上 下
61 / 101

浮気じゃないよ!

しおりを挟む



 今は、ひとりひとりに名前があって、言葉を交わして、性格が少しずつ生まれて、笑ったり拗ねたりむかっとしたり、当たり前だろうことひとつひとつに、感動する。

「よかったなあ、皆」

 喧嘩したり、笑いあったりしてる皆を見ているだけで、涙がこぼれる。

 だからこそ、皆を信頼する気持ちが、固く固く結ばれてゆくのかもしれない。


「ト、トゥヤ!?」

『おはよう』言いかけた唇をびっくりに変えて、ユィルが駆け寄ってくれる。

「ど、どうしたんだ、トゥヤ、どこか痛い?」

「た、たいへん! とーや、回復──!」

 もぞもぞ起きたロロァが、ぽてぽて走って緑の光を掲げてくれる。

「と、トゥヤ!? だ、だいじょぶなの!?」

 目を擦っていたキァナも飛んできてくれた。


 涙の膜で滲む皆に、透夜は微笑む。


「皆がいて、家があって、笑ってくれる。
 至上のしあわせを、噛み締めてた」


 あまい、あまい蜜のように、笑う。

 目を見開いた皆の顔が、真っ赤になった。


「と、とーや、うわき、だめ──!」

 ぎゅう

 抱きついてくれるロロァは天使だが、なぜこれが浮気!?






「キァナ、よく眠れたか?」

 くしゃりとキァナの水の長い髪を撫でる透夜に、キァナはくすぐったそうに首を竦めて頷いた。

「うん、大丈夫」

 あちこち隙間風の入る、廃屋みたいな農家の小屋を見つめたキァナが、ちいさく笑う。

「こーゆーのも、楽しいね」

「お、キァナは強い子だな。えらいぞ!」

 わしゃわしゃ頭を撫でたら、真っ赤になったキァナが、ふいと顔を逸らす。

「……こ、子ども扱い」

 ふくれるキァナが、きゅ、と透夜の衣の裾を握る。

「皆、まだ子どもだからいーの!」

 笑う透夜にキァナが真っ赤になって

「うわあん! とーや、またぅわきしてる──!」

 ぽふりとロロァに腰に抱きつかれた。

「わがきみ、今のはふつーの会話です」

 反論してみた。

「ち、ちがうもん──! うわきなんだもん!」

 真っ赤な頬で、うるうるの上目遣いで、ぎゅうっと抱きつくロロァが、天使だ。




 孤児院の頃に比べたら、めちゃくちゃめちゃくちゃ豪華なあったかい朝ご飯を終えたら、報告だ。

 透夜はかなしく口を開く。

「……隣国エゥリケ王国王太子の護衛をしないとだめらしい」

「エゥリケ王家か」

 ユィルが眉をしかめる。

「何か問題が?」

 心配そうに聞くキァナに、ユィルは頷いた。

「エゥリケ王家は伝統的に、最も優秀な者が王太子として指名される。だがそれは暫定なんだ。より優秀であることを示せば、王太子に成り代われる。──手っ取り早いのは、暗殺だ」

 キァナもロロァも息を呑む。

「エゥリケ王家では、いかに強力な暗殺部隊を持ち、強固な護衛を持つかが、王となる第一歩となる。殺しあいで王を決める、血なまぐさい国だ。だからこそ強い。バギォ帝国がいかめしいのは国名だけだからな。睨まれたらひとたまりもない。エゥリケが来ると言えば、諾と言うしかないんだよ」

 茫然とキァナはユィルを見つめた。

「……勉強していたつもりでしたが……そのようなこと、初めて聞きました……」

「帝家には、他国の王家の裏事情も流れてくるからな。大したことではない」

 微笑むユィルが大人だ!



しおりを挟む
感想 110

あなたにおすすめの小説

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

婚約者に会いに行ったらば

龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。 そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。 ショックでその場を逃げ出したミシェルは―― 何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。 そこには何やら事件も絡んできて? 傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

噂の冷血公爵様は感情が全て顔に出るタイプでした。

春色悠
BL
多くの実力者を輩出したと云われる名門校【カナド学園】。  新入生としてその門を潜ったダンツ辺境伯家次男、ユーリスは転生者だった。  ___まあ、残っている記憶など塵にも等しい程だったが。  ユーリスは兄と姉がいる為後継者として期待されていなかったが、二度目の人生の本人は冒険者にでもなろうかと気軽に考えていた。  しかし、ユーリスの運命は『冷血公爵』と名高いデンベル・フランネルとの出会いで全く思ってもいなかった方へと進みだす。  常に冷静沈着、実の父すら自身が公爵になる為に追い出したという冷酷非道、常に無表情で何を考えているのやらわからないデンベル___ 「いやいやいやいや、全部顔に出てるんですけど…!!?」  ユーリスは思い出す。この世界は表情から全く感情を読み取ってくれないことを。いくら苦々しい表情をしていても誰も気づかなかったことを。  寡黙なだけで表情に全て感情の出ているデンベルは怖がられる度にこちらが悲しくなるほど落ち込み、ユーリスはついつい話しかけに行くことになる。  髪の毛の美しさで美醜が決まるというちょっと不思議な美醜観が加わる感情表現の複雑な世界で少し勘違いされながらの二人の行く末は!?    

処理中です...