上 下
50 / 102

ふたたび

しおりを挟む



「眼鏡かけてると、頭よく見えるでしょ? 小道具だよ。目はいいんだ」

 細く長く吐息したキァナが、組んだ指に目を落とす。

「……僕はゾンデ公爵に、ふさわしくない、できそこない……」

「そんな訳あるか──!」

 叫んでた。

「……え?」

 目をまるくするキァナの肩を掴んで告げる。

「キァナは、めちゃくちゃ頑張ってるだろ! こんな遅くまで勉強して、期待に応えようって、一生懸命! 結果が出ないと評価しない世界が、クソなんだよ──!」

 ぽかんと口を開けたキァナが、透夜を見あげる。

「……くそ?」

「うんちだ」

 ふんと鼻を鳴らした。

「……は、はは……! ……うんちか」

 うるわしき少年の唇から零れると衝撃な言葉だ。
 思わず仰け反った透夜は悪戯が成功したみたいに笑って、キァナの瞳を覗き込む。

「キァナ、がんばってるだろ」

 机のうえに積みあげられた書を、透夜が指す。

「がんばってる子は、世界一、えらいんだぞ!」

 わしゃわしゃ水の髪を掻き混ぜたら、水の瞳が泣きだした。

「……っ!」

 ちいさな顔をくしゃくしゃにして、泣きじゃくるキァナを、抱きしめる。

「キァナは、がんばってる。そんなの当たり前だとか、基本だとかいう輩には、うんちをお見舞いしてやれ!」

 笑った。

 涙の頬で、キァナが笑う。

「……ありがとう、トゥヤ」

 透夜の胸に顔を埋めたキァナが、その背をぎゅっと、抱きしめた。




「やっぱり! とーやが、うわきしてる!」

 うりゅうりゅの涙目が常葉と一緒に降ってきて、透夜は目を剥いた。

「……は?」

「ご、ごめん、トゥヤ、止めたんだけど……」

 常葉は大変頑張ってくれていると思う!

 しかし、抑止力は、0だ!!!


「とーやは、僕のなんだから!」

 きゅうっとロロァのちっちゃな手に闇衣の裾を引かれた透夜は、へにゃりと崩れた頬を慌てて引き締めた。


「ふん、後追いの方が強いって知らないの?」

 べったり透夜の背に腕を回したキァナが、楽し気に唇を吊りあげる。


「とーやが、うわきするー!」

 すんすん鼻を啜って抱きついてくるロロァを抱きあげた透夜の顔面が、崩壊してる。


「トゥヤ、顔」

「うお!」

 常葉に突っ込まれた透夜は、わたわた顔面を修復した。

 キリっとしないと、キリっと!
 悪役令息の従者らしく、スパダリっぽく!


「ごめんな、キァナ、俺はロロァさまの従者だから」

 申し訳なく告げる。

「……僕のだもん」

 ぎゅううう、と首に抱きつくロロァをくっつけた透夜の顔面が、崩れ落ちてる。


「トゥヤ、顔」

「あばばばば」

 あわあわした透夜は、キリっとなるように顔を引き締める。


「キァナはだいじょうぶ」

 わしゃわしゃ水の髪を撫でた透夜は、元気がでるように心を籠めて、微笑んだ。
 ちっちゃなロロァを抱きあげる。

「じゃ!」

 ロロァと常葉と一緒に天井裏へと飛び立とうとした透夜を、ちいさな手が止めた。


「だいじょうぶじゃ、ない──!」

 絞りあげるような、叫びだった。

 長い水の髪が、キァナの苦しみをえがくように、夜を乱した。



 飛びあがりかけた踵が、止まる。

 ロロァが、振り返る。


 キァナの瞳から、涙があふれた。




しおりを挟む
感想 110

あなたにおすすめの小説

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。 愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。 それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。  ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。 イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?! □■ 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 完結しました。 応援していただきありがとうございます! □■ 第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

誰よりも愛してるあなたのために

R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。  ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。 前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。 だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。 「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」   それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!  すれ違いBLです。 初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。 (誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。 忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。 学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。 しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー… 認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。 全17話 2/28 番外編を更新しました

悪役王子の取り巻きに転生したようですが、破滅は嫌なので全力で足掻いていたら、王子は思いのほか優秀だったようです

魚谷
BL
ジェレミーは自分が転生者であることを思い出す。 ここは、BLマンガ『誓いは星の如くきらめく』の中。 そしてジェレミーは物語の主人公カップルに手を出そうとして破滅する、悪役王子の取り巻き。 このままいけば、王子ともども断罪の未来が待っている。 前世の知識を活かし、破滅確定の未来を回避するため、奮闘する。 ※微BL(手を握ったりするくらいで、キス描写はありません)

拾われた後は

なか
BL
気づいたら森の中にいました。 そして拾われました。 僕と狼の人のこと。 ※完結しました その後の番外編をアップ中です

ブレスレットが運んできたもの

mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。 そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。 血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。 これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。 俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。 そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

処理中です...