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裏切られても
しおりを挟む「精霊さん、力を貸してくれ。能力制御、魔道具破砕、魔導壁展開」
告げるだけで、透夜のなかの精霊さんたちの力が閃いた。
風の精霊さんが壊した魔道具が飛び散って鼻や喉に詰まったりしないように、風の防壁を作ってくれる。
火の精霊さんが、透夜が取りだした小さな錐に、魔道具を確実に破壊する、対魔道具攻撃をエンチャントしてくれる。
水の精霊さんが、攻撃の衝撃で口の中が焼け熔けたりしないように水の防壁を張ってくれる。
土の精霊さんが、透夜の攻撃力を魔道具破壊にだけ向かうように先鋭化、攻撃力抑制を掛けてくれた。
精霊さんたち皆で、魔道具破壊した場合に、破壊者と、装着者両方を殺すよう飛んでくる呪いや魔法を防ぐ魔導壁を張ってくれる。
キュアァアァア──!
一瞬で五重に発動する魔法に、セオが目を剥いた。
「じぃじ──!」
常葉と藤と柳がしっかりじぃじの頭を、手足を押さえて頷いてくれる。
ひとつ息を吸った透夜は、魔道具だけを破砕するよう、錐を撃ち込んだ。
「が、ァア──!」
跳ねあがるじぃじの頭を、身体を、常葉と藤と柳が懸命に押さえた。
一瞬で熔けて砕けた魔道具を、風の精霊さんが細かい屑まで拾い集めてくれる。
「あと4回」
「りょーかい」
皆で倒れている闇衣をずるずる引っ張ってきて、口を開ける。
奥歯に嵌め込まれた魔道具を次々に破壊した。
残骸も残っていないし、呼吸も安定しているようだ。
反動の呪いも魔法も届いていない。
確かめた透夜は、顔をあげる。
「あとは本人の体力次第だな」
「……じぃじ」
荒い息のじぃじのしわの手を、セオの手が握る。
「裏切られても、じぃじがすき?」
聞いた透夜に、セオは目を伏せた。
「……じぃじ、賢そうに見えて、あんぽんたんなところがあるんだ。……俺の命を助けてくれるって聞いて、すがるしかないと思ったのかもしれない。……俺は、王太子だけど。母さまは亡くなって……後ろ盾もないんだ。護衛も父上がつけてくれる者しかいない。……殺せば王太子になれるって、皆……」
うつむくセオの瞳が歪む。
「他国の冒険者を頼るなんて、ありえない。……それでも頼らなければ、明日の命がない」
揺れるセオの目を覗くように屈んだ透夜は、静かに聞いた。
「セオは、王に、なりたいのか」
目を逸らしたセオは、唇を噛む。
「あいつらを見返して、俺を殺そうとするあいつらを皆殺しにするために、王になってやる。……ずっと、そう思ってた」
落ちた声は、ふるえてた。
「……王って、何だろう。身分って、何だろう。それって、血を分けた親族で、殺しあわなきゃいけないものなのかな。人を蔑んだり、見下したり、支配したりするなんて、おかしい。わかってるのに、上にいると気持ちがいいんだ。俺は偉い、生まれが尊い、他は下賤だ、嘲るのが、気持ちいいんだ」
セオの瞳が、歪む。
「なんて、醜い──!」
くしゃりと、透夜の指がセオの頭を撫でる。
「解ってるなんて、すごいぞ、セオ」
ぶどうの瞳が、瞬いた。
「葉っぱ一枚で踊れっていうのが、ひでえってことも解ってるよな」
真っ赤になったセオに透夜が笑って、常葉も藤も柳も笑った。
恥ずかしそうに、セオが目を伏せる。
「……ごめん、なさい」
透夜の手が、ちいさなセオの頭を、わしゃわしゃ撫でた。
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