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防止だよ
しおりを挟む「気をつけて、いってらっしゃい」
やさしい声で、ユィルが手を振ってくれる。
「ありがと、ユィル。いってきます」
わしゃわしゃ頭を撫でかえした透夜に、くすぐったそうに赤い頬でユィルが笑った。
「……へ──」
キァナの目が氷だ。
「……え?」
ビビる透夜に、キァナの氷柱の目が刺さる。
「すんごいタラシなのは理解した! くそう、強敵ばっかりじゃないか!」
憤慨した後で、ぷいと顔を背けた。
「いってらっしゃい。怪我したら、許さないからな!」
ツンデレです。
ありがとうございます。
ロロァが透夜の腕のなかで眠ってしまった。
くぅくぅこぼれる安らかな寝息に、にひゃりと笑み崩れた透夜が、寝台に横たえようとするより早く、常葉の声が降る。
「起きたら連れてけって言われるんだよね。だから最初から連れてってよ」
何度も何度も『連れてけ』攻撃をされたのだろう常葉のげんなりした言葉に、申し訳なくなりながら頷いた。
「わるかったよ、最前線が大すきな常葉に護衛ばっかり任せて。常葉が一番強いからさ」
「え、そう? 僕、強い?」
常葉の緑の瞳がまるくなる。
「俺、剣の腕だけなら、常葉に負ける。完敗だろ。魔法使うと解んねえけどさ」
「トゥヤの魔法は卑怯の域だもんね。でも、そっかあ、僕、強いかあ!」
「うふふふふ」笑う常葉がちょっとこわい。
でも、透夜は笑った。
「感情がでてきて、性格もでてきて、ほんとによかった」
常葉の頭をなでなでしたら、くすぐったそうに笑った常葉の瞳が、剣呑に細くなる。
「……性格なんてないほうがよかったって思うような、酷い人になっても?」
低い声に、透夜は躊躇うことなく頷いた。
「感情を叩き壊されて、酷いことさせられ続けて殺されるより、ずっといい」
真っ直ぐな透夜の瞳を見つめた常葉は、ほどけるように笑った。
「だから僕らは、トゥヤについていこうと思うんだ」
前にはロロァを抱えてるから、後ろからぽふりと抱きついた常葉が笑う。
「強い僕に、寝込みを襲われないよう注意してね、トーヤ♡」
「うわ、真剣に死ぬから止めて」
引き攣る透夜に、きょとんとした常葉が笑う。
「そっちじゃないよ、にっぶいなあ!」
腕のなかのロロァが、もぞもぞした。
「……やぱり、とーや、うわき、してゆ……!」
「してないから!」
人聞きがわるい!
真夜中を過ぎた真っ暗な街に、冒険者同盟の両開きの扉から明かりが零れている。
扉を爽やかに開けようとして、ロロァを抱っこしていることに気づいた透夜は、背中で押し開けた。
開け方は鈍くさそうでちょっとスパダリっぽくないけど、でも主を抱っこして任務報告って、かなりスパダリじゃね?
うむうむしたが、邸のなかには冒険者も急患らしき人もいなかった。
奥の部屋から、ぐおー、がおー、安らかな鼾が聞こえる。
このスパダリ振りを誰にも見られないなんて!
残念になりながら受付に向かった透夜に、バハはあんぐり口を開けた。
「寝てる子を連れて来たらだめだろう!」
「いや、なんか、浮気を防止したいらしい……」
正直に申告してしまった!
「……うわー」
バハの目が、最低な男を見る目だ!
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