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なんていい子!

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 …………………………。

 沈黙が痛い。
 痛すぎる。


「あ、あなたは、お茶会の時の……?」

 キァナの問いに、きょとんとした透夜は、瞬いた。

 見られてた?
 周りにはミィと、ミィのおかあさんしかいなかった筈だけど──

 ここはスルーだ。

「あの、ぱんつの色を教えてくれたら、すぐにいなくなるから!」

 必死で言う自分がつらい。

「……え、と、あの……ぱんつ、とは……?」


 …………………………。

「……下着の色を、教えてください」

 深々と、頭をさげた。


 真っ赤になったキァナが、もごもごする。

 月の光に濡れたように輝く上目遣いの瞳で、そうっと唇を開いた。

「……え、えと……あの……今日は……白、です……」

 教えてくれた!
 なんていい子!

 そんな愛らしい、いい子のぱんつの色を聞いてしまった透夜は、果てしなく項垂れた。

 汚れ仕事に間違いない。
 でもこんなのは全然スパダリじゃないし、絶対間違ってる──!

「ごめんよ、借金があって、どうしてもきみの下着の色を知りたいっていうおじちゃんがいて、依頼を受けてきたんだけど、でもきみが厭だったら言わないから──!」

 泣けてきた。

 汚れ仕事なんて、するものじゃない──!


「しゃ、借金?」

 ドン引きなキァナに、切なくなった透夜は目を伏せる。

「前金貰って依頼を受けたんだけど、失敗しちゃって、もう前金は使っちゃったから」

 キァナは細い眉を顰めた。

「前金、というのは、仕事の成功失敗に関わらず貰えるものでは?」

「え、そ、そうなの!?」

 あんぐりする透夜に、キァナは頷く。

「手付金とも言います。仕事に着手するためのお金であって、成功したら成功報酬が支払われますが、失敗したらありません。でも手付金は貰ったままで問題ないはずです」

「そうなんだ! じゃあ貰ったままで──」

 言いかけた透夜は止まる。

 そうだ、報酬の半分を前金として寄こせと言ったのは透夜で、ボホはそれを了承してくれただけだ。ふつうの前金じゃなかった!
 確か依頼には、成功報酬しか書かれてなかった。

「……成功報酬の前借りだった……」

 がくりと項垂れる透夜に、ちょっと楽しそうな声が降る。

「あぁ、なるほど。お金に困っていらっしゃると」

 にこりとキァナは微笑んだ。

「僕の従者になりませんか? 思うままの贅沢をお約束しましょう」

 きょとんとした透夜は、首を振る。

「だめ」

 細い水の眉が跳ねあがる。

「なぜ?」

「俺にはもう、主がいるから」

 ふんとキァナは鼻を鳴らした。

「あなたにお金の工面をさせるなんて、情けない主ですね」

「いや、最高の主だ」

 微笑む透夜に、キァナの頬がふくれる。


「……僕の下着の色を聞いたくせに」

 ほんのり赤い頬で、上目遣いで睨まれた透夜は、跳びあがる。


「いやもうそれはほんとにごめん! もうちょっと真っ当な仕事を選んで頑張るよ。寝る前の時間に驚かせてごめん。誰にも言わないから!」

 あわあわして屋根裏へと飛び立とうとする透夜を、キァナの声が止める。


「真っ当な仕事……僕の護衛は?」

「ずっとは無理」

 透夜の即答に、ぷくりとキァナがふくれた。






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