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約束は?

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 透夜は告げる。

「もしセオが王になりたいなら、これからゆくのは血みどろの道だ。セオを殺しにくる輩を皆殺しにし、セオが王になるのを反対する貴族を粛正し、怨みと憎しみと血を背負って国を率いる。贅沢も、葉っぱ一枚舞い踊りもできるかもしれん。暗殺者の襲撃でろくに眠れないかもしれないがな」

 うつむくセオの指が、ふるえてる。

「もしセオが王になりたくないなら、身分も財も国も何もかも捨てて平民になって、俺たちと一緒に来るなら、俺がセオを殺しにくる輩から、セオを護ってやる。まあまあ強いぞ」

 むんと力こぶを盛りあげる。
 メコリと音をたてて、バキバキしてた。
 仰け反ったセオが、引き攣ってる。

「俺たちの任務は、セオをバギォ帝都まで送り届けることだ。時間はあるから、ゆっくり考えたら──」

 ぽつりとちいさな声が落ちた。

「……じぃじも一緒でも、いい、かな……」

 セオが顔をあげる。


「トゥヤと行く」

 ちいさな手に、ぎゅっと手を握られた。

 まだ幼いのに、剣だこのある、ごつごつの手だった。
 修練のためじゃない、身を護るために、明日を生きるために、必死で鍛えあげた手だ。

 透夜と孤児の皆と、同じ手だ。


「一緒に、闘ってやる」

 透夜の言葉に、セオのちいさな顔が、ぐしゃりと歪む。


「……ぅ、ぁ……あ──!」

 唯一の味方だったじぃじに殺されそうになった衝撃も、ずっと願ってきたのだろう王となることを諦めることも、それでも止まないかもしれない暗殺者の襲撃も、何もかもが恐ろしく、セオの心を裂くのだろう。


「いっぱい傷ついて、いっぱい泣いたら、セオはとびきりやさしい人になれる」

 ふるえるちいさな身体を抱きしめる。

 透夜の胸で、セオは声をあげて泣いた。
 常葉と藤と柳がやさしい瞳で、セオの頭をなでなでしてる。

 しゃくりあげるセオの小さな背中をぽんぽんする。


「今までずっと、よく頑張ったな」

「あぅあ──!」

 また声をあげて泣くセオに、常葉と柳と藤が笑った。


「折角泣き止んだのに」
「また泣かせたー」

 常葉と藤に突っ込まれて、柳にこくこく頷かれた透夜が、拗ねた頬で唇を尖らせる。


「思いっきり泣いたほうがすっきりするんだから!」

 ぎゅ、とセオを抱きしめたら


「うわあん! やっぱり、とーや、うわきしてる──!」

 ちっちゃなロロァが駆けてきた!


 後ろで紅蓮が

「てへ♡」

 頭を掻いてる。


「か、かわいくねえ!」

 突っ込む透夜に

「ひでえ!」

 涙目になった紅蓮が叫んだ。


「ちょっと待て、魔道具は!?」

 仰け反る透夜の前に、紅蓮が皆とおそろいの魔道具を取りだした。

「冒険者同盟に、一個だけ予備があった。物凄く古いものだから壊れてるかもって。それを貸してくれて。ロロァさまは自力で」

「とーやー!」

 ぽてぽて駆けてきたロロァを、透夜の腕が抱きしめようとして止まる。

 ロロァの目の前に屈んで、『め』を表すように、ちょこっと目を吊りあげた。


「わがきみ、お留守番のお約束は?」


「とーやが、うわきするから、なしなの!」

 うるうるの藍の目で見あげられた。


「ぐ──!」

 ちっちゃなあるじが、可愛すぎる──!





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