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見たくない
しおりを挟む屋根から天井裏へと忍び込んだ透夜は、音を立てることなく執務室を覗く。
ゾンデ公爵らしき腹の出たおじさんと、愛人らしいケバいお兄さんが、いちゃいちゃしていた。
『見たくなかった──!』
絶叫したくなるのを堪えた。
目を背けたくなるのも何とか耐える。
早速透夜は映像記録魔道具を起動した。
この魔道具は確かユィルが授けてくれたのだけど、音も光も出さずに映像を記録できる。めちゃくちゃ便利だ。
真夜中に執務室でいちゃいちゃするなんて、いけない相談に決まってる。
「ねーえ、公爵ぅ♡ お金なくなっちゃったあ♡」
「仕方ないなあ、あんまり散財しないようにね」
ごそごそ後ろの金庫を公爵が開けて、袋から金貨を取りだそうとしたところを、ケバいお兄さんが袋の方を奪い取る。
「こっち、ちょーだーい♡」
「もう、仕方ないなあ」
デレデレやに下がったぶよぶよのお腹を揺らした公爵が、お兄さんの尻に手を伸ばした。
「公爵さまはぁ、僕の子のほうが、人形みたいなキァナよりかーわいーよねえ♡」
「勿論だ」
お兄さんの尻を揉み揉みしながら同意している。
『見たくねえェエエ──!』
絶叫したくなるのを堪えた。ふたたび。
目を背けたくなるのも耐えた。ふたたび。
「じゃあ僕の子を、次の公爵にするんでしょお♡」
「……うーん、それはどうかな……きみの子だから、顔は間違いないが、頭のほうは──」
「ひっどーい! 僕が顔だけのあんぽんたんだって言いたいの!?」
『うん』
公爵の代わりにしっかり頷いておいた。
「そ、そんなことはないよ、勿論だ」
ぶよぶよした腹まで引き攣ってる。
「公爵さまが迷わないように、殺しちゃおうっかなー♡」
紅を引かれた唇が、嗤う。
「ああ、だめだよ、バレたら大変なことに」
「バレなきゃいーんでしょ? 昔馴染みがいるからさー、ちょちょっと頼んで、足がつかないようにしたらぁ、だぁいじょーぶ♡ だいたい子どもが死ぬなんてよくあることじゃん♡」
「……しょうがないなあ」
公爵はケバいお兄さんの尻に夢中なようだ。
あっさり暗殺に同意した。
フンと鼻を鳴らした透夜は、これ以上見たくなかったので、いつも懐に忍ばせてある小さな礫を公爵とお兄さんのこめかみ目掛け、投げつける。
「がは──!」
昏倒した二人を踏みつけた透夜は、机にのっていた書類を確認、あくどいことをしてそうなのを選り分けて没収した。
開いたままの金庫へと歩み寄る。高価な魔道具だと数字や鍵だけでなく持ち主の魔紋が必要だったりするのだが、開いてる場合は無防備だ。
いちおう精霊さんに確認してもらったが
『へーき!』
元気な声で応えてくれた。
金庫に手を突っ込んだ透夜は、やばそうな取引の記録とか、脱税の記録とか、賄賂の記録とかをごっそり奪う。
「養育費として、もらってくか?」
ケバいお兄さんの手から零れ落ちた金貨の袋を見つめた透夜は、首を振った。
「汚い金で育ったキァナが、汚くなったらだめだからな」
フンと鼻を鳴らした透夜は、多過ぎる書類を闇布にくるんでさくっと背負い、キァナの寝室へと駆け戻る。
ふわりとキァナの前に飛び降りた。
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