首をかしげる。

「探知範囲外のも追っておくと、明日は楽じゃない?」

 もっともな進言に思えるが、透夜は首を振った。

「罠にかかる可能性がある。皆ですぐに連携できる距離から離れるな。罠だと思ったらすぐ救援を呼んでくれ」

「りょーかい!」

 手を挙げた皆の姿が、掻き消える。
 跳んだ透夜も鞘に入ったままの剣を抜き、一閃した。

 ドォオァオォン──!

 屋根裏に潜んでいた暗殺者たちが、吹き飛んだ。

「今日はちっと数が多いなあ」

「たのしそーだよ、トゥヤ」

 隣で常葉が笑う。


「たまには、歯応えのあるのに会えるかも?」

 唇の端をあげる透夜を、前に出た常葉が覗き込む。

「僕とやるのが、一番歯応えあるんじゃない?」

「いや、死ぬから」

 透夜が笑って、常葉も笑う。


「怪我しないでね」

「常葉も」

 瞬いた常葉が、笑う。

「りょーかい!」


 互いをいたわる言葉をかけられるようになったことが、互いを心配できるようになったことが、たまらなくうれしい。


「さあ、やろうか」

 前なら『殺ろう』だった。
 それ以外の選択肢は、用意されなかった。

 でも今は、昏倒させて、黒幕を吐かせられる。

 強制されたのかもしれない暗殺者を、情状酌量してあげられるかもしれない暗殺者を、もしかしたら透夜と仲間たちもそうなるかもしれなかった暗殺者を、法のもとに、明るい光の下に、引っ張ってゆくことができる。


 それが、たまらなくうれしい。


「木刀に変えようかなあ」

 鞘に入ったままの剣を振るうのは、ちょっと面倒くさい。
 思いながら襲い来る暗殺者のこめかみを、横から振り抜いた剣で吹き飛ばした。

「ひとり20人ってとこかな。余裕だろ」

 笑った透夜は駆けだした。

 頭のなかに地図がある。
 皆がどこにいるか、誰をターゲットにしているか、言われなくても、ぜんぶ見える。

 ドォオォン──!

 あちこちで爆音と悲鳴のあがる『よい子の隠密団』の楽しい夜だ。



 帝都に入った瞬間に襲おうと待機していたのだろう暗殺者たちを無傷の余裕の笑顔で一掃し、交代の見張りを残して皆でぐうぐう眠って、朝日と一緒に伸びをしたら出発だ。

「任務は今日で最後になると思う。頑張っていこー!」

「おー!」

 拳を掲げた皆で帝都に入る。


「トゥヤ!」

 ぱたぱたちっちゃい子どもが陽の髪を揺らして駆けてくる。

「……え?」

 迎えてくれたのは、ミィだった。


「トゥヤ!」

 ぱふりと抱きつく身体を受けとめる。


「…………え?」

「トゥヤ、元気、だった?」

 はにかむように笑って見あげてくれるミィが可愛い。

 でもこんな帝都の端にまでミィが来るなんて、思ってなかった。

 茫然とする透夜の向こうで、護衛を引き連れた男が唇を開いた。


「苦労である」

 重々しい声だった。
 喉を塞ぐ声だ。


「バギォ帝国帝王ミヒルガ・ディズ・バギォである。バギォ帝王として、エゥリケ王国王太子セオ・ジオ・エゥリケ殿下を歓迎する」

 微笑むことを知らぬような、いかめしい唇が告げた。




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