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カタカタ

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 重い足取りで、透夜は冒険者同盟に向かう。
 早く報告せねばと思うのに、行きたくない。

 いや、だめだ、失敗した時も、誠意を籠めて謝れるのがスパダリのはず!

 思っても重い足取りで、重々しく両開きの扉を開けた。

「おお! いらっしゃーい! どうだった!?」

 期待のキラキラの目で手を振ってくれるメメに、項垂れた。

「失敗した。ごめん」

 提出した報告書には、たった2名の名前と反応だけが書かれている。

「うそ。何があったの?」

 ちらりと透夜は屋敷のなかに目を遣った。
 冒険者たちが依頼を求めて掲示板の辺りをうろうろしてる。

「ああ、こっち来て」

 フリルのスカートをひるがえし案内してくれるメメについて、透夜は軋む階段を踏みしめ二階へと上がった。
 すぐにぴかぴか頭の支部長ボホもやってくる。
 報告書に目を落としたボホは、太い眉を顰めた。

「何があった?」

「暗殺者の襲撃が」

「は……!?」

 仰け反るメメとボホに、透夜は吐息する。

「帝太子狙いだった。つい、防いじゃって。いっぱい来たから、とりあえず全部昏倒させた。黒幕吐かせるために、殺してない。で、お礼をって言われたから『当然のことです』って逃げてきて、これだけしか書けなかった」

 あんぐり口を開けたボホとメメが顔を見合わせる。

「そ、それは……その、素晴らしいことをしたんじゃねえか?」

 ボホの言葉にメメもこくこく頷いてくれる。

「お茶会どころじゃないよ、きっと。中止になったと思うし、報告はこれでいいと思う。依頼人にも説明するよ」

「ありがとう。でも前金、派手に使っちゃった……」

 切ない顔になる透夜に、ボホもメメも引き攣った。

「……帝家から謝礼金は出ないのかな……」

 メメの言葉に首を振る。

「当然のことですからって断った。だって身バレする!」

「間違いないね」

 うむうむしたメメとボホが視線を交わす。

「じゃあ、この前のお詫びとして利子をつけずに貸し出すから、しばらく同盟の仕事を受けてくれないか?」

「そりゃ勿論!」

 拳を握る透夜に、ボホは声を落とした。

「ちっとやばい、裏の仕事は?」

 透夜は眉を顰める。

「暗殺? 俺ら『よい子の隠密団』だから、そういうのはちょっと……」

『よい子の暗殺団』は、なんかおかしい気がする!

「滅相もない、そんなんじゃねえよ! 迷宮とかには行けねえんだろ?」

 腕を組むボホに、残念な眉で透夜は頷いた。

「帝都から出られないんだよ。なんか透明な結界があって、バチンってなる」

「へえ!」

 メメとボホが声をあげる。

「知ってるのか!?」

 身を乗りだした透夜に、二人は頷いた。
 メメが指を掲げる。

「それ多分だけど、むかーしのさ、英傑って謳われる人が他国に流出しないようにって、大昔の魔導士が張った結界だよ。伝説になってる。まだ機能してるだなんて、すごいなー!」

「…………は?」

 あんぐり透夜が口を開ける。

「だから昔の英傑とおんなじくらい、強いってことだよ!」

 誇らしげに笑ってくれるメメに、首を振る。


「……いや、そりゃないだろ。だって皆、出られなかったぞ」

 顔を見合わせたボホとメメが、青くなってカタカタしてる。




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